入院高齢患者における身体拘束の原則
概要
・身体拘束(以下PR: physical restraint)は患者自身の安全を守る目的でしばしば病棟で行われる。しかし、そこには多くの専門的、法的、倫理的課題が介在する場合がる。
・身体拘束は訓練を受けた医療従事者によってのみ、患者またはその家族の同意を得て、標準的な方法と明確なガイドラインに基づき、かつ適正な管理下で実施されるべきである。
・身体拘束は患者の健康状態、認知機能、身体機能に影響を及ぼし、ひいては入院期間の有意な延長につながることが示されている。
背景
・2050年までに高齢者人口は約20億人に達すると推定されている。
・入院は様々な有害事象、安全上の問題に関連する。入院高齢患者のなかには認知機能障害やADL低下をきたしている人もいて、転倒/転落リスクやライン抜去など患者自身を傷害してしまうリスクを伴う。
・これらのリスクを最小化するために医療従事者は身体拘束を行うことがある。身体拘束の方法には手首や足首、胸部などに装着するベルトなどが含まれる。
・入院中の高齢者の身体拘束率は33~68%という報告もある。
・身体拘束は患者の安全を目的に実施されているが、不適切な実施は患者の安全をむしろ脅かし、深刻な身体的、精神的な合併症を引き起こし得る。身体的合併症としは褥瘡、骨折、不整脈、尿失禁、便失禁などが挙げられる。精神的な合併症としては不安、怒り、易怒性、自身喪失、せん妄、うつ病、抑うつなどが挙げられる。
・また倫理的ジレンマも介在し得て、自律性尊重に反する場合がある。そのほか入院期間の有意な延長、転倒、院内感染リスクも高まる。また、医療従事者においても罪悪感や道徳的苦痛などのネガティブな感情を引き起こすことがある。
・こういった背景をもとにガイドライン作成の必要性が増しているように思われた。
方法
・統合的文献レビューの手法を利用。
・目的は入院高齢患者における身体拘束の原則/原理を明確化すること。
・文献は英語およびペルシャ語で発表された論文で、各種データベース(PubMed, Web of Scienceなど)を用い、2010~2021年の文献を対象とする。
・データ評価:PRISMAガイドラインを用いて文献選定を行い、JBIなどを利用して質評価を行う。
・データ分析:類似するデータをカテゴリー化。
結果
・772件の文献を検索し、最終的に対象となったのは20件(全て英語文献)。文献が作成された国はアメリカ(n=12)、カナダ(n=3)、オーストラリア&ニュージーランド(n=2)、アイルランド(n=1)、トルコ(n=1)、シンガポール(n=1)であった。
・入院高齢患者に対する身体拘束の実施の原則としては、以下の6つのカテゴリーに分類された。
<①身体拘束に関する教育の原則>
・全ての医療従事者(医師, 看護師, 准看護師, 学生など)に対して身体拘束に関する教育を行うこと。
・医療従事者は患者の評価、身体拘束の利用、身体拘束後の評価などを行うための知識とスキルを身につけておくべきである。
・教育を行うことは身体拘束の必要性を最小限に抑えるために必要である。それはつまり、高リスク状況がどういう状況にあたるのかを理解することと似ている。
・教育は大学での教育課程、入職時、入職後のなかでオンサイトおよびオンラインコースの両方で実施されるべきである。教育は週1時間、月6時間など、定期的に提供することも検討される。
<②身体拘束の意思決定の原則>
・患者を評価し、病歴や臨床検査を実施し、全体像を把握する必要がある。
・病歴聴取では特に患者の身体的状況、精神的状況、転倒歴を慎重に把握するべきである。また、錯乱、徘徊、興奮、易怒性などをもたらす可能性のある原因をなるべくすべて特定し、効果的にマネジメントする必要がある。
・不必要な侵襲的処置や拘束は興奮や易怒性を助長させることがあるため、可能な限り速やかに中止するべきである。
・身体拘束には合理的な理由が存在するべきである。入院高齢患者で身体拘束を行う最も重要な要因としては、患者自身または他者への重大な傷害リスク、転倒、平衡感覚の喪失、デバイスの抜去(例: CVカテーテル, Aライン、気管チューブ)を防ぐためである。
・せん妄のマネジメントの一環や、スタッフ不足、患者への罰則として身体拘束を利用するべきでない。
・また、身体拘束を行うことによるリスクと行わないことによるリスクを比較検討するべきである。原則として患者安全の観点で、デメリットよりもメリットが大きい場合に実施が検討される。
・身体拘束を行う際には患者やその家族の同意を得るべきであり、その際には十分な説明が求められる。もしも医師が対応できない状況で、看護師が身体拘束を行わざるを得ない状況であった場合にはその後、なるべく早く医師の指示のもと、患者の家族に患者の状態を説明するべきである。
・身体拘束に関する意思決定においてはあくまでチームメンバーが協働で行うべきである。
<③身体拘束の実施に関する原則>
・身体拘束を実施するためのツールは標準的で、なるべく快適で安全で適切なサイズのものを利用する。衣類やシーツ、包帯で代用することは適切でない。
・可能な限り、最低限の拘束にとどめ、適度に身体アライメントを確保する。
・関節や骨突出部への負荷を軽減するための保護を行う。
・緊急時には容易に取り外せるようにするべきである。
<④身体拘束がなされた患者のモニタリングの原則>
・モニタリングは個別性に応じて、看護師によってなされるべきである。
・本プランでは患者の身体的および精神的状態を15~30分ごとに定期的に評価することが推奨されていた。
・モニタリング時には患者の呼吸器系、心血管系、皮膚、神経系、デバイスの状態を慎重に評価するべきである。また、怒りや恐怖などといった精神上の状態も評価対象となる。
・また、栄養、水分補給、排泄などに関する基本的欲求を満たすべきである。尊厳に関わる領域である。
・身体拘束は必要最小限とするべきで、必要性がなくなれば迅速に中止する。高齢者に対する身体拘束は4時間以上行うべきでないという報告もある。また、身体拘束を2時間行うたびに10~15分間ほど拘束を外し、慎重に評価するべきとされている。
・身体拘束に関連する合併症が生じた場合には迅速に身体拘束を中止するべきである。中止した後も24時間はそれに伴う合併症の有無などをモニタリングするべきである。
<⑤身体拘束の実施に関する記録の原則>
・身体拘束の実施理由、実施時間、拘束箇所、使用したツール、実施前後および最中のモニタリング結果、患者及び家族、代理人の同意、合併症の記録を適切に行うべきである。
<⑥身体拘束のマネジメントの原則>
・病院における身体拘束に関するマネジメントシステムを作成するべきで、その目的の一つは身体拘束を行わずにできる安全対策を施し、可能な限り非拘束的なケアを目指すことにある。
・病院管理者は入院高齢者における身体拘束の実施に関する全ての記録を定期的に確認/評価するべきである。
考察
・身体拘束の適切な使用と運用方法の確立が重要。
・医療従事者への教育不足は身体拘束の不適切な実施につながり得るため、教育は不可欠。
・意思決定に多職種での協働が重要で、単独判断は回避するべき。
・適切な記録が重要。
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<参考文献>
・Sharifi A, Arsalani N, Fallahi-Khoshknab M, Mohammadi-Shahbolaghi F. The principles of physical restraint use for hospitalized elderly people: an integrated literature review. Syst Rev. 2021 May 1;10(1):129. doi: 10.1186/s13643-021-01676-8. PMID: 33931096; PMCID: PMC8088072.