精巣上体炎 epididymitis

精巣上体炎とその疫学

・精巣上体炎(epididymitis)は感染性に発症する場合と非感染性に発症する場合とがある。

・精巣も同時に侵されるケースでは精巣精巣上体炎と呼ばれることもある。

・発症のピークは二峰性で16~30歳51~70歳が相当する。

臨床症状

・典型的には急性~緩徐発症片側性の精巣後部の疼痛を自覚する。

・疼痛はときに下腹部に放散し、下腹部痛を自覚することもある。羞恥心などで精巣の疼痛を伝えられないこともあるため、下腹部痛で来院し、精巣上体炎の可能性も考慮可能なケースでは精巣の診察も行うことが重要である。

・頻尿、排尿時痛などの膀胱刺激症状を伴うこともある。

・鑑別疾患としてフルニエ壊疽が挙げられる。フルニエ壊疽は会陰部の壊死性筋膜炎をいう。フルニエ壊疽では倦怠感や陰嚢不快感から始まり、その後、陰嚢痛、会陰部の色調変化と進行する。糖尿病、肝硬変、外傷歴、ステロイド治療歴などが併存することがある。肛門周囲膿瘍、会陰周囲の外傷、虫刺症、痔核などから細菌感染が拡大し、発症に至ることがある。抗菌薬治療のみでは軽快することは基本的になく、通常は外科医ドレナージを必要とするため、速やかな紹介を要する。

病因

・精巣上体炎のほとんどは逆行性細菌感染によって生じる。なお、結核菌(Tb)が原因菌となる場合があるが、その場合は血行性感染が主な感染のメカニズムとなる。

・起因菌は年齢Sexual activityによって異なる。年齢のみで区別することは困難であるが、一般論として35歳未満のケースでは淋菌(N.gonorrhoeae)、クラミジア菌(C.trachomatis)が主な起因菌となり、ときに腸内細菌科細菌が関係する35歳以上のケースでは腸内細菌科細菌が主な起因菌となる。なお、35歳以上では稀ながら結核菌(M.tuberculosis)、ブルセラ菌(Brucella属)、ムンプスウイルス、BCG、真菌症(ヒストプラズマ症, コクシジオイデス症)などが原因となる。結核菌による精巣上体炎では尿路から結核菌を分離することは容易でなく、ときに診断は困難である。

・小児の精巣上体炎ではウイルス性の発症も多く、エンテロウイルス、アデノウイルスなどが関連しやすい。

・特にアナルセックスを行うMSM(Men who have sex with men)では淋菌、クラミジア菌だけでなく、腸内細菌科細菌混合感染するケースがある。

・高齢者では前立腺肥大症(BPH)、尿路の外科的手術/処置、前立腺生検などを契機に発症することがある。

・非感染性の精巣上体炎の原因としてはBehçet病、外傷、サルコイドーシス、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(IgA血管炎)、薬剤性(アミオダロンなど)などが挙げられる。

身体診察

・精巣上体は後方から側方に位置していて、典型的には圧痛を伴う精巣上体の腫大が認められる。

・精巣上体炎では立位で精巣を他動的に挙上させると疼痛が軽減する(Prehn’s sign)。しかし、鑑別疾患として知られる精巣捻転症では挙上で疼痛が軽減されないことが特徴である。

・特に精巣捻転では発症6時間以内に手術を行うことが精巣を温存することにつながりやすいため、鑑別を適切に行う必要がある。なお、35歳以上では精巣捻転症を発症することは稀である。

・精巣上体炎では精巣が正常な位置にある。しかし、精巣捻転症ではより高い位置で横位となっていることが多い。

鼠径リンパ節の腫大/圧痛がみられることがある。

臨床検査

尿塗抹/培養検査は重要である。中間尿を利用して検査に提出するべきである。

・Sexual activityを有する患者では淋菌、クラミジア菌の検出を目的に尿検体を利用した各残増幅検査(PCR)を行うべきである。本検査の感度は高い。

超音波検査は精巣上体炎の特定と、精巣捻転症の除外に有用である。精巣上体の肥厚と血流増加がみられれば精巣上体炎が示唆される。精巣捻転症は超音波検査で典型的な画像所見が認められる場合もあるが、検者の技量にも左右されるため、病歴などと総合的に勘案して判断することが重要である。

治療

・特に淋菌およびクラミジア菌を原因とする精巣上体炎の治療の目標としては、①感染症の微生物学的治癒 ②自覚症状の改善 ③他者への感染伝播の予防 ④合併症(例: 不妊症, 慢性疼痛)の減少 が挙げられる。

・非薬物治療として安静臥床、陰嚢挙上、鎮痛剤を併用する。

・淋菌に対してはCTRXなどが、クラミジア菌に対してはDOXYやAZMなどが選択される。治療期間は10~14日間が標準的である。

・適切に培養検査を提出したうえで薬物治療を開始する。3日以内に臨床症状が改善しない場合には精巣上体炎の診断と治療の妥当性について再評価を行うべきである。この場合の主な鑑別診断としては精巣腫瘍、膿瘍形成、梗塞、結核感染症、真菌性精巣上体炎などが挙げられる。

・淋菌およびクラミジア菌による精巣上体炎であることが確認されたケースあるいはそれが疑われるケースでは、症状発現したタイミングから60日以内に性的接触をしたパートナーにも検査および治療を受けるように促すべきである。また、治療が完了するまで患者およびパートナーは性交渉を控えるようにしてもらう

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<参考文献>

・Taylor SN. Epididymitis. Clin Infect Dis. 2015 Dec 15;61 Suppl 8:S770-3. doi: 10.1093/cid/civ812. PMID: 26602616.

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