成人発症スティル病 AOSD: adult-onset Still's disease
成人発症スティル病とその疫学
・成人発症スティル病(以下AOSD: adult-onset Still’s disease)は20世紀初頭にはWissler-Fanconi症候群と呼ばれていたが、1897年にGeorge StillによりStill病と命名され、1971年にEric Bywatersによって詳細な記述がなされた。
・発症年齢としては15~25歳と35~45歳に二峰性のピークがある。男女差はほぼない。
・有病率は100万人あたり1~34人程度と推定されている。
・鑑別診断が幅広く、感染性疾患、腫瘍性疾患、自己免疫性疾患などを主に除外しなければならない。
・AOSDの病因は未だに不明であるが、ウイルス感染、遺伝的要因、サイトカインによる炎症惹起などが疾患の発症に関与していることが示唆されている。
・ウイルス感染では特にヒトパルボウイルスB19、風疹ウイルス、エコーウイルス7、EBウイルス、サイトメガロウイルス、コクサッキーウイルスB4などによる先行感染との間に時間的関係性が報告されているが、関連性が明らかとまでは言えない部分もある。
臨床経過/臨床症状
・典型的にはスパイク熱、多関節痛、発熱とともに出現する皮疹、咽頭痛(咽頭炎)がみられる。
・発熱は39度以上となることが典型的で、4時間未満ほど続くことが多い。また夕方に発熱が生じやすい。
・皮疹はサーモンピンク疹とも称され、発熱の出現と同期して主に体幹部と四肢近位部に出現する。解熱とともに消失することが典型である。
・初期症状としては咽頭痛が出現すると考えられている。この咽頭痛は輪状軟骨周囲の炎症による影響であると過去のMRIを用いた研究で示唆されている。
・多関節痛については主に手関節などの小関節において関節炎がみられる。ただし、急性期においては大関節でも関節炎がみられることがある。
・そのほか全身性リンパ節腫脹、筋肉痛、肝脾腫、心臓および呼吸器障害もみられる。
・呼吸器系の障害はAOSDの53%で認められ、肺炎、無気肺、強膜炎、びまん性肺胞出血などがみられ得る。
・皮膚症状は多彩で、血管炎を示唆するような紫斑、四肢遠位の小水疱性丘疹のほか、Köebner現象がみられることもある。
臨床検査
・WBC増多、好中球分画増加、ESR亢進、CRP上昇、肝機能障害、タンパクアルブミン乖離がみられる。
・ANAおよびRFは通常陰性である。
・ASTおよびALT上昇は比較的AOSDでみられやすい。
・関節痛などの全身症状の発現から滑膜炎の発現に至るまでは数週間のタイムラグが診られる場合がある。
・血清フェリチン高値はAOSDの特徴で、約70%のケースで認められる。ただし、その原因は明らかとなっていない。
診断
・診断には山口の診断基準が最も広く使用されていて、感度、特異度がともに90%以上と報告されている。
<AOSDの診断基準(山口基準)>
<大項目>
- 発熱(≧39度, 1週間以上)
- 関節痛(2週間以上)
- 定型的皮疹
- 80%以上の好中球増多を含む白血球増多(≧10,000/mm3)
<小項目>
- 咽頭痛
- リンパ節腫脹 and/or 脾腫
- 肝機能異常
- リウマチ因子および抗核抗体陰性
<判定>
大項目2項目以上を含み, 合計5項目以上でAOSDと分類する。ただし除外項目を除く。
<参考項目>
・血清フェリチン著増(正常上限の5倍以上)
<除外項目>
・感染症, 悪性腫瘍(リンパ腫など), その他のリウマチ性疾患(結節性多発動脈炎, 悪性関節リウマチなど)
臨床経過と予後
・AOSDの臨床経過は主に3タイプに分けられ、それぞれ予後も異なる。タイプとしては①self-limited型 or 単相型(monophasic)、②間欠型(intermittent) or 多相性全身型(polycyclic systemic)、③慢性関節型(chronic articular)に区別される。
・単相型と多相性全身型は慢性関節型よりもより一般的であることが知られている。
・単相型またはSelf-limited型は単一のエピソードと発熱、皮疹、漿膜炎、臓器腫大などの全身症状を特徴とし、19~44%のケースで2~4週間以内に完全寛解に至る。
・全体の10~41%を占める間欠型または多相性全身型は関節症状をときに伴い疾患が再燃することが特徴的で、その間には完全寛解がみられる。2週間~2年間ほどの完全寛解期をおいて、再燃が生じる。
・全体の35~67%を占める慢性関節型では主に関節症状がみられ、多発性かつ左右対称性のパターンを示しやすい。発症時に多発関節炎や肩関節や股関節などにおける症状を有する患者では比較的予後が不良である。
・ごく稀であるが、AOSDでは眼症状もみられる。特に乾燥症状や眼窩炎症性偽腫瘍がみられる。
合併症
・重篤な合併症としてマクロファージ活性化症候群(MAS)が知られ、死亡率は10~22%と報告されている。
・MASの臨床診断は血清フェリチン著増、凝固異常、フィブリノーゲン低値、血小板減少、肝機能障害、高TG血症などに基づいて行われ、骨髄生検で確認が可能。
・MASの基礎疾患としてAOSDはSLEに次いで多い。
治療
・AOSDの治療の多くは小規模レトロスペクティブ研究の結果に基づいている。
・急性期の第一選択の治療法としてはステロイド全身投与が挙げられ、PSL 0.5~1.0mg/kg/dayで治療することも多い。症状が改善し、検査結果なども加味し、PSLの漸減を図る。
・診断が確定するまでの間はステロイド投与を避け、アセトアミノフェンやNSAIDsで対処することもある。
・そのほか生物学的治療なども検討されることがある。詳細は割愛する。
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<参考文献>
・Kadavath S, Efthimiou P. Adult-onset Still's disease-pathogenesis, clinical manifestations, and new treatment options. Ann Med. 2015 Feb;47(1):6-14. doi: 10.3109/07853890.2014.971052. Epub 2015 Jan 22. PMID: 25613167.
・Gerfaud-Valentin M, Jamilloux Y, Iwaz J, Sève P. Adult-onset Still's disease. Autoimmun Rev. 2014 Jul;13(7):708-22. doi: 10.1016/j.autrev.2014.01.058. Epub 2014 Mar 19. PMID: 24657513.
・Giacomelli R, Ruscitti P, Shoenfeld Y. A comprehensive review on adult onset Still's disease. J Autoimmun. 2018 Sep;93:24-36. doi: 10.1016/j.jaut.2018.07.018. Epub 2018 Aug 1. PMID: 30077425.