急性アルコール中毒/アルコール摂取に伴う代謝異常(AKAなど)
急性アルコール中毒
・急性アルコール中毒はアルコール摂取により引き起こされる病態を指し、臨床的に診断される。
・救急外来では補助的に血中アルコール濃度(BAL: blood alcohol levels)が測定されることもある。
・中毒症状の程度と持続時間はアルコールの体内での吸収率、代謝、排泄により左右される。エタノールは消化管から吸収され、数分から数時間以内に循環血液に達する。純アルコール14g相当を摂取することで血中アルコール濃度は25mg/dL上昇するといわれている。ただし、飲酒による症状は個人によって異なり、臨床症状や印象から血中アルコール濃度を予測することは困難である。
・エタノールへの長期的かつ慢性的な曝露は肝臓の分解酵素の活性を誘導する。したがって、慢性的に飲酒をする人ではアルコール分解が促進されやすい傾向にある。慢性的な飲酒をしない人では15mg/dL/hr程度の早さでエタノールが消失していくが、常用している人では25mg/dL/hrの早さとなっていたという報告もある。もちろんクリアランス能力は個人差や人種差が大きいため、一概にはいえない。なお、救急外来患者に限定した観察研究では常用者のエタノールクリアランスの早さは18~20mg/dL/hrでさほどばらつきもなかったと報告されている。
・エタノール排泄を促進させる方法として、ナロキソン、フルマゼニル、輸液などの方法の有効性が検討されてきた経緯がある。しかし、時間経過を待つこと以外に有効性が示された方法はない。あくまで意識状態がはっきりして、判断能力が回復して安全に退院できるまでは適切な支持療法を行うことが重要である。
アルコール摂取と内分泌代謝
・アルコールは内分泌機能に影響を及ぼす可能性があり、具体的には性腺機能、骨/ミネラル代謝異常、グルココルチコイド分泌に影響を及ぼし得る。
・またアルコールを常用し、食事摂取などをしないケースでは低血糖症のリスクが比較的高い。
低ナトリウム血症(Beer potomania)
・1971年のケースシリーズにおいてBeer potomaniaは初めて報告されていて、栄養補充が不十分なアルコール常用者においてみられるアルコール性低ナトリウム血症を指す。
・大量のビールを単独で摂取すると、Naとタンパク質が全体的に不足する。低張なビールを大量に摂取したあとの水分排泄量を腎において調節ができず、自由水が貯留し、希釈性の低ナトリウム血症が出現するという論理である。
・症状としては意識障害、局所の神経症状、痙攣などの神経学的異常を伴うことが多い。なお、急性アルコール中毒、離脱症状でも同様に意識障害などの症状がみられることがあることに留意する必要がある。
・Beer potomaniaでは重度の低ナトリウム血症がみられることもあり、98mg/dLまで低下していたという報告もある。K値は通常、低値を示すが、ほとんどの患者で体液量がEuvolemicな状態にあるため、血中BUNやCrは基準値内である。
・尿検査では尿浸透圧低値、尿中Na低値が確認できる。
・その後のマネジメントの要は血管内の溶質量を増やすことにある。Beer potomaniaの患者ではhypovolemiaな状態にないため、低ナトリウム血症の急激な是正は浸透圧性脱髄症候群(ODS)のリスクを高める可能性がある。ある報告では2~3Lの等張液と単純な水分制限とによる症状改善がみられるとされている。なお、無症候性低ナトリウム血症の場合は水分制限による治療のみで改善できることが多い。
<アルコール常用者での低ナトリウム血症の主な原因>
・循環血液量減少(hypovolemia)
・Beer potomania
・偽性低ナトリウム血症(∵高Tg血症, 高蛋白血症)
・SIAD
・心筋症
・肝硬変
・中枢性塩類喪失症候群(CSWS)
低マグネシウム血症
・アルコール使用障害患者において低Mg血症は一般的な電解質異常である。
・様々な原因により生じ、食事摂取不足による影響、消化管での吸収不良、尿中排泄量の増加、ケトーシス、ビタミンD欠乏などが考えやすい。
・臨床的には筋力低下、腱反射亢進、QT延長などがみられ、不整脈を惹起しやすくなることに注意を要する。低Mg血症を契機として、後天性QT延長症候群からTdP(Torsades de pointes)が誘発されることもある。その場合はマグネシウム静注が検討される。
アルコール性ケトアシドーシス
・非糖尿病患者におけるケトアシドーシスは1940年に初めて報告され、報告者はアルコールを直近で摂取した好発していることを指摘していた。その後、1971年にJenkinsらによりアルコール性ケトアシドーシス(以下AKA: alcoholic ketoacidosis)という用語が使用された。
・アルコール摂取は通常、AKA発症の数日前に終えているため、血中アルコール濃度の測定はしばしば異常値を示さない。
・病態生理としてはまず大量のアルコール摂取に伴い、タンパク質と炭水化物の摂取量が減少すると、体内のグリコーゲンが消費されることとなる。さらに肝臓のアルコールデヒドロゲナーゼがエタノールを酸化させ、アセトアルデヒドに変え、NAD+がNADHへ還元されるのが促進される。NADH濃度が高くなることで、糖新生が阻害され、遊離脂肪酸が生成される。カテコラミンの急増とインスリン分泌抑制とが結果としてグルカゴン分泌を促し、脂肪酸はケトン体への変換を余儀なくされ、ケトーシスが生じることとなる。
・アセトアルデヒド、アセトン、β-ヒドロキシ酪酸(β-OHB)は全て上昇する。なかでも特にβ-OHBが優位に上昇しやすく、DKAよりもはるかに高い濃度でβ-OHBが存在するのが特徴とされている。
・ケトーシスの程度が強いと、アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスが生じる。このアシドーシスは乳酸アシドーシスが併存することでより悪化しやすい。
・症状としては腹痛、悪心、嘔吐の3症状が主である。そのほか頻呼吸、頻脈、体液量減少による血圧低値も認められる。
・糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の患者と同様に腹部診察では筋性防御を欠いた腹部の圧痛が認められる。
・治療としてはグルコースを含む等張液による体液量補充を行うことで、グルコース非含有の補液を行った場合よりも、ケトアシドーシスの改善が早まるという報告がある。なお、以前はインスリンや重炭酸塩が使用されていたこともあったが、これらの治療法は推奨されていない。
アルコール性脳症
・ビタミンを含む食品の摂取をあまりせずに、アルコールを常用することでチアミン(ビタミンB1)欠乏症による脳症のリスクが高まる。
・1880年代にWernickeは錯乱、運動失調、外眼筋麻痺を特徴とする症候群について記述し、1990年代なかばに特徴的な脳病変が指摘されたことで、Wernicke脳症(以下WE: Wernicke encephalopathy)と呼ばれるようになった。
・ビタミンを含む食品やサプリメントを摂取しない日が続く場合、2~3週間ほどで体内のチアミンは枯渇する。
・アルコール常用者ではチアミンの摂取不足、吸収率の低下、貯蔵能低下によりウェルニッケ脳症発症のハイリスク者に相当する。
・ウェルニッケ脳症の詳細は別の記事にまとめてあるため、ここでは割愛する。
――――――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Allison MG, McCurdy MT. Alcoholic metabolic emergencies. Emerg Med Clin North Am. 2014 May;32(2):293-301. doi: 10.1016/j.emc.2013.12.002. Epub 2014 Feb 19. PMID: 24766933.