ナルコレプシー/日中の眠気 narcolepsy
ナルコレプシーとその疫学
・ナルコレプシー(narcolepsy)は慢性経過の過剰な眠気の原因の一つで、地域によって疫学は異なるが、約2,000人に1人が罹患しているという報告もある。
・疾患頻度が低いとはいえないにも関わらず、症状発現から診断までの平均期間は5~15年である。このことには疾患の認知度などの問題があると考えられている。
・ナルコレプシーは2つの病型に区別できる。Type 1は神経ペプチドのオレキシンAおよびBを生成する視床下部ニューロンの障害により生じるものを指す。Type 2はほとんど同様の症状を呈しながら、その原因が不明なものを指す。なお、多くはType 1である。
臨床症状/臨床経過
・ナルコレプシーは通常、10~20歳頃に発症し、持続的な日中の眠気が突然始まる。ただ、徐々に眠気が顕在化するケースもある。
・ナルコレプシー患者の多くは眠気が強く、学校や職場、活動していない間(例: 映画鑑賞中)に集中したり起きていたりすることが困難となる。多くのケースで学校での成績低下、仕事でのパフォーマンス低下、交通事故などの深刻な問題が生じて初めてナルコレプシーが想起される。
・ナルコレプシーによる過度な日中の眠気は、特にTeenagerにみられる睡眠不足に伴う眠気と区別が困難に思われることもあるが、ナルコレプシー患者ではたとえ十分な睡眠時間を確保できていても、連日日中の眠気が生じることが特徴である。
・睡眠の質が不良な閉塞性睡眠時無呼吸症候群などの患者とは対照的に、ナルコレプシー患者では通常、一晩十分に眠ったり、昼寝をしたりすると、すっきりした気持ちになるが、しかしその1~2時間後には再び強い眠気に襲われることが典型的である。
・ナルコレプシーはREM睡眠の制御障害を特徴する疾患である。REM睡眠はいきいきとした物語のような夢、急速な眼球運動、呼吸筋以外の全ての筋肉の麻痺を伴う状態である。ナルコレプシー患者では1日のどの時間帯においてもREM睡眠が発生してしまう。
・このREM睡眠に類似した状態のなかでも最も目立つ症状がカタプレキシー(脱力発作)であり、随意筋が部分的or完全に突然麻痺するものを指す。カタプレキシーは通常、強い感情が生じた際に引き起こされる。多くの場合は冗談をきいて笑ったり、予期せず友人に出会ってポジティブな感情が生じたりしたときに引き起こされる。しかし、患者によっては怒りなどのネガティブな感情でも生じ得る。
・カタプレキシーによる麻痺は数秒かけて徐々に進行する。まずは頭頚部に生じ、次に体幹/四肢の筋力が低下する。ただし、呼吸筋は影響を受けることはない。部分的なカタプレキシーでは呂律がまわらない話し方になったり、顔面がたるんだりすることが一般的である。完全なカタプレキシーでは地面に倒れ込み、意識ははっきりしているものの、1~2分間は全く動けなくなる。
・またナルコレプシーでは入眠に入ってからすぐに幻覚を経験することがある(入眠時幻覚)。典型的には脅威を感じるような見知らぬ人物がいたり、動物に襲われたりするような幻覚を経験する。なお、カタプレキシーと同様に、入眠時幻覚や睡眠麻痺が1~2分以上続くことは稀である。ただし、入眠時幻覚や睡眠麻痺は一般人口の約20%で時折経験されるため、必ずしもナルコレプシーに特異的な病歴とはいえないことに注意する。
・ナルコレプシー患者は1日中眠気を感じていることが多いが、夜間には断続的な睡眠になることが多く、睡眠導入剤を必要とすることも少なくない。また、代謝率が低いことも影響し、体重が増えやすいことも知られている。
・ナルコレプシー患者では閉塞性睡眠時無呼吸、夜間ミオクローヌス、夢遊病、REM睡眠行動異常症(RBD)などを合併しやすい。
・またうつ病も合併しやすいことが知られている。
診断
・ナルコレプシーは病歴から明らかな場合が多いが、終夜睡眠ポリグラフィー検査と翌日の反復睡眠潜時検査が診断に不可欠である。
・終夜睡眠ポリグラフィーは断続的な浅い眠りと、REM睡眠への早期移行(入眠後15分以内)が認められることがある。
・仮眠の機会を与えると、ナルコレプシー患者では通常8分以内に眠りにつけられる。一方で、健常者では通常15分以上かかると報告されている。睡眠潜時試験(入眠までの時間が短いことや少なくとも2回の昼寝でREM睡眠がみられること)で陽性となった場合には客観的にREM睡眠が制御できていないことが示される。なお、健常者では日中にREM睡眠がみられることはほとんどない。
・REM睡眠を抑制する薬剤は検査以前に中止するべきであり、例えば半減期の長い抗うつ薬を使用している場合には3週間以上前から中止することも検討される。また他の向精神病薬なども1週間前から中止すべきである。
・持続的な強い眠気は他の疾患でも生じるため、それらも適切に除外することが重要である。
<日中の眠気の鑑別疾患>

治療
・ナルコレプシーの治療には行動療法と薬物治療の併用がなされる。
・日中の眠気に関しては夜間に十分かつ良質な睡眠をとりつつ、午後に15~20分間の昼寝をすることで、しばしば部分的に症状が軽減する。
・患者に閉塞性睡眠時無呼吸などの睡眠障害の併存がある場合にはそちらのマネジメントも最適化することが望ましい。
・薬物治療ではmild~moderateな昼間の眠気に対して、モダフィニル(モディオダール®)が用いられる。モダフィニルはドパミン再取込みを減少させることで覚醒を改善させる。メチルフェニデート(コンサータ®/リタリン®)などはモダフィニルよりも効果が高いが、副作用もより目立ちやすい。なお、Epworth眠気尺度(ESS)は主観的な眠気と薬剤への反応性を評価するために役立つことがある。
・カタプレキシーは抗うつ薬の低用量投与で軽減することが多い。徐放性ベンラファキシン(イフェクサー®)が使用されることがある。そのほかクロミプラミン(アナフラニール®)はカタプレキシーをときに強力に抑制するため、たとえばパーティや結婚式などのカタプレキシーを起こしやすいイベント前に服用することが非常に有効とされる。ただし、クロミプラミンは抗コリン作用の副作用に注意が必要である。なお、突然の断薬は反跳制カタプレキシーを惹起するため、漸減することが重要である。
・入眠時幻覚と睡眠麻痺は主に患者教育により対処される。ただし、症状が重度な場合には同様に抗うつ薬により症状が軽減する場合もある。
・ナルコレプシー患者では適切な生活指導、薬物治療を行っても日中の眠気などの症状は残ることが多い。そのため、患者やその家族と生活スタイルの修正などについて話し合うこともときに重要である。また、ナルコレプシー患者の交通事故リスクは通常の3~5倍に増加することが知られているため、運転前に薬剤を内服したり、運転時間を短くしたり、あるいは運転そのものを一切しないという方法もときにとらざるを得ない。
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<参考文献>
・Scammell TE. Narcolepsy. N Engl J Med. 2015 Dec 31;373(27):2654-62. doi: 10.1056/NEJMra1500587. PMID: 26716917.