急性尿細管壊死 ATN: acute tubular necrosis

急性尿細管壊死とその疫学

・急性尿細管壊死(以下ATN: acute tubular necrosis)は入院患者やICU入室患者で比較的よくみられる疾患である。腎不全を発症した入院患者の38%、腎不全を発症したICU入室患者の76%を占めるという報告もある。

感染性、中毒性、虚血性などによる障害の結果として生じることが多い。入院患者におけるATNは虚血性あるいは中毒性に生じていることが多い。

原因が除去されれば可逆性の経過をたどり得る疾患であり、完全回復に至る割合は56~60%と報告される。ただし、併存疾患や重症度によっては腎機能の回復に至らないこともあり、最終的に5~11%の患者で維持透析を必要とする。

・ATNはGFRの急激な低下、窒素性老廃物(Cre, BUNなど)の蓄積、電解質異常、酸塩基平衡異常、体液量過剰などによって特徴づけられる疾患で、統一された診断基準はない。

・ATNの死亡率上昇と関連する要因としては男性、高齢、併存疾患の存在、悪性腫瘍、乏尿、敗血症、人工呼吸器の利用、多臓器不全などが特定されている。

・BUN値は外因性尿素負荷(exogenous urea load)、内因性尿素産生(endogenous urea production)、尿細管再吸収(tubular reabsorption)によって規定される。

血清BUN値および血清クレアチニン値の解釈における注意点

・細胞外脱水などによる腎前性AKIでは腎髄質集合管における尿素の再吸収が亢進し、BUN/Cre比が上昇する。

・筋肉中のクレアチン量は一定であるため、生成されるクレアチニンも一定であることが原則であるが、横紋筋融解症などの蛋白異化亢進状態にある病態では血清クレアチニン値は上昇する可能性がある。

・積極的な水分補給は希釈性に血清クレアチニン値を低下させる可能性がある。

・シメチジン、トリメトプリムなどの薬剤はクレアチニンの尿細管における分泌を阻害する作用があるため、実際にGFRに変化がなくても血清クレアチニン値は上昇する。

ATNの診断の遅れ

・GFRなどのマーカーに過度に依存した臨床判断などによりATNの診断や重症度の評価が遅れる可能性がある。

乏尿を認めないケースではATNの重症度の認識が遅れる可能性が指摘されている。なお、非乏尿性ATNは乏尿性ATNに比して予後が改善する可能性が高い。

・ATNの可能性を早期から認識することで、体液量過剰につながるような晶質液投与を回避できる場合がある。過剰な体液量は死亡率上昇につながる可能性がある。

診断

・表にまとめたような検査異常は腎前性AKIとの区別に有用な場合がある。

・横紋筋融解症、ミオグロビン尿症、溶血、敗血症、肝硬変、心不全、造影剤腎症を伴うATNでは尿中Na濃度(U-Na)が低値(例: <10mEq/L)、FENa低値(例: <1.0%)となり得ることが知られている。

・尿沈渣で尿細管上皮細胞や顆粒円柱、褐色顆粒円柱が認められればATNの診断に有用である。しかし、ATNの診断においてゴールドスタンダートは存在しないため、あくまで病歴、身体所見、検査所見から総合的に判断することが重要である。

・そのほか尿中β-MG、尿中NAGなども尿細管障害のマーカーとして知られる。ただし、糸球体障害でも高値となること、腎機能にも影響を受けることことにも留意して検査値を解釈する必要がある。

 <腎前性AKIと腎性AKIの主な鑑別点>

治療

・ATNはICU入室患者などで頻度が高く、死亡率も低いとはいえないことから、ATNの発症予防、症状の持続期間や重症度を低減させる方法を検索するためのRCTが今後求められる。

・急性腎不全が発症した後に介入を開始するケースで、ドパミンやループ利尿薬などの投与により乏尿性腎不全から非乏尿性腎不全に変わったとしても、急性腎不全の持続期間、透析の必要性、生存率には影響を及ぼさないことが明らかとなっている

・心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP)あるいはプラセボ薬を無作為に割り付けられた、ATNの診断が確立した患者53人を対象にした研究ではhANPの静注によりクレアチニンクリアランスは改善し、透析の必要性が減少したと報告されている。しかし、その後のより大規模なRCTでは前述のポジティブな結果は認められなかった

・結果として現時点でATNに有効性が確立した治療法はないため、適切な支持療法が基本となる。つまり、NSAIDs、腎障害を惹起する抗菌薬、造影剤などの使用は可能な限り回避し、適切に血行動態を確保し、腎灌流圧を維持することが治療の要となる。

・体液量減少、透析、敗血症、心機能障害、麻酔、降圧薬の使用による降圧は腎灌流を低下させ、ATNからの回復を遅らせ、死亡率を上昇させる可能性がある。

・α受容体刺激薬は腎動脈を収縮させるため、ATNからの回復を遅らせる可能性がある。なお、血管拡張がみられる敗血症患者ではバソプレシン(AVP)は腎動脈を過収縮させることなく、体血管抵抗を増加させられる可能性がある。なお、現時点で低用量ドパミンによる腎血流量の確保がATNのマネジメントにおいて有効というエビデンスはない

・筋肉などの蛋白の異化亢進を誘発させないためにも適切な栄養療法が推奨される。腸管を利用可能な場合は原則、中心静脈栄養(TPN: Total parenteral nutrition)などよりも経腸栄養を優先させる。経腸栄養は非経腸栄養に比して、栄養指標の改善と感染症合併率および敗血症発症率の減少に関連していることが示されている。

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<参考文献>

・Esson ML, Schrier RW. Diagnosis and treatment of acute tubular necrosis. Ann Intern Med. 2002 Nov 5;137(9):744-52. doi: 10.7326/0003-4819-137-9-200211050-00010. PMID: 12416948.

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