黄色ブドウ球菌性菌血症 SAB: s.aureus bacteremia

黄色ブドウ球菌菌血症とその疫学

・黄色ブドウ球菌(S.aureus)は粘膜、皮膚、消化管に定着している。特に鼻腔内保菌が最も一般的で、糖尿病、透析、HIV感染症などによってその保菌率は増加する。

・先進国における黄色ブドウ球菌菌血症(以下SAB: S.aureus bacteremia)の年間発症率は人口10万人あたり約50例とされ、死亡率は20~30%に及ぶという報告もある。

微生物学

・黄色ブドウ球菌はグラム陽性球菌(GPC)の一つであり、Coaglaseを有する。通常、Coaglaseはフィブリーゲンと相互作用を生じ、結果として強固なバイオフィルムを形成する。

・また一部の黄色ブドウ球菌は顆粒球破壊に関連するPVL(Panton-Valentine Leukocidin)を産生することも知られている。PVLが存在すると炎症反応が高くなりやすく、また白血球減少がみられる患者では重症例になりやすい。

・PVLを産生する黄色ブドウ球菌に対してはRFP、CLDMまたはLZDなどの補助的な毒素産生抑制作用を有する抗菌薬の使用が有効であることがin vitroでは示されている。ただし、in vivoでも同様に有効であるかどうかについては明確に示されていないことに留意する。

黄色ブドウ球菌の血液培養に関する解釈

・原則として黄色ブドウ球菌が血液培養から検出された場合はコンタミネーションとみなさず、真の菌血症として対応することとなる。なお、黄色ブドウ球菌によるコンタミネーションのリスク因子は十分に解明されていない。一部の専門家は黄色ブドウ球菌によるコンタミネーションが皮膚疾患(例: 乾癬, 湿疹)を有する患者でより多くみられやすいと指摘している。臨床的にコンタミネーションが疑われる場合には臨床的に慎重な経過観察と血液培養の再検が推奨される。

血液培養が陽性になるまでの所要時間はブドウ球菌の菌腫、重症度、原因の予測に役立つことがある。たとえば24時間後にGPCが1本/4本で陽性となる場合にはCNS(Coaglase negative staphylococcus)である可能性が高い。一方で、黄色ブドウ球菌が14時間以内に陽性となる場合には真の菌血症、持続性菌血症、遠隔感染巣の形成リスク上昇と関連していることが知られている。また、中心静脈(CV)から採取した方の血液培養ボトルが、末梢血から採取した方の血液培養ボトルよりも2時間以上早く陽性となる場合にはCRBSIが疑われる(DTP陽性)。

SABのマネジメント

全てのSAB症例において、①経験的抗菌薬治療 ②スクリーニング的な心エコー検査 ③感染巣と遠隔感染巣の特定 ④抗菌薬による治療期間の決定 ⑤感染症専門医へのコンサルテーション が行われるべきである。診療フローは以下の図にまとめたとおりである。

 <SABの診療フロー>

SABに対する経験的治療

・培養検査結果が判明していない時点ではMRSAが関与している可能性も想定して、CEZ+VCM(or DAPT)で治療を行うべきである。そして、後に判明する培養結果と薬物感受性試験結果を加味して、適切にDe escalationをすることが重要である。

・なお、VCMもMSSAに対して有効であることが多いが、MSSA菌血症に対してVCMによる単剤治療は、β-ラクタム系抗菌薬による単剤治療(通常CEZ)と比べて、より不良な転帰とつながりやすいことが知られているため、推奨されない。

 <MSSA菌血症>

・通常はCEZが第一選択薬となる。

・ほかにもPIPC/TAZやCEZ以外のセファロスポリン系抗菌薬もMSSAに対して抗菌活性を有するが、MSSA菌血症に対してそれらの薬剤を使用することは死亡率上昇や予後悪化に関連することが知られているため、CEZの使用を原則とする

・例外として、発熱性好中球減少症(FN)と複数菌による感染症が合併した場合には広域スペクトラム抗菌薬の使用が、CEZよりも優れる場合がある。

・なお以前、CEZは中枢神経系への移行性が不良ということが定説であったが、最近はこの定説が見直されていて、中枢神経系の合併症を有するMSSA菌血症においてもCEZは有効な治療法と強調されている

 <MRSA菌血症>

・MRSA菌血症には臨床状況に応じて、VCMあるいはDAPTの静注が行う。

・VCMの用量の設定はときに容易でなく、宿主の分布容積と腎機能に依存する。以前はVCMのトラフ値を15~20mg/Lに維持することが重要と考えられていたが、現在はVCMの毒性を最小限に抑えるためにAUC 400~600mg/h/Lとなるように管理することを推奨されている。

・なおAUCのモニタリングが困難な状況ではDAPTの使用も検討可能である。DAPTは黄色ブドウ球菌の細胞壁を破壊する抗菌薬である。MRSA菌血症を対象にした研究ではVCMに対して非劣性であることが示されている。なお、VCMに関するMIC≧2という状況のMRSA菌血症に対してもDAPTの使用は許容される。なお、DAPTはMRSA肺炎には無効であることに留意する。

・LZDはMRSAによる髄膜炎、皮膚軟部組織感染症、肺炎に対する有効性が認められているが、MRSA菌血症に対する使用に関してはVCMやDAPTと比較すると、死亡率が高くなることが判明している。したがって、MRSA菌血症には原則としてVCMかDAPTの使用が推奨される。

心エコー検査

・SAB患者に対する心エコー検査の実施は推奨される。

・まずは非侵襲的に経胸壁心エコー検査(TTE)が実施されることが多い。経食道心エコー検査(TEE)は黄色ブドウ球菌性感染性心内膜炎の診断において、TTEよりも感度が高いが、両者の特異性については専門家の間でも意見が様々である。

人工弁または心臓内デバイスが存在している患者ではTTEよりもTEEの実施が推奨されている。

・SAB患者で、6週間以上の抗菌薬治療を必要とする患者ではTTEが実施できるのであれば、通常TEEは不要とされる。

・補助的に心臓MRI撮像、心臓CT撮像、PET-CTなどの画像検査も使用できる。

・治療終了時の心エコー検査の実施に関する推奨事項はないが、再発リスクが大きいと思われる一部の症例では再検することが推奨される。

ソースコントロールと遠隔感染巣の評価

・SABの感染源と合併症(遠隔感染巣)を特定することは治療方針の決定において重要。

直近の処置歴/手術歴、外傷歴、基礎疾患を把握することで感染源を疑えることがある。また、体内の人工物の有無に関する評価も重要である。

・SABの一般的な原因はCRBSI皮膚軟部組織感染症である。ただし、SAB患者の40%以上では明らかな感染巣を特定できないと報告されている。なお、肺炎、骨関節、血管内が感染源となるケースも頻度は低めながら経験する。ただし、尿路感染症は感染源としては稀である。

・SAB患者では関節、脊椎、内蔵(肝臓など)への播種が一般的であるため、入念な身体診察とそれに基づく検査の実施が必要である。

・脊椎の触診も同様に重要である。身体所見が判然としない場合でも疑う所見がわずかでもあれば、脊椎のMRI撮像は検討される。急性化膿性椎間板炎は遅れて信号変化が出現することもあるため、画像所見がみられなくても臨床的に疑える場合にはMRI撮像の再検を行う。

・持続性菌血症などが存在する状況で、遠隔感染巣が指摘できない場合などではPET-CTは有用な場合がある。ただし、コストや被爆を伴う点からルーチンでの実施は少なくとも推奨されない。

・SABではソースコントロールを行うことで、菌血症の治癒が早まり、死亡率も低下する。中心静脈や心臓内デバイスなどは可能な限り除去することが望ましい

化膿性関節炎硬膜外膿瘍が確認された場合にはドレナージと感染組織除去のための治療について専門診療科へのコンサルテーションが必要となる。同様に、筋肉や腹腔内への播種が認められる場合にも迅速な外科的介入が重要となる。

・心臓血管外科へのコンサルテーションは黄色ブドウ球菌性感染性心内膜炎では全例で重要と考えられている。

治療期間

血液培養の陰性化を確認するまで48時間ごとに血液培養を採取しなおすこととなる。

・Uncomplicated SABでは血液培養の陰性化が確認できた日を第0日として最低2週間の抗菌薬静注が必要である。なお、Complicated SABとUncomplicated SABの違いは図に示したとおりである。

Complicated SABでは血液培養の陰性化が確認できた日を第0日として最低4週間の抗菌薬静注が必要となる。また、感染性心内膜炎あるいは骨髄炎などの深在性感染症を合併している場合には6週間の治療が推奨される。

感染症専門医へのコンサルテーション

・SABの全例で感染症専門医へのコンサルテーションが行われることが推奨される。これはそのことにより予後改善につながりやすいことが知られているためである。

・感染症専門医へのコンサルテーションを行うことでその後、少なくとも5年間は患者の予後改善に寄与するということが示されている。また、電話によるコンサルテーションよりも、ベッドサイドでの直接的なコンサルテーションの方が死亡率は顕著に低下することが示されている。

・感染症専門医へのコンサルテーションが予後を改善させる具体的なメカニズム/理由は明らかにはなっていない。

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<参考文献>

・Lam JC, Stokes W. The Golden Grapes of Wrath - Staphylococcus aureus Bacteremia: A Clinical Review. Am J Med. 2023 Jan;136(1):19-26. doi: 10.1016/j.amjmed.2022.09.017. Epub 2022 Sep 28. PMID: 36179908.

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