急性四肢虚血 acute limb ischemia

急性四肢虚血の疫学/身体所見/リスク因子

・急性四肢虚血(acute limb ischemia)は四肢の灌流が短期間で減少する状態を指す。また、虚血期間が2週間を超える、慢性四肢虚血とは区別される。

・発症率は年間1万人あたり約1.5例とされている。

・症状は数時間から数日間で出現し、安静時の四肢の疼痛、感覚異常、筋力低下などが生じる。

・身体診察では閉塞部より末梢の脈拍減弱/消失、末梢冷感、皮膚蒼白、網状皮斑がみられ、筋力低下、知覚低下がみられる。

・急性四肢虚血での6Pと呼ばれる所見が知られ、Paresthesia(感覚異常)、Pain(疼痛)、Pallor(蒼白)、Pulselessness(脈拍減弱/消失)、Poikilothermia(冷感)、Paralysis(麻痺)がそれに相当する。

慢性四肢虚血では狭窄した血管を迂回する側副血行路が形成されることがあるが、急性四肢虚血では側副血行路が形成される時間的余地がなく、ときに四肢を温存することが困難となる。温存能を高めるためには四肢虚血を早期に認識し、速やかに再灌流療法を行うことが重要である。

・急性四肢虚血の原因としては四肢の動脈血栓症、心臓や動脈に由来する塞栓症、動脈解離、外傷、血管攣縮、コンパートメント症候群、Phlegmasia cerulea dolens(有痛性青股腫と呼び、下肢に重症のDVTが生じ、下肢腫脹により血流障害が生じる病態)、薬剤性(例: 血管収縮薬)、静脈出血などが挙げられる。また、人工血管が留置されている場合には血栓形成素因がないケースであっても人工血管に血栓が形成され得る。

・心房細動、急性心筋梗塞、左室機能不全、抗凝固療法を受けていない人工心臓弁を有する患者などでは特に塞栓性病態が疑われる。

・四肢切断に至るケースでは膝上で切断せざるを得ないことも稀ではない。

アセスメント

・前述のように四肢の綿密な診察を行い、皮膚所見(前述の6Pや網状皮斑など)の観察を行う。

・下肢では大腿動脈、膝窩動脈、足背動脈、後脛骨動脈を、上肢では上腕動脈、橈骨動脈、尺骨動脈の触診を行い、減弱や消失について評価する。

・特に足背動脈、後脛骨動脈、橈骨動脈、尺骨動脈に関してはドップラー血流音の有無を確認する。血流音が確認できる場合に血流障害が疑われるすぐ近位側の足首や手首に血圧計カフを装着し、灌流圧を測定することがdけいる。灌流圧が50mmHg未満の場合は四肢虚血が示唆される。

急性四肢虚血の重症度/画像検査

・急性四肢虚血は臨床症状と予後によって重症度が規定される。

StageⅠ~Ⅱaでは閉塞の性質と程度を判断し、治療法を検討するための画像検査(超音波検査, CTA, MRA)を行うことが妥当とされる。これらの画像検査は慢性動脈疾患に関して感度および特異度が90%超と報告されている。

・不可逆的な傷害を受けるStageⅢでは再灌流療法は適応されないこともある。

治療

・急性四肢虚血は血管内治療あるいは開腹手術による再灌流療法が実施される。

・カテーテルを用いた血管内治療の目的は温存可能な四肢をサルベージすることにある。

・治療の詳細は割愛する。

再灌流に伴う傷害(Reperfusion injury)

・再灌流によりコンパートメント圧が急激に上昇し、患肢が著明に腫脹することがある。

・症状としては患肢の激しい疼痛、感覚低下、筋力低下があり、ミオグロビン尿、血清CK高値などが認められる。

・下肢の前区画が特に影響を受けやすく、神経障害は腓骨神経においてみられやすい。したがって、足関節の背屈第一趾間の感覚を評価することが重要である。診断は主に臨床所見に基づいて行われるが、区画圧が30mmHg以上であることが確認できればより確定的といえる。

・コンパートメント症候群が発症した場合には不可逆的な神経障害、軟部組織損傷を防ぐために減張切開術の適応となる。

長期的管理

・血栓溶解療法または外科的治療が確実に行われた後も、抗凝固療法は継続する。

・まず未分画ヘパリンを投与するか、代替として低分子ヘパリンを使用することもある。その後の抗血栓療法は四肢虚血の原因によって異なる。

・血栓性素因を有する急性血栓症のケース、心原性塞栓症のケースでは長期的な経口抗凝固薬の適応となる。従来的にはワルファリンを使用するが、心房細動のケースなどではDOACが考慮される。

・また急性四肢虚血の原因がアテローム性動脈硬化による場合などには長期的な抗血小板療法が必要となる。

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<参考文献>

・Creager MA, Kaufman JA, Conte MS. Clinical practice. Acute limb ischemia. N Engl J Med. 2012 Jun 7;366(23):2198-206. doi: 10.1056/NEJMcp1006054. PMID: 22670905.

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