蕁麻疹 urticaria
蕁麻疹とその疫学
・蕁麻疹(urticaria)は膨疹、すわなち紅斑を伴う一過性、限局性の真皮の浮腫が病的に出没する疾患であり、多くは掻痒感を伴う。圧迫によって紅色が一時的に消退することも特徴である。
・蕁麻疹は急性蕁麻疹と慢性蕁麻疹とに分類される。膨疹あるいは血管性浮腫がほぼ毎日、6週間以上続いてみられる場合には慢性蕁麻疹と定義される。
・生涯有病率は約9%とされる。
・患者の約1/3は蕁麻疹と血管性浮腫との両方を発症し、30~40%は孤立性蕁麻疹、10~20%は孤立性血管性浮腫を発症する。
・掻痒感の自覚には脊髄視床路が関連していて、一次性求心路がヒスタミンなどの掻痒物質をよく感知すると考えられている。
・米国では蕁麻疹に関連して患者一人あたり1,750~2,050ドル/年の医療費が生じていると報告されている。
蕁麻疹の病型
<特発性の蕁麻疹>
・急性蕁麻疹
・慢性蕁麻疹
<刺激誘発型の蕁麻疹>
・アレルギー性の蕁麻疹
・食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)
・非アレルギー性の蕁麻疹
・アスピリン蕁麻疹(アスピリン不耐症)
・物理性蕁麻疹(機械性/寒冷/日光/温熱/遅延性圧/水/振動)
・コリン性蕁麻疹
・接触蕁麻疹
<血管性浮腫>
・特発性血管性浮腫
・刺激誘発型の血管性浮腫(振動血管性浮腫を含む)
・ブラジキニン起因性の血管性浮腫
・遺伝性血管性浮腫(HAE)
<蕁麻疹関連疾患>
・蕁麻疹様血管炎
・色素性蕁麻疹
・Schnitzler症候群およびクリオピリン関連周期熱(CAPS)
急性蕁麻疹
・急性蕁麻疹では誘因が特定できるのは半数未満である。
・最も一般的な誘因としては感染症(40%)、薬物反応(9.2%)、食物不耐症(0.9%)である。小児の感染症では上気道感染症、マイコプラズマ感染症などが特に頻度が高い。成人の感染症ではウイルス性肝炎、伝染性単核球症が重要な原因である。
慢性蕁麻疹
・慢性蕁麻疹は慢性特発性蕁麻疹と慢性誘発性蕁麻疹とにさらに区別される。
・慢性特発性蕁麻疹の約30~40%では自己抗体が関与していることが示唆されている。
・慢性誘発性蕁麻疹では特定の誘因によって常に、かつ再現性をもって症状が誘発されるという特徴がある。
・誘因のある慢性蕁麻疹では主に感染症(細菌/ウイルス/寄生虫/真菌)、薬剤、食物、心理的要因が関連していることが知られている。
・ピロリ菌(H.pylori)と慢性誘発性蕁麻疹との関連性も示唆されていて、ピロリ菌のタンパク質成分が肥満細胞の脱顆粒を誘発すると考えられている。ただし、ピロリ菌の除菌が有効かどうかは現時点では不明瞭である。
・薬剤性で頻度が高いものはNSAIDsとACE阻害薬である。ACE阻害薬による血管性浮腫および蕁麻疹は非免疫学的機序でのブラジキニン蓄積が関与すると考えられているため、投薬開始して数週間から数年後に症状が生じることもある。リスク因子としては女性、アトピー素因、喫煙などが挙げられる。ACE阻害薬の中止によって多くの患者で著明に改善するが、数カ月間症状が続くケースもある。
・慢性蕁麻疹の一部では心理的要因が関連し、不安、うつ病、身体表現性障害が併存する。
特発性蕁麻疹に関する薬物治療
・蕁麻疹の症状と治療効果に応じてステップアップを図る。
・まずStep1としては非鎮静性第二世代抗ヒスタミン薬(H1RA)を通常量で処方。治療効果などを加味して、適宜、他剤への変更、増量、2種類のH1RA併用を検討する。
・Step2としてはH2RAの併用、LTRAの併用が挙げられる。
・Step2までで治療効果が得られない場合にはStep3として、PSL(<0.2mg/kg/day)内服などを検討する。
・いずれの治療薬も可能な限り短期間の使用に留める。
――――――――――――――――――――――――――――――
・Antia C, Baquerizo K, Korman A, Bernstein JA, Alikhan A. Urticaria: A comprehensive review: Epidemiology, diagnosis, and work-up. J Am Acad Dermatol. 2018 Oct;79(4):599-614. doi: 10.1016/j.jaad.2018.01.020. PMID: 30241623.
・日本皮膚科学会: 蕁麻疹診療ガイドライン2018.