尿細管間質性腎炎 TIN: tubulointerstitial nephritis

尿細管間質性腎炎とその疫学

・尿細管間質性腎炎(以下TIN: tubulointerstitial nephritis)は非乏尿性または乏尿性の急性腎障害を惹起する疾患である。

・TINは免疫介在性の間質への免疫細胞浸潤と関連していて、線維化の進行が生じる

・TINの発症には遺伝的要因および環境要因が関与している。

・TINは腎生検を実施したケースの約2%を占めると言われている。

・原因不明の非乏尿性or乏尿性のAKIを呈する成人患者の7~27%が薬剤性TINという報告がある。

病因

・TINの病因としては薬剤性、感染性、全身疾患性、自己免疫性、遺伝性、特発性などが挙げられる。また、最も一般的な病因は薬剤性である。

・多くの薬剤が関連し、なかでもβラクタム系抗菌薬、NSAIDsが最も一般的な原因薬剤である。なお、リファンピシン(RFP)に関連するTINでは症状が急激な経過で生じたり、腎生検所見が典型像から外れたりすることも知られている。

・感染性のTINの原因にはウイルス性、細菌性、真菌性、寄生虫が含まれる。

・免疫抑制状態にある腎移植患者に生じるTINでは主にポリオーマウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)などの感染が原因であるという報告もある。

EBV感染症は小児および成人のTINU症候群(Tubulointerstitial nephritis and uveitis syndrome)の発症に関連していると指摘されている。なお、TINU症候群とは原因不明の尿細管間質性腎炎とぶどう膜炎を伴う症候群である。そのほか、TINU症候群に関連する感染症としては肺炎マイコプラズマ、エルシニア菌、レプトスピラなどが挙げられている。

・TINの発症には全身性疾患も関連する。具体的には炎症性腸疾患(IBD)、TINU症候群、サルコイドーシス、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群などが挙げられる。

・自己免疫性のなかにはIgG4関連疾患(IgG4-RD)なども関連する。IgG4-RDでは血清IgGおよびIgE値の上昇に加えて、補体低値(C3の間質沈着)がしばしば認められる。

病態生理

・急性TINではリンパ球の浸潤とそれに伴う間質浮腫によりGFRが低下する。慢性TINでは間質線維化によりGFRが低下する。

・尿細管間質は代謝要求量が多い箇所であるため、炎症およびそれに関連する浮腫が生じると、相対的に血流量が減少し、傷害を受けやすい。

・薬剤性TINは免疫介在性であり、アレルギー反応が主に関与していると考えられている。

臨床経過/臨床症状

・TINの症状はときに非特異的であり、そのことが診断の遅れにつながり得る。

・以前から症状は主に過敏性反応(例: 皮疹, 関節痛, 発熱)に関連していると考えられていたが、これらの症状が全て現れる患者はわずか5~10%程度とされている。

・急性TIN患者に関する研究によると、発症時に皮疹が認められるケースは15%、発熱は27.3%、好酸球増多は23%であり、これら3つの所見がすべて揃うケースはわずか10%であったと報告されている。

尿細管間質への炎症細胞浸潤によって生じる浮腫や腎被膜伸展が疼痛を惹起し、腹部、側腹部、腰背部の疼痛として認識される。実際、TIN患者では超音波検査で腎臓が正常な大きさか、腎皮質の高輝度を伴う腫大が認められる。

・薬剤性TINではほとんどの症例で薬剤曝露から1~3週間で発症する(平均 10日間)。RFPへの曝露によるTINではさらに発症までの期間が短い可能性が指摘されている。

・腎生検は病歴や臨床症状からTINが疑われるケースで診断を確定できる唯一の検査である。

・TINは腎機能障害の程度に見合わない高カリウム血症や高Cl性代謝性アシドーシスがみられる患者で疑うべきという見方もある。

・尿細管機能障害はFanconi症候群として発現することがあり、ときに電解質異常(例: 高カリウム血症)、代謝性アシドーシス、FENa高値、尿糖陽性、アミノ酸尿を呈することがある。また、好酸球増多、膿尿、顕微鏡的血尿、尿中好酸球増多、軽度のタンパク尿が認められることもある。

尿中好酸球増多はTINの診断に有用なこともあるが、感度も特異度も十分でない。また、膀胱炎、前立腺炎、腎盂腎炎、急性尿細管壊死(ATN)、急速進行性糸球体腎炎などでもみられることがある。

TINU症候群

・前述のようにTINU症候群とは原因不明の尿細管間質性腎炎とぶどう膜炎を伴う症候群である。

・TINUはぶどう膜炎の症例の2%未満と報告されている。

・発症時の年齢の中央値は15歳で、男女比は3:1とされている。

・診断にはTINとぶどう膜炎の両者の存在が必要で、腎機能障害、尿検査異常、羞明、眼痛や結膜充血、急速に進行する視力低下などによって示唆される。

・80%のケースでぶどう膜炎は両側性である。

・ぶどう膜炎は一般的にTIN発症後に生じる(60%)が、TIN発症の1ヶ月前から3ヶ月後までに生じることもある。なお、ぶどう膜炎の経過や重症度はTINの経過や重症度に相関しない。

・ぶどう膜炎の再発はTINU患者の約40%でみられ、再発時は初回発症時よりも重症化しやすい。

・ぶどう膜炎性眼内炎はTINU患者の約20%で発症し、視神経乳頭腫脹、白内障、眼圧上昇、網脈絡膜瘢痕化などと関連する。

・一般的にTINUの治療を受けた患者の大半は予後良好である。

・TINU患者の最大50%は眼症状を自覚しないという報告がある。したがって、TIN患者ではぶどう膜炎に関するスクリーニングの必要性が示唆されるかもしれない。

炎症性腸疾患(IBD)に関連するTIN

・IBD患者の最大23%で腎泌尿器系合併症が生じると報告されていて、特にTINはIBDと強い関連性が示されている。なお、他の腎泌尿器合併症としては尿路結石、糸球体腎炎、腎アミロイドーシスなどが知られている。

・IBD患者の腎生検結果に関する研究によると、腎生検が実施された患者の19%でTINが認められたことが報告されている。

・IBDの治療で使用されるメサラジンはTINに関連する薬剤として最も知られる。

・IBDの活動性と尿中β2MG、NAG上昇が関連していることが報告されている。ただし、この相関性は一貫して示されているわけではなく、不明瞭な部分もある。

治療

・TINに関するRCTは乏しく、症例報告や経験的に行われる。

・治療の中心はステロイドであるが、用量や治療期間に関するコンセンサスは得られていない。

・ステロイドにより炎症細胞浸潤を減少させることが間質の線維化を予防することにつながると考えられているが、このことは証明されているわけではない。

・TINU患者では前部ぶどう膜炎に対してステロイド点眼が使用され、約50%の患者で有効性が認められる。しかし、TINも存在するため、多くの患者はステロイド全身投与により治療される。

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<参考文献>

・Joyce E, Glasner P, Ranganathan S, Swiatecka-Urban A. Tubulointerstitial nephritis: diagnosis, treatment, and monitoring. Pediatr Nephrol. 2017 Apr;32(4):577-587. doi: 10.1007/s00467-016-3394-5. Epub 2016 May 7. PMID: 27155873; PMCID: PMC5099107.

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