熱傷 burn

熱傷とその疫学

・熱傷(Burn)の多くは軽症である。しかし、ときに重症熱傷は臨床的に重大な後遺症を残す可能性があり、適切に治療をしなければ急速に臓器不全が進行し、致命的な転帰をたどり得る。

社会的地位や経済的状況が低いほど、熱傷の発症リスクは高くなる傾向にある。実際、熱傷の90%は低/中所得国で発生している。高所得国では熱傷は減少傾向にあるが、それでも重症熱傷は依然として発生する。

・米国の報告では熱傷の多くは家庭(75%)で発生し、職場(13%)で発生するケースもある。また、熱傷の約95%は偶発的に生じていて、2%は虐待に関連し、1%が自傷によるとされている。

初期アセスメント

・初期のマネジメントは外傷対応と同様に行われる。すなわち、何よりもまずABCの確保が優先される。

 <Airway(気道)>

・第一に懸念されることは上気道閉塞のリスクである。

・広範囲熱傷患者では気道の腫脹が生じて後に閉塞が生じる前に、早期から気管挿管を行う必要性が高いケースがある。

・気管挿管の必要性が高いケースの特徴としては、より広範囲で深い熱傷、顔面熱傷、上気道熱傷を示唆する所見(例: 鼻腔の煤)、煙の吸入などが挙げられる。

・TBSAの30~40%以上を占める深い熱傷を負った患者では気管挿管の実施閾値を低めにする必要がある。

 <Breathing(呼吸)>

・火事現場では炎を酸素を消費するため、周囲の酸素濃度が低くなり、結果として患者は重度の低酸素血症になりやすい。

・低酸素血症の原因としては他に一酸化炭素中毒(CO中毒)が挙げられる。COはHbへの親和性が酸素のそれの200~250倍であるため、CO中毒では末梢組織への酸素供給が大幅に減少する。CO中毒を疑う際には血液ガス分析でCO-Hbを測定することとなる。

・胸部および腹部の全周性の熱傷を負った患者ではコンパートメント症候群が発症し、ときに減張切開術が必要になることがある。ただし、コンパートメント症候群は通常12~18時間経過してから発症する。

・熱傷患者では急性呼吸促迫症候群(ARDS)を併発することがある。

 <Circulation(循環)>

・広範囲の熱傷を負った患者ではより大量の輸液を必要とする。

9の法則(成人)5の法則(小児)は初期の輸液量の決定において利用される。具体的にはParkland formula、Brooke formulaを利用して24時間の総輸液量を決定する。

・最もよく知られるのはParkland formulaであり、算出値の半分に相当する量(mL)をはじめの8時間で投与することが基本となる。ただし、投与速度は適宜、尿量に基づいて調整されるべきであり、成人では0.5mL/kg/hr、小児(30kg未満)では1mL/kg/hrを目標値とする。

・modified Brooke formulaはParkland formulaに似ていて、計算式の係数を4でなく、2に置換された式と読むことができる。浅い熱傷ではより少ない量に、深部熱傷ではより多い量で輸液量を設定するという方法が挙げられている。

・過剰な輸液は呼吸不全、心不全、コンパートメント症候群のリスクを高める。

・蘇生輸液としては通常、晶質液が使用される。なお、アルブミン製剤を投与することで必要輸液量が経るという複数の研究結果もある。また、高用量のビタミンC製剤(66mg/kg/hr)もまた輸液必要量を減らすという報告もある。

初期治療

・初期治療は主に創傷治癒局所感染症を防ぐことが目的に行われる。

・救急外来などで初療を担当する場合、まずは冷却洗浄を行うことが重要となる。

・冷却に関しては冷たい水道水や氷冷で簡便に冷却を行うことも可能である。受傷直後からの冷却ができているかどうかの確認も行う。

・洗浄は特に優先される処置で、生理食塩水でもよいが、コスト面を考慮すると水道水でも良い。特に熱傷面とその周囲の皮膚を洗浄することとなるが、鎮痛にも十分な配慮を要する。鎮痛にはキシロカインによる局所麻酔などを利用する。また、顔面などの洗浄がしにくい箇所に関しては紙おむつなどを水受けとして敷き、洗浄を行うこともできる。異物がある場合には水圧での洗い流し、ピンセットなどを利用しての除去を行うが、場合によっては湿らせたガーゼで線維が残らないように注意しながら汚れを落とすこともある。

・水疱が存在する場合は疼痛保護の観点からなるべく温存することが基本とされる。しかし、ときに水疱の緊満が過度なこともあり、そういうケースでは18-23Gの針で吸引することもある。また、感染が疑われる水疱は除去しておく。

深達度別の治療

・前述の冷却や洗浄といった初期治療が行われたうえで、熱傷の深達度別の対処が求められる。

・洗浄ができていて、創面がきれいであれば予防的抗菌薬投与は不要とされる。

・創部の汚染が目立つ場合には適切に破傷風予防を行う。

 <Ⅰ度熱傷>

・局所の皮膚所見がみられ、水疱形成がないようなⅠ度熱傷では局所を清潔にしつつ、経過観察が可能であることが多い。

 <Ⅱ度熱傷>

・SDBは被覆材のみでの処置が対処できることもある。ただし、水疱が破裂していて真皮が露出していると疼痛も目立ちやすいため、そういうケースでは創面保護、疼痛軽減目的にワセリン外用を行う。DDBにおいても同様にワセリン外用を行う。

・ガーゼ被覆とする場合には、後日にガーゼを剥がす際に創面と固着していると痛みを伴うため、多めにワセリンを外用したあとに保護することが良い。

・スルファジン銀クリーム(ゲーベンクリーム®)は上皮細胞の再生を障害してしまうため、深達度が不明確な状況では使用しないことが無難と思われる。基本的にⅡ度熱傷では使用されにくい。

・Ⅱ度熱傷では創面からの浸出液が少なくないため、吸水性の高い被覆材を利用するとよい。患者さん自身で購入可能で、市販されている被覆材としてはポリウレタンフォーム(オプサイト®, テガダーム®)がある。

・通常は翌日以降に創部の再評価を行う必要がある。

 <Ⅲ度熱傷>

・ガイドラインではスルファジン銀クリーム(ゲーベンクリーム®)が推奨されているが、初療時点では必ずしも深達度の評価が正確でなく、またⅡ度とⅢ度とが混在していることもあるため、まずはワセリン外用してガーゼ保護とすることも多い。

・翌日に形成外科外来へ紹介することが一般的と思われる。

・被覆材はポリウレタン(ハイドロサイト®)やハイドロコロイド(デュオアクティブ®, テガダーム®など)の使用も検討される。

創傷被覆材(ドレッシング製剤)

・創傷被覆材(ドレッシング製剤)は複数存在する。

・乾いたガーゼなどを覆うことをDry dressingといい、湿ったガーゼなどを覆うことをWet dressingという。

・前述したようにガーゼ被覆とする場合には、後日にガーゼを剥がす際に創面と固着していると痛みを伴うため、多めにワセリンを外用したあとに保護することが良い。

開放性ウェットドレッシング適度に浸出液を吸収し、かつ固着せず、単独使用が可能

閉鎖性ウェットドレッシング初期の短時間の被覆にはよいが、閉鎖空間となるため細菌増殖しやすいことに注意が必要。

長期的ケア

・広範囲の熱傷患者の入院期間は長期にわたることが多い。これは皮膚の上皮化までに数週間から数ヶ月を要することが多いためである。

・入院期間はTBSAの1%が熱傷を負った場合には約1日間とされる。ただし、深部の熱傷ではより長期の入院が必要となる。

・長期の入院中には、代謝亢進状態への対処、敗血症/多臓器不全への対処も重要である。

 <代謝亢進状態に対するマネジメント>

・TBSAの20%以上の熱傷を負った患者では特に代謝亢進や異化亢進が生じやすく、筋肉量減少が進み、治療しなければ多臓器不全に至る。したがって、経腸栄養は重要であり、タンパク質は1.5~2g/kg/dayが基本となる。

・代謝性のストレスを軽減するための最優先の戦略としては速やかに熱傷組織をケアし、露出した部分を被覆することである。

疼痛などの苦痛を最小限に抑えることも代謝需要を減少させるため、疼痛のケアは重要である。同様に、感染症や敗血症に対するマネジメントの最適化も代謝需要を軽減させることにつながる。

リハビリテーションにより筋力を維持することも重要である。

 <敗血症>

・広範囲の熱傷患者では皮膚バリアの破綻による感染に対して脆弱となる。なお、抗菌薬の予防投与は有効とされておらず、むしろ耐性菌を増加させる懸念がある。

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<参考文献>

・Hettiaratchy S, Papini R. Initial management of a major burn: I--overview. BMJ. 2004 Jun 26;328(7455):1555-7. doi: 10.1136/bmj.328.7455.1555. PMID: 15217876; PMCID: PMC437156.

・Hettiaratchy S, Papini R. Initial management of a major burn: II--assessment and resuscitation. BMJ. 2004 Jul 10;329(7457):101-3. doi: 10.1136/bmj.329.7457.101. PMID: 15242917; PMCID: PMC449823.

・Greenhalgh DG. Management of Burns. N Engl J Med. 2019 Jun 13;380(24):2349-2359. doi: 10.1056/NEJMra1807442. PMID: 31189038.

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