胃食道逆流症 GERD: gastroesophageal reflux disorder

胃食道逆流症(GERD)とその疫学

・本邦において、成人のびらん性GERDの有病率は10%程度と推定され、比較的よく経験される疾患である。

GERDのリスク因子としてはGERDの家族歴、食道ヘルニア、腹腔内圧の上昇(例: 肥満, 妊娠)、NSAIDsやカルシウム拮抗薬(CCB)、口腔乾燥などが知られている。

Zollinger-Ellison症候群では胃酸分泌過多をきたすため、GERDを生じやすくさせる。

臨床症状/診断

典型的な症状としては胸やけ、呑酸の2つが挙げられる。

非典型的な食道症状としては心窩部不快感、(非心原性)胸痛、悪心、嚥下困難、嚥下時痛、呑気などが挙げられる。

・胸痛を主症状とするケースではまず心原性胸痛の可能性を評価するべきである。

嚥下障害を主症状とするケースでは機能性食道疾患(例: 好酸球性食道炎)の可能性を考慮する。また、頭頚部癌、食道癌の可能性も考慮する。

・GERDによる症状の重症度とQOLを評価する方法としてはGERD-HRQL(GERD-Health Related Quality of Life)などが知られる。

・GERDの診断は典型的な症状(胸やけ, 呑酸)PPIテストに対する反応性に基づいて行われる。

PPIテスト

・胸やけや呑酸症状を有する患者が真のGERDであるかどうかを確認するためにPPI投与を4~8週間投与する、PPIテスト(PPI test)がよく用いられる。

・メタ解析ではPPIテストはGERDの診断に関して感度79%、特異度45%と報告された。また、ある研究では非GERD患者の51%以上で症状が改善したのに対し、内視鏡的にGERDが証明された患者においては69%で症状が改善したと報告された。

・典型的な症状(胸やけ、呑酸)を有し、なおかつRed flagに相当する症状がないケースではまずPPIテストを行うことが複数のガイドラインで推奨されている。

・一方で、典型的な症状がみられず、非典型的な症状のみがみられるケースでは臨床検査(内視鏡検査など)の実施を検討する。

・2012年の米国内科学会(ACP)のガイドラインでは胸やけ症状だけでなくRed flag sign(嚥下時痛, 嚥下困難, 体重減少, 食欲不振, 消化管出血, 反復性嘔吐)がみられるケース、PPIテストを行っても症状が続くケース、治癒を評価する必要性が高い重症のびらん性食道炎を有するケースでは上部消化管内視鏡検査(EGD)を行うことを推奨している。そのほかBarret食道のサーベイランスを行うことも推奨している。

びらん性食道炎

・びらん性食道炎は上部消化管内視鏡検査(EGD)で全GERD患者の約1/3に認められる。

・びらん性食道炎はLosAngeles分類によって分類が可能で、Grade A~Dで評価される。

Grade C~Dのびらん性食道炎を有する患者ではPPIによる治療を行った後に、再度EGDで治癒およびBarret食道の有無を評価することが推奨される。PPIによる治療を行ったにも関わらず食道炎が続く患者では追加の検査および治療を検討する。

・通常、Grade B~Dのびらん性食道炎に対しては長期のPPI治療を要する。

GERDの合併症

・GERDの合併症には食道狭窄、食道潰瘍、Barret食道、食道腺癌などが知られる。

・Barret食道は食道腺癌のリスク因子である。

治療

 <食事療法>

高カロリー食は食後の胃酸分泌量を増加させ、逆流症状を悪化させる。

食事制限に関する研究の多くで、有意な臨床的改善を認められていない。ただし、食事とともに提供されるコーヒー、紅茶、あるいは炭酸飲料を水に置き換えることで症状が改善することは確認されている。

・チョコレート、炭酸飲料は下部食道括約筋圧(LES圧)を低下させることは示されているが、摂取を中止することで臨床的なアウトカムを改善させることは示されなかった。また、カフェイン含有飲料、アルコール飲料、香辛料などがLES圧低下を来したり、臨床症状を悪化させたりすることも示されていない。

・実際的には過食を避けること、就寝2~3時間以内の食事を避けること、左側臥位で眠ること、就寝中の頭部を高くすることなどが有用と考えられる。

 <生活指導>

肥満はGERD症状の悪化や合併症の発生率上昇に寄与する。また、減量によって症状が改善することも示されている。

喫煙食道癌のリスクを高めるのみならず、LES圧を低下させ、食道への胃酸曝露を増加させることが示されている。禁煙によりGERD症状が改善することを示す報告もある。

・認知行動療法も胸やけに関連する苦痛や不安の改善に有用である。

 <薬剤性の可能性>

・LES圧を低下させたり、食道クリアランスを低下させる薬剤が一部存在するため、被疑薬があれば中止することも検討する。

・特にオピオイド、カルシウム拮抗薬(CCB)、硝酸薬、抗コリン薬、α遮断薬、テオフィリン、プロスタグランジン製剤、PDE阻害薬、鎮静薬などが症状を悪化させる場合がある。

 <薬物治療>

・薬物治療としては主にP-CAB、PPI、H2RA、アルギン酸塩が利用される。

・症状に対する作用発現時間は内服薬ではH2RAの方がPPIよりも早い。しかし、びらん性食道炎の治癒を含め、全体的な症状緩和に関してはPPIの方が優れることが知られている。したがって、PPIはびらん性食道炎に対する第一選択薬となっている。

・H2RAはアレルギーなどの理由でPPIを選択できない場合や、PPIを中止した患者のStep downの一環として使用することができる。

・アルギン酸塩は逆流症状の改善に有効であることが知られていて、PPIを使用しても症状が続く場合の併用療法として使用されることもある。

PPIを中止してもGERDによる症状が再燃するケースや、びらん性食道炎、食道狭窄、Barret食道が併存するケースではPPIによる維持療法の適応となる。コクランレビューではH2RAに比して、PPIを投与された患者ではびらん性食道炎がその後も続くことに関する相対リスク(RR)が0.51と報告された。

・PPIを使用してもGERDによる症状が続くケース、非びらん性胃食道逆流症(NERD)のケース、オンデマンド療法を選択するケースではP-CABの使用を検討できる。

・メトクロプラミドをはじめとした消化管運動促進薬は胃不全麻痺がない限り、GERDのマネジメントにおいて推奨されない。また、スクラルファートは粘膜保護薬であるが、GERDに対する有効性は示されなかった。

 <薬物治療の治療期間>

びらん性食道炎、食道狭窄、Barrett食道などの合併症を有するケースではPPIによる維持療法が推奨される。

・一方で、そういったケースに相当しないのであれば、PPI治療を中止することができる。ただし、中止後に症状が再燃する場合には維持療法を考慮すべきである。また、内視鏡検査などをせずに、臨床症状からGERDの疑いが強いと考えPPI治療を行ったうえで症状が改善しない場合には精査を進めるべきである。

・中等度~重度のびらん性食道炎を有する患者では治療中止後6ヶ月目までに高い確率で再発することが知られている。また、Barrett食道を有する患者ではPPIを定期内服することで、食道腺癌へ進展するリスクを軽減できることがRCTで示されている。

・PPI中止に関するシステマティックレビューではGERD患者の30~50%で薬剤の減量が可能で、14~64%の患者で症状の再燃なく中止が可能であったと報告された。なお、突然中止するよりも漸減を図る方がより効果的であった。

 <PPIの長期投与による副作用>

・メタ解析ではPPI使用により、CD腸炎(OR 1.26)、CD腸炎の再発(OR 1.84)のリスク増加につながることが示されている。

・また因果関係は明らかとはいえないが、大腿骨近位部骨折(RR 1.2)、慢性腎臓病(RR 1.36)、認知症(RR 1.16)、肺炎(RR 1.11)のリスク増加に関係する可能性は示唆されている。

標準治療を行っても症状が続く場合

・GERD患者の約30%PPIを服用しているにも関わらず、症状が続く

・症状の改善に乏しい場合にはどのような症状(胸やけなど)がどれぐらいの頻度で生じているのかを確認することが重要である。

・PPIは食前に服用するとより有効性が発揮されやすい。

服薬アドヒアランスについても確認する必要性が高い。

・食事や生活習慣に関する状況の確認も有用である。

・薬剤の用量を増やすことや、他のPPIに変更することもときに有用である。

・こういった事項を確認、実践したうえで改善に乏しい場合には消化器専門医への紹介が検討される。

Barrett食道のスクリーニング/マネジメント

・米国内科学会(ACP)などはスクリーニング的に上部消化管内視鏡検査を行った際にBarrett食道がみられないケースでは、その後にスクリーニング目的に内視鏡検査を繰り返さないよう勧告している。

・しかしBarrett食道が確認されたケースでは、その後のPPI治療が食道腺癌への進展リスクを低減することが知られているため、PPIは定期内服とするべきである。また内視鏡的なサーベイランスが食道腺癌の早期診断と生存期間の延長につながるというレトロスペクティブ研究が存在するため、ACPなどはサーベイランスを推奨している。

・異型性のないBarrett食道では内視鏡的サーベイランスを3~5年ごとに行うことが推奨されていて、それより短いBarrett食道(<3cm)では5年間隔での実施が推奨されている。

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<参考文献>

・Dunbar KB. Gastroesophageal Reflux Disease. Ann Intern Med. 2024 Aug;177(8):ITC113-ITC128. doi: 10.7326/AITC202408200. Epub 2024 Aug 13. PMID: 39133924.

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