副腎偶発腫瘍 AI: adrenal incidentaloma
目次
副腎偶発腫瘍(Adrenal incidentaloma)の疫学
・副腎偶発腫瘍(以下AI: Adrenal incidentaloma)は副腎疾患以外を疑う過程で実施された画像検査で偶発的に発見された、直径1cm以上の副腎腫瘤を指す。
・1cm未満の副腎病変についてはさらなる精査を行うことが推奨されていない。
・偶発腫瘍を意味する、”incidentaloma”は1982年にGeelhoedらによって作成された造語である。
・一般人口の約2%、70歳以上の人口の7%以上で認められると報告されている。なお、40歳未満でみられることは稀とされていて、若年者で認められた場合には副腎皮質がん(ACC)や機能性疾患を疑い、精査するべきである。
・有病率は加齢とともに増加するが、50~60代にピークが存在する。
・AIの最大10%は副腎ホルモンの自律性分泌が認められる。
・特に褐色細胞腫および自律性コルチゾール分泌(ACS)を伴う腫瘍を除外するべきである。また、高血圧症and/or低カリウム血症がみられるケースでは原発性アルドステロン症(PA)を除外するべきである。
腫瘍の大きさによる評価
・過去の研究ではCT撮像で発見されたAIの直径の平均値は30mmとされる。
・左右では左側の腫瘍の方がより大きい傾向が示されている。
・40mm超の腫瘍では副腎皮質がん(ACC)の可能性が高まることに留意する。
AIの原疾患と臨床症状
<副腎皮質腺腫(ACA)>
・副腎皮質腺腫(ACA)は良性腫瘍に分類され、その多くは非分泌性の腫瘍である。
・ただし、一部のACAはACTH非依存性にコルチゾールを分泌したり、RAS系からの刺激に無関係にアルドステロンを分泌したりする腺腫も存在する。
・稀ながらエストロゲンやアンドロゲンを分泌し、女性化や男性化を起こすこともある。
<副腎皮質がん(ACC)>
・原発性副腎皮質がん(ACC)は稀であり、年間発症率は人口100万人あたり1~2人と推定されている。
・あらゆる年齢で発症し得るが、発症のピークは5歳未満と40~60代と考えられている。
・ほとんどが孤発例であるが、ごく一部のケースは他の腫瘍性疾患と併発することが知られている。最もよく知られているのはLi-Fraumeni症候群(TP53遺伝子変異)、多発性神経内分泌腫瘍1型(MEN1遺伝子変異)、Beckwith-Wiedemann症候群(11p15l遺伝子異常)である。そのほか家族性大腸腺腫症(FAP遺伝子変異)、神経線維腫症1型(NF1遺伝子変異)、カーニー複合(PRKAR1A遺伝子変異)でもACCの発症例が報告されている。
・孤発性のACCの遺伝的原因は不明確な状態にある。がん抑制遺伝子TP53をコードする17p13のヘテロ接合性の喪失は孤発性のACCに共通してみられる所見として知られる。しかし、そのうちの約1/3のみにおいて、TP53の遺伝子変異が認められる。
・ACCの40~60%は機能性であり、ホルモン過剰分泌による症状を伴う。
・最も一般的なのはCushing症候群であり、45%程度と推定される。ACCの約25%はコルチゾールとアンドロゲンを混合的に分泌する。アンドロゲンのみを分泌するACCは稀であり(約10%)、その場合は通常、男性化症状のみがみられる。
・女性化を伴うケースや、高アルドステロン血症は稀であり、10%未満である。
・ACCの約30%で腹部腫瘤として認識される。ただし、副腎は後腹膜臓器であるため、腫瘤として触知される頃には比較的進行していることも少なくない。
・887人のAI患者を対象にしたイタリアにおける研究ではACCの90%は初診時点で直径40mm以上であり、40mmをカットオフ値とするとACCの検出感度が93%であったと報告された。また、診断時の腫瘍径が小さいほど5年生存率が有意に高くなることも知られている。
<アルドステロン産生腺腫>
・ヨーロッパの患者を対象にした研究では患者の約40%でKCNJ5(カリウムチャネル)の変異が認められたと報告されていて、日本を含むアジア人ではその割合はさらに高いと報告されている。
・これらの遺伝子の突然変異がアルドステロン産生などを惹起すると考えられている。
・KCNJ5突然変異を有する腺腫は突然変異を有さない腺腫よりもさらに拡大しやすい傾向にあり、女性で好発する。
<両側副腎皮質腺腫>
・AIの大部分は片側性であるが、両側性AIがAI全体の10~15%を占めることが知られている。
・両側性AIの最も一般的な原因は転移性腫瘍、両側副腎皮質大結節性過形成(PBMAH)、両側副腎皮質腺腫であることが2件の大規模研究で明らかとなっている。その他の原因としては両側性褐色細胞腫、先天性副腎皮質過形成(CAH)、クッシング病、続発性両側性副腎過形成を伴う異所性ACTH分泌が挙げられる。
・両側副腎皮質過形成は結節の直径が10mm未満(微小結節性)と10mm以上(巨大結節性)とに分けられる。
・PBMAHは自律性コルチゾール分泌(ACS)に加え、両側副腎に10mm以上の多発結節を認める症候群を指す。PBMAHの原因遺伝子としてはMEN1、APC、FH、KDM1A、ARMC5などが知られている。なお、以前はAIMAH(ACTH-independent macronodular adrenal hyperplasia)と呼ばれていた。
<副腎髄質腫瘍>
・カテコラミンを分泌する副腎髄質のクロム親和性細胞から発生する腫瘍を褐色細胞腫と呼び、良性腫瘍と悪性腫瘍とがある。
・あらゆる年齢で発症し得るが、特に40~50代で好発し、年間発症率は人口10万人年あたり0.8人と推定されている。
・カテコラミン産生腫瘍の40%は遺伝性症候群の一部であると推定されていて、特にフォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL)、多発性内分泌腫瘍2型(MEN2型)、神経線維腫症1型(NF1)がよく知られ、いずれも常染色体優性遺伝である。
<副腎リンパ腫>
・リンパ腫の副腎浸潤はよく知られていて、非ホジキンリンパ腫(NHL)の最大25%で認められ、通常は播種性病変として捉える。
・一方で、原発性副腎リンパ腫は非常に稀で、非ホジキンリンパ腫の1%未満に相当する。
・原発性副腎リンパ腫は通常、境界明瞭な腫瘤として認識され、均一な造影増強効果を示す。周囲組織に浸潤している可能性もあり、他の腫瘍性病変と区別するために生検が必要となる場合がある。
<副腎転移>
・剖検で副腎に転移性腫瘍が確認されることは珍しくないと考えられている。副副腎は血流供給が豊富であり、転移が生じやすい。
・転移性副腎腫瘍を有する464人の患者に関する研究では腺癌が90%を占め、そのほかは血液腫瘍、肉腫、黒色腫であったと報告された。なお、腺癌の症例の35%は肺癌由来であり、その後は消化管、腎臓、乳房の順で原発巣が推定されたと報告されている。
・稀ながら両側への転移性副腎腫瘍のケースで副腎機能不全を引き起こすことがある。そのような場合には副腎機能不全らしい徴候(易疲労感, 食欲不振, 悪心/嘔吐, 低血圧, 低ナトリウム血症, 高カリウム血症)を呈することがある。
機能性AIの内分泌的検査
・AIの10~15%で過剰なホルモン分泌がみられる。
・AIの内分泌状態を明らかにすることは悪性腫瘍を除外することと同様に重要である。ホルモン過剰分泌による臨床症状、関連する併存疾患、生化学的評価を行うことで個々の患者に適したマネジメントが可能となる。
・一般的に、全てのAI患者においてカテコラミン(ただしCT値が低いケースは精査が必須でないという見立てもある)、コルチゾールの過剰分泌の有無についてのスクリーニングを行うべきである。また、高血圧症and/or低カリウム血症を有する患者ではアルドステロン過剰分泌状態の可能性を除外するべきである。多毛症、男性化徴候、副腎皮質がんの疑いがある場合にはアンドロゲン、エストロゲンの測定も行う。
<褐色細胞腫のスクリーニング>
・褐色細胞腫は偶発的に発見されることもあるが、詳細に聴取すると約50%のケースで発汗、頭痛、頻脈といった症状が認められる。
・高血圧症は褐色細胞腫の一般的な徴候として知られる。しかし、患者の5~15%は診察時に正常血圧なこともある。この場合、腫瘍はまだ小さく、機能的に活発なものでないだけの可能性がある。
・アドレナリンだけを分泌する腫瘍の場合、逆説的ながら低血圧を惹起することがある。
・頭痛は症候性のケースの最大90%で認められ、発汗は60~70%で認められる。その他の症状としては振戦、脱力感、動悸、不安、便秘、視力低下、高血糖、多尿、多飲などが挙げられる。
・褐色細胞腫に関連するカテコラミン誘発性心筋症では肺水腫などの心不全徴候が認められることがある。また、高血圧、多臓器不全、精神症状、高熱を伴う、褐色細胞腫クリーゼが出現することもある。
・家族性褐色細胞腫の患者の50%は無症状であり、高血圧症を呈するのはそのうち約1/3のみである。
・まずは単純CT撮像を行い、AIのCT値が均一で、CT値が10HU以下であれば良性副腎腺腫あるいはその他の良性腫瘍(例: 脂肪腫)である可能性が高い。なお、褐色細胞腫のCT値の平均値は30~35HUであり、10HU以下のCT値を示す褐色細胞腫は全体の0.5%のみである。CT値が10HU未満のケースで、褐色細胞腫に関する精査を検討するべきケースは高齢患者、腫瘍のCT値が不均一な場合、腫瘍壊死を示唆する所見がある場合が挙げられる。
・スクリーニング検査としては随時尿中メタネフリン(2分画)、血中カテコラミン(3分画)の提出を行うことがある。これらの検査で正常上限の3倍以上に相当する場合には機能診断を目的に24時間尿中カテコラミン3分画、24時間尿中メタネフリン2分画、クロニジン試験が検討されることとなる。
・交感神経作動薬やカフェインなどの薬剤、嗜好品は検査結果に影響を与える可能性があるため、検査の24時間前からこれらの服用を避けておくことが推奨される。
・血中遊離メタネフリンについては仰臥位で30分間安静にした後に採血を実施することが望ましい。
<自律性コルチゾール分泌(ACS)に関する検査>
・クッシング症候群に典型的な徴候がみられるかどうかは個々で異なり、それは個々の感受性の影響や、コルチゾール過剰分泌の程度やその曝露期間によって決定される。
・クッシング症候群は副腎からの過剰なコルチゾール分泌によって生じる。また、クッシング症候群はACTH依存性とACTH非依存性とに大別される。
・クッシング症候群の典型的な徴候としては満月様顔貌、中心性肥満、皮膚菲薄化、赤色皮膚線条、皮下浮腫、筋力低下、抑うつなどが知られる。そのほか高血圧症、脂質異常症、耐糖能異常、肥満症などを合併しやすい。
・典型的なCushing徴候を呈さない、サブクリニカルクッシング症候群は顕性クッシング症候群よりも頻度が高い。なお、最近はサブクリニカルクッシング症候群という疾患名でなく、自律性コルチゾール分泌(ACS: autonomous cortisol secretion)と呼ぶことも多くなってきている。自律性コルチゾール分泌(ACS)はACTH非依存性のコルチゾール過剰分泌を特徴とし、HPA軸の変化を伴うものと定義される。
・クッシング症候群に関するスクリーニング検査としては血中ACTH、血中コルチゾールを測定し、ACTHの抑制とコルチゾール高値が確認できれば疑いが強まる。血中コルチゾール値は可能な限り、早朝安静空腹時の条件で測定することが望ましい。
・スクリーニング検査で陽性だった場合には深夜血中コルチゾールの高値(日内変動の消失を反映)、24時間尿中コルチゾール排泄量高値を確認することとなる。24時間尿中コルチゾール排泄量の測定ではクッシング症候群であれば排泄量が高値となる(>100μg/日)。また、少量デキサメサゾン抑制試験を行い、早朝血中コルチゾールが抑制されないことを確認することも検討される。少量デキサメサゾン抑制試験では23~24時頃にデキサメタゾン1mgを内服し、翌日午前08時頃に空腹状態で30分間臥床後に採血し、血中コルチゾールを測定する。このとき血中コルチゾールが5μg/dL以上であれば自律性コルチゾール分泌状態にあると判断が可能となる。1.8μg/dL未満であれば”正常“と判断され、ほとんどの患者でコルチゾール過剰状態は否定される。ただし、1.9~5.0μg/dLの場合には自律性コルチゾール分泌状態にある可能性は残り、他の検査結果(コルチゾール日内変動消失, アドステロールシンチグラフィなど)も参照することとなる。
自律性コルチゾール分泌(ACS)/サブクリニカルクッシング症候群
・自律性コルチゾール分泌(ACS)は以前、サブクリニカルクッシング症候群と呼ばれていた病態を指す。
・自律性コルチゾール分泌は左室肥大、高血圧症、冠動脈疾患、脳卒中の発症リスク増大と関連する。
・自律性コルチゾール分泌患者を対象とした15年間の追跡調査では、非機能性AI患者と比べて、心血管疾患の罹患率(43% vs 8.8%(P<0.005))、死亡率(22.6% vs 2.5%(P<0.02))の上昇と関連していた。また、主な死因は心血管系の合併症であった。
・耐糖能異常または糖尿病は自律性コルチゾール分泌患者の10~69%でみられる。
・自律性コルチゾール分泌患者に対する外科的副腎摘出術の有効性に関してはエビデンスが十分とはいえない。少なくとも併存疾患(例: 高血圧症, 糖尿病など)に対する治療強度を上げることは重要と考えられる。
・あるガイドラインでは一度、機能性AIが否定された場合には臨床症状が著しく変化しない限り、内分泌的な再検査は必要ないと示されている。
・なお、101人の良性副腎腺腫患者を対象に3年間追跡調査した研究では追跡開始時点で自律性コルチゾール分泌と診断されていた患者(9人)のうち、3年後時点で5人(44%)はコルチゾールパラメータが正常化していた。また、非機能性AIと判断されていた患者(92人)のうち、5人(5%)が3年後時点で自律性コルチゾール分泌と診断されたという報告がある。
原発性アルドステロン症のスクリーニング
・AI患者のうち、原発性アルドステロン症(PA)はコルチゾール過剰分泌or褐色細胞腫と比べると稀である。
・AI患者で高血圧症が存在する状況で、低カリウム血症がみられればPAは疑わしい。しかし、低カリウム血症は必ずしもPAの感度の高いマーカーとはならない。PA患者で低カリウム血症がみられるのは9~37%のみという報告もある。
・PAは本態性高血圧症の患者と比較して、脳卒中(OR 2.58(95%CI: 1.93-3.45))、冠動脈疾患(OR 1.77(1.10-2.83))、心房細動(OR 3.52(2.06-5.99))、心不全(OR 2.05(1.11-3.78))、全死亡(HR 1.34(1.06-1.71))のリスクを高めることが知られている。
・PAの診断は血漿レニン濃度の低下、血漿アルドステロン濃度の上昇という状態を示すことによってなされる。つまり、ARR(アルドステロン/レニン比)を確認することが重要である。
・ARRが同じ値であっても、血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン濃度(PRA)が異なれば、臨床的意味合いは異なる。またレニンについての測定方法がCLEIAによる活性型レニン濃度(ARC)を測定する方法の場合もまた解釈が異なる。
・スクリーニングとしてARR(アルドステロン/レニン比)を確認する際には、「PAC/PRA>200(PAC/ARC>40)、かつPAC>120pg/mL」をスクリーニングの陽性基準と定められている。また、「PAC/PRA 100~200かつPAC>60pg/mL」の場合は境界域とされ、患者さんのニーズや臨床所見(低カリウム血症や副腎腫瘍の有無など)を考慮して、状況によっては暫定的に陽性と判断する場合もある。
・なお、スクリーニングに関しては座位での採血でも構わないとされているが、可能であれば30分以上前から安静臥位での採血が理想的である。また、原則として午前中(早朝空腹時)に採血を実施する。
・ACE阻害薬やARBはアルドステロン分泌を減少させるため、結果としてARR(アルドステロン/レニン比)を顕著に低下させてしまうことがある。したがって、これらの薬剤も検査の2週間前には中止しておくことが望ましい(理想的には3~4週間前から中止という報告もある)。
・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を使用している場合は少なくとも4週間前には中止しておくことが望ましい。
・降圧薬のなかでは長時間作用型カルシウム拮抗薬(CCB)、ドキサゾシンはARR(アルドステロン/レニン比)に与える影響がほとんどなく、検査に備える期間における降圧管理に有用である。
・前述のように「PAC/PRA>200(PAC/ARC>40)、かつPAC>120pg/mL」というスクリーニングの基準で陽性の場合には機能確認検査へ移ることを検討する。
・機能確認検査としてはカプトプリル負荷試験、生理食塩水負荷試験、フロセミド立位負荷試験、経口食塩負荷試験が知られている。これらの検査は実質的にはPAを除外するための検査としての役割もある。
・各種機能確認検査の詳細は割愛する。
AIと性ホルモン
・エストロゲンorテストステロンを単独で分泌するAIは稀である。
・良性のコルチゾール分泌性腺腫がごく稀にアンドロゲンを分泌することはある。しかし、性ホルモンの上昇は副腎皮質がん(ACC)を強く疑わせる所見であり、精査を急ぐ必要がある。
・女性におけるアンドロゲン産生腫瘍は顔面の産毛の増生、痤瘡、声の低温化、陰核肥大、男性型脱毛症などの特徴を示すことがある。また、女性におけるエストロゲン産生腫瘍では不正性器出血、乳房圧痛などを引き起こすことがある。
・男性におけるエストロゲン産生腫瘍では性欲減退、精巣萎縮、女性化乳房がみられることがある。
AIと画像検査
・AIの画像検査は特に悪性疾患を示唆する所見があるかどうかの評価において重要である。
・10mmを超えるAIでは良性疾患か悪性疾患かの判断が重要となる。
・明らかな良性疾患の特徴を有するケース(例: 巨大な脂肪腫, 単純性嚢胞)ではさらなる精査は不要なことがある。
・腫瘍径と副腎皮質がん(ACC)のリスクには相関性があり、40mm未満の場合は2%、41-60mmの場合は6%、60mm以上の場合は25%が副腎皮質がんとされている。
・イタリアの研究では副腎皮質がんの90%が初診時点で直径40mm以上であったと報告されている。40mmをカットオフ値とすると副腎皮質がんの検出感度は93%とされている。
・そのほかの検査モダリティとしては造影CT撮像、MRI撮像、PET-CT撮像などが候補として挙げられる。
・単純CT撮像ではCT値<10HUの場合は脂質に富む良性腺腫が想定される。ただし、CT値での判断はあくまで画像的に均一性の高い病変においてなされるものであり、不均一な病変などではCT値はばらつきが生じるため、安易に良性疾患とみなさないこともときに重要である。
画像検査によるフォローアップ
・欧州のガイドラインでは良性の特徴を有していて、かつ直径40mm未満の場合にはさらなる画像検査は不要と提案されている。これは52.8ヶ月間(中央値)にわたる観察で臨床的に有意な拡大(≧10mm)は患者の2.5%にしか認められず、副腎皮質がんを発症した患者はいなかったというメタ解析の結果に基づいている。
・一方で、良性の特徴を有しつつ、40mm以上の腺腫については6~12ヶ月後における画像検査でのフォローアップを行い、顕著な増大(20%以上の増大で、最低5mm以上の拡大)がみられないことを確認することが重要である。もしも増大の基準に該当する場合には外科的切除/生検が検討される。境界域の拡大所見が認められる場合には6~12ヶ月後にさらに画像検査によるフォローアップを行うことが検討される。
両側性の副腎偶発腫瘍
・両側副腎腫瘤は異なる病変の併存である可能性がある。あくまで片側病変に関する推奨事項にしたがって、個別にマネジメントすることとなる。
・なお、興味深いが、両側副腎腫瘤のケースでは一方の腫瘤が非機能性副腎皮質腺腫でありつつ、もう他方が機能性腺腫である可能性が知られている。
・また、両側副腎腫瘤(特に出血や転移を有する場合)では副腎機能低下症を伴う可能性がある点に留意する。
<両側性AIと自律性コルチゾール分泌(ACS)>
・自律性コルチゾール分泌(ACS)は片側性AI患者よりも両側性AI患者でよりみられやすい。298人の患者(片側性AI患者224人, 両側性AI患者74人)を対象とした前向き研究では両側性AI患者の35.1%で自律性コルチゾール分泌の所見が認められ、片側性AI患者では17.9%のみであったと報告された。
・両側性AIのケースで、かつ自律性コルチゾール分泌が疑われるケースでは原発性両側大結節性副腎皮質過形成(PBMAH)である可能性が最も高い。前述のとおり、PBMAHは自律性コルチゾール分泌に加えて、両側副腎に10mm以上の多発結節を認める症候群を指す。
外科的治療
・片側副腎病変で最も恐れるべき疾患は副腎皮質がん(ACC)である。
・転移を伴わない副腎皮質がんに対しては手術が最も重要な治療法となる。
・機能性片側性副腎腺腫で臨床的に有意なホルモン分泌が生じているケースでは片側副腎摘出術が実施される。
・手術は患者の年齢、コルチゾール過剰分泌の程度、全身状態、併存疾患、患者の嗜好を考慮して決定される。
・非機能性腺腫に対する手術適応に関して絶対的な基準はない。前述のように腫瘤の直径が大きいほど悪性疾患の割合が高まるため、仮に画像検査で良性疾患らしい特徴が揃っていても、40mm以上の病変に対しては手術が考慮される。
・両側AIのケースでの治療方針の決定は容易でなく、副腎摘出術の適応はコントラバーシャルな領域である。両側の副人が比較的同等な大きさであり、尿中コルチゾール値が基準値上限の3~4倍超である場合には両側副腎摘出術が検討される。
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<参考文献>
・Sherlock M, Scarsbrook A, Abbas A, Fraser S, Limumpornpetch P, Dineen R, Stewart PM. Adrenal Incidentaloma. Endocr Rev. 2020 Dec 1;41(6):775–820. doi: 10.1210/endrev/bnaa008. PMID: 32266384; PMCID: PMC7431180.