アトピー性皮膚炎 AD: atopic dermatitis
アトピー性皮膚炎とその疫学
・アトピー性皮膚炎(以下AD: Atopic dermatitis)は再発性の湿疹と強い掻痒を特徴とするアレルギー性疾患である。
・様々な年齢の患者に心理社会的な影響を及ぼし得る疾患である。また、食物アレルギー、喘息、アレルギー性鼻炎、精神疾患などといった複数の併存疾患のリスクを高めることも知られている。
・高所得国では小児の約20%、成人の約10%が罹患している。高所得国におけるADの罹患率は概ね安定し横ばいで推移しているが、世界的にみると罹患率が上昇している。ADは非致死性の皮膚疾患のなかで最も疾病負担が大きいといわれている。
・あらゆる年齢で発症し得るが、通常は乳児期、典型的には生後3~6ヶ月時点で発症する。
・経過別では再発寛解型、慢性持続型、長期寛解後に再発するケースと様々である。
・成人期まで持続するADの予測因子として、喘息または花粉症の併存、発症年齢が小さいこと、低所得者層であること、白人でないことなどが挙げられる。ただし、重症度と関連性があるかどうかは不明確である。
・AD発症の原因は複雑かつ多因子的である。遺伝的要素が強いことが知られ、その遺伝的リスクにも複数のメカニズムが関与していることが知られている。フィラグリン(FLG)をコードする遺伝子の変異は一貫して報告されている遺伝子変異で、この変異により皮膚バリア破綻が生じることが知られている。ただし、遺伝子変異以外にも環境要因による影響も示唆されていて、そちらが世界的な罹患率上昇に寄与していると考えられる。
診断/臨床症状
・ADは臨床症状、重症度、経過のいずれにおいても個別性が大きい。診断的な検査法もなく、あくまで診断は臨床診断によりなされる。
・診断の補助としてのCriteriaはいくつか開発されていて、UK Working Party criteriaが最も広く使用されるが、そのほかにもHanfinとRajkaのCriteriaなども使用される。
・本質的な特徴は強い掻痒を伴う湿疹と慢性的または再発性の経過である。
・湿疹は年齢に応じた分布を示す。
・乳児では境界不明瞭な浮腫性紅斑、浸出液、擦過を特徴とする急性の皮疹がよくみられ、広範囲に分布することもあるが、典型的には顔面、頬部、体幹に出現する。
・幼児期(2歳以上)では乳児期よりも湿疹がより限局して慢性化し、より淡い紅斑、ドライスキンなどが屈側におおくみられ、慢性化した部分は苔癬化する。
・思春期や成人期では湿疹はびまん性にみられるが、手や眼瞼、関節屈側に限局的に生じることもある。また、成人期で手のみに限局するケースや、体幹上部、肩周囲、頭部におよぶケースもある。
・ADの一般的な特徴としては、全身性のドライスキン、早期発症(生後2年以内)、患者あるいはその家族のアトピー素因(喘息, アレルギー性鼻炎, アトピー性皮膚炎など)、IgE高値などが挙げられる。
・なお、AD患者の全てがIgE媒介性のアレルギー反応を示すわけではないため、厳密には”アトピー性”とは限らない。
身体所見
・前述したような年齢に応じた湿疹や、全身性のドライスキンなどが確認される。
・ADでは下眼瞼の皺(Dannie-Mrogan徴候)、眉毛外側が疎毛となる所見(Hertoghe徴候)がみられることもある。
治療
・治療の目標は症状改善と長期的に病勢をコントロールすることにある。
・内容としては症状の誘因の回避、保湿剤による皮膚バリアの修復、病勢に応じた段階的な抗炎症治療が挙げられる。
・抗炎症治療の方法はあくまで重症度に基づいて決定される。軽度の湿疹であれば局所の外用治療で対処可能であるが、重症例では光線療法や全身性免疫抑制治療が選択されることもある。
・セルフマネジメントに関する情報提供は生活の質と重症度の改善に寄与する。
<誘因の回避>
・皮膚刺激物(例: ウール線維, アルカリ性洗剤)、気候的要因、感染症、心理的ストレス、食物アレルゲンや吸入アレルゲンの回避などが挙げられる。
<皮膚バリアの修復と維持療法>
・皮膚バリア破綻はADの主な特徴であり、ほとんどのAD患者でドライスキンがみられる。
・保湿剤は皮膚バリア機能を改善させる可能性があり、コクランレビューでも定期的な保湿剤使用によりドライスキン、掻痒、症状悪化の減少に寄与し、ひいては抗炎症治療の必要性も減少することが示されている。
・一般的には含有成分が少なく、香料を含まないような保湿剤が推奨される。
・保湿剤は入浴後を含め、1日2~3回たっぷりと外用することが重要である。
<局所の抗炎症治療>
・ステロイド外用は抗炎症治療の第一選択として挙げられる。適切な間欠的使用であればリスクはほとんどない。
・外用薬の選択、つまりステロイドの強さの選択は疾患活動性、年齢、病変部位に基づいて決定される。軽症例や若年者、顔面病変などでは原則として低力価のステロイド外用薬を選択するべきである。
・タクロリムス外用(プロトピック軟膏®)などの局所カルシニューリン阻害薬は臨床的有効性がミディアム-ステロイド外用と同等か、それ以下と考えられている。ただし、ステロイド外用でみられる皮膚萎縮を惹起しないため、間擦部位や顔面などには有用な場合がある。
<光線療法>
・外用治療で病勢のコントロールをすることが困難な場合には光線療法(通常4~8週間)が検討される。
<従来の全身療法>
・外用治療や光線療法で奏功しない場合やそういった治療が選択できない場合には全身療法の適用となる。
・ステロイド全身投与は短期間のフレア治療などで使用されることがある。
・最も一般的な従来的な全身療法はシクロスポリン、メトトレキサート、アザチオプリン、ミコフェノール酸が相当する。なかでもシクロスポリンはRCTで最も信頼性の高い有効性が確立されている。
・そのほかの詳細は割愛。
<その他の治療>
・そのほかにモノクローナル抗体製剤としてデュピルマブや、経口JAK阻害薬などが治療薬として知られる。詳細は割愛。
妊娠および授乳中の治療
・ADそれ自体が妊娠に悪影響を及ぼすことはない。
・妊娠中あるいは授乳中のステロイド外用、局所カルシニューリン阻害薬の治療などは禁止されてはいない。
・アザチオプリンやメトトレキサート、ミコフェノール酸は妊娠中や授乳中の女性には回避するべきとされている。
長期予後
・ADと他のアトピー性疾患との関連性はすでに確立していて、特に重症例でかつ発症時期が早いAD患者では喘息、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎の併存リスクが高まる。
・黄色ブドウ球菌はADで合併しやすい細菌感染症の起因菌として知られる。ウイルス感染症では伝染性軟属腫、単純ヘルペスウイルス感染症、帯状疱疹などもみられやすい。
・ADでは心理的ストレス、自尊心の低下、睡眠不足と関連する可能性がある。またシステマティックレビューやコホート研究ではADがうつ病、不安、希死念慮のリスク増加と関連していることが明らかとなっている。
・小児期のADと注意欠陥多動性障害(ADHD)との関連性は完全には解明されていない。
・小児および若年成人のQOLに関する研究ではADは身体的、心理的、社会的な影響が大きいことが報告されている。小児の慢性疾患に関する調査ではQOLに関して、ADは脳性麻痺に次いで2番目に大きな影響を有すると報告された。注目するべきはADによる影響には家族のQOL低下も含まれることであった。ADに関係する経済的負担には治療費などの直接的なコストと、患者や家族の生産性の低下などの間接的なコストが含まれる。オランダの単一施設による中等症から重症のAD患者(成人)を対象にした研究では生産性の低下が最大のコストであることが推定された。
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<参考文献>
・Langan SM, Irvine AD, Weidinger S. Atopic dermatitis. Lancet. 2020 Aug 1;396(10247):345-360. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31286-1. Erratum in: Lancet. 2020 Sep 12;396(10253):758. doi: 10.1016/S0140-6736(20)31825-0. PMID: 32738956.