低リン血症 hypophosphatemia

低リン血症とその疫学/生理学

・低リン血症(hypophosphatemia)とは血清リン濃度が2.5mg/dL(0.81mmol/L)未満となった状態を指す。なお、乳児の血清リン濃度の基準値は成人よりも高く、そして思春期を境に徐々に低下し、成人のそれと同等になる。小児では骨成長のためのリン酸塩が必要である。もしも成人と同様のリン濃度のままであれば、乳児期にくる病を起こしてしまう。

・リン酸塩(phosphate)は酸塩基平衡、細胞受容体シグナル伝達、エネルギー伝達、DNAおよびRNAにおける情報貯蔵などと様々なプロセスに関係している。

・リン酸塩の主な貯蔵場所は骨(85%)であり、それ以外のほとんどは細胞内に存在する。

・食事摂取に問題がなければ、食事由来の低リン血症が生じることが稀である。

腸管でのリン酸塩の吸収活性型ビタミンD(1,25 OH-D)によって促される。リン酸塩は糸球体で濾過され、近位尿細管での再吸収PTHFGF23の両者によって阻害される。

・ある研究では急性低リン血症をきたす入院患者の82%は薬剤が原因であったと報告されている。

臨床症状/臨床経過

・低リン血症による症状は非特異的である。

・軽度の低リン血症のケースの多くは無症状であり、偶発的に発見されることも少なくない。

全身性の筋力低下(generalized muscle weakness)は低リン血症の最も一般的な症状といえる。特に後天性の低リン血症では筋力低下易疲労感がしばしばみられる。一方で、先天性疾患、例えばX染色体連鎖性低リン血症(XLH)などで筋力低下がみられることは稀である。

重度の低リン血症では他の神経症状(例: 感覚異常/構音障害/意識レベルの変化/痙攣など)が報告されているが、一般的な症状とまではいえない。いずれにせよ急性で重度の低リン血症はときに致命的な転帰を来し得るため注意が必要である。

筋肉痛が低リン血症でみられることがあるが、急性経過の激しい筋肉痛は低リン血症を背景にした横紋筋融解症が原因している可能性もある。また低リン血症は血管内溶血の原因となることがある。

慢性経過で低リン血症が続く骨軟化症(osteomalacia)を発症し、骨痛が生じる。低リン血症の状態が慢性化した成長期の小児ではくる病の所見(例: 内反足/外反足/長管骨の末端肥大/前頭部の突出/低身長)がみられることがある。

・薬剤性の低リン血症もときにみられるため、内服薬/市販薬の使用歴を把握することも有用。

家族歴の聴取から遺伝性疾患の可能性を想起できることがある。

低リン血症の原因疾患

・低リン血症をきたす機序としては①腎臓からの排泄亢進(腎性喪失) ②腸管からの吸収量減少 ③リン酸塩の細胞内シフト量の増加 が挙げられる。腎性喪失による低リン血症ではFGF23介在性の病態と、非介在性の病態とがいずれも考えられる。①あるいは②による低リン血症は急性あるいは慢性経過での低リン血症の原因となるが、③による低リン血症の多くは急性経過で生じる。なお、急性経過で生じる低リン血症の多くは腎性喪失による影響ではない。

・アセスメントの第一歩としては低リン血症が腎性喪失により生じているのか、非腎性喪失により生じているのかを明らかにすることにある。

 <腎性喪失>

・古典的かつ一般的な遺伝性の腎性喪失の原因となる疾患はX染色体連鎖性低リン血症(XLH)である。XLHでは通常、低リン血症のほか、低値~正常値を示す1,25-OH-D、尿細管でのリン酸塩再吸収量(TmP/GFR)低値を示し、幼児のくる病の原因となる疾患である。遺伝形式はX連鎖優性遺伝であるため、男性も女性も発症し得る。XLHでは頻回に歯膿瘍、腱や靱帯の石灰化が生じ、関節痛の原因となることも知られる。XLHでは遺伝子変異によりFGF23の骨での発現増加をきたす。

FGF23は血中を循環し、主に腎尿細管のFGF受容体に作用し、結果として近位尿細管におけるリン酸塩の再吸収抑制と1,25-OH-D産生低下を来すことが知られている。

・常染色体劣性低リン血症性くる病という疾患もあり、この疾患ではFGF23の過剰による低リン血症を来すことが知られる。また常染色体優性低リン血症くる病(ADHR)という疾患でもFGF23が過剰となることが知られている。

・ほかにFGF23介在性低リン血症としては線維性骨異形成症(FD)、線状脂腺母斑症候群(LSNS)、腫瘍性骨軟化症(TIO)などが知られる。TIOの原因となる腫瘍の多くは間葉系腫瘍である。

・ほかにFanconi症候群も後天性かつ慢性経過で、腎性喪失を背景とした低リン血症をきたす疾患に挙げられる。

・なお肝切除後に低リン血症をきたすことが知られているが、その機序は不明である。腎性喪失が病態に関与していることは示唆されているが、少なくともFGF23やPTHが関係している可能性が低いという見方となっている。

 <非腎疾患>

・急性低リン血症の多くは非腎性疾患によるもので、複合的要因によるものである可能性が高い。

制酸薬リン吸着薬はときに消化管からの吸収を阻害し、急性または慢性の低リン血症をきたす。そのほか、アルコール使用過多、拒食症、重度の吸収不良症候群、飢餓などの栄養状態の悪化に寄与する病態では体内のリン酸塩の枯渇を引き起こすことがある。飢餓の際に栄養補充がなされ、Refeeding症候群に至ると低リン血症、低カリウム血症、低マグネシウム血症などをきたすことがあり、注意を要する。

・インスリン投与によってリン酸塩の細胞内シフトが生じる。また糖尿病性ケトアシドーシスのケースなどでは浸透圧性利尿によりリン酸塩が消耗されることがある。

・アスピリン中毒や急速な機械的換気による呼吸性アルカローシスが原因で、リン酸塩の細胞内シフトが生じることがある。この場合、呼吸性アルカローシスの是正により速やかに低リン血症は改善する。

・慢性腎臓病が進行すると通常は高リン血症をきたすが、血液透析などによりときに低リン血症をきたすことがある。

アセスメント

 <身体診察>

・身体診察では筋骨格系の診察に重点を置き、筋力低下の評価、骨折の有無、骨格変形の有無などを評価する。

・小児ではくる病らしい特徴がないかを確認する。下肢の変形がなくても、上肢と下肢とでのプロポーションの異常がみられることがある。関節可動域が低下している箇所があれば、XLHでみられる石灰化関節症を示唆しているかもしれない。

・非対称性の顔面や、長管骨の変形があればFDが示唆される。

TIOを想定する場合は触知可能な軟部組織腫瘤がないかをチェックする。

・肝腫大があれば、潜在的な腫瘍性病変や慢性的なアルコール使用過多の可能性なども想定する。

・café-au-lait斑(FDおよびMcCune-Albright症候群)などの有無も確認する。

 <臨床検査>

・低リン血症の原因が腎性喪失によるものか、それ以外のものかを判断するためにはTmP/GFR(尿細管でのリン酸塩再吸収量)を評価することとなる。TmP/GFRの算出にはノモグラムを利用する。通常は空腹時の尿と血液検体の提出で良い。

TmP/GFRが低値の場合リン酸塩の不適切な腎性喪失が示唆される。他方、TmP/GFRが基準値内か高値かの場合、低リン血症の原因は非腎性疾患によるものである可能性を考えることとなる。

・慢性低リン血症では骨軟化症を発症し、総ALP値は通常高値あるいは正常高値となる。また、低リン血症に高カルシウム血症が併存している場合には副甲状腺機能亢進症が疑われ、低リン血症に低カルシウム血症が併存している場合にはビタミンD欠乏やビタミンD代謝異常が疑われる。

・ビタミンD欠乏を疑う場合には25-OH-Dを測定するべきである。FGF23介在性疾患では低リン血症を生じている状態において、1,25-OH-Dが不適切に低値~正常値を示すが、他の疾患では低リン血症に対する応答として1,25-OH-Dが高値となるはずである。

・尿中Ca、尿中Crを空腹時スポット尿あるいは24時間蓄尿検査で評価することで、Fanconi症候群、副甲状腺機能亢進症などを鑑別できる場合がある。なお、Fanconi症候群はアミノ酸尿、蛋白尿、糖尿などが認められやすい。

・FGF23介在性疾患が想定される場合にはFGF23の測定も検討される。

 <画像検査>

・多くの急性低リン血症のケースでは神経学的/心臓・呼吸器合併症の評価を要する状況でない限り、画像診断は必要ない。

・一方で、慢性低リン血症のケースでは低リン血症の原因と結果の両方を評価する目的で画像検査は行われる。

・身体診察で筋骨格の変形や疼痛箇所が特定できた場合にはまず単純X線撮影を実施し、くる病、FDなどの可能性を評価する。重度の骨軟化症ではTc骨シンチグラフィーにより集積増加を認めることがある。

・顔面や脊髄のFDの可能性が想定される場合にはCT撮像やMRI撮像も検討される。

・TIOが存在する場合、触知可能な腫瘤が指摘できることがある。X線撮影、CT撮像、MRI撮像なども検討されるるが、画像診断が困難なこともある。ときにPET-CT撮像も検討される。

 <低リン血症の原因別の未治療状態での期待される検査所見>

マネジメント

・低リン血症の補正を行うことで一部の臨床検査の結果を修飾し、ときに鑑別が困難となる。したがって、可能であれば治療開始前に腎性喪失による影響か、それ以外の病態による影響かを判定するための検査を行っておくことが望ましい

・治療は可能な限り根本的原因へのアプローチを優先させつつ、低リン血症の補正を行う

・補正方法として静注投与を選ぶべきケースもある。特に重篤な状態、症候性の低リン血症の場合、腸管からの吸収障害がある場合、経口摂取ができない場合、血清リン濃度<1.5mg/dLの場合では静注投与が望ましい(投与例: リン酸Na補正液 0.5mmol/L 20mL+生食50mLを3時間程度かけて点滴静注)。

・腎機能障害を有する患者では静注投与による有害事象発現リスクが高いため注意を要する。

・一般的に経口(ホスリボン®)での補正はより安全性が高く、急性または慢性の低リン血症で安定した患者では経口投与での補正が推奨される。

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<参考文献>

・Imel EA, Econs MJ. Approach to the hypophosphatemic patient. J Clin Endocrinol Metab. 2012 Mar;97(3):696-706. doi: 10.1210/jc.2011-1319. PMID: 22392950; PMCID: PMC3319220.

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