胸水貯留 pleural effusion
胸水貯留とその疫学/病態生理
・胸水は壁側胸膜と臓側胸膜との間に液体が貯留することで生じる。
・健常者では壁側胸膜と臓側胸膜との間には0.1mg/kg程度の少量の生理的胸水は存在する。
・局所の炎症に伴い生じる滲出性胸水(exudative effusions)と、血漿膠質浸透圧低下などによって生じる漏出性胸水(transudative effusions)とに区別される。
・浸透圧や静水圧により胸膜間の液体移動が制御されている。例えば心不全や腎不全などにより毛細血管や間質内の静水圧が上昇することで胸水貯留が生じることがあり、この場合は通常、漏出性胸水と評価される。また例えばネフローゼ症候群などでは毛細血管の血症膠質浸透圧低下をきたし、そのことで漏出性胸水が生じる。
・炎症や悪性腫瘍が存在すると毛細血管における血管透過性亢進やリンパ管閉塞によって滲出性胸水が生じ得る。
・漏出性胸水で頻度が高い原因としては心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、低栄養が挙げられる。
・滲出性胸水で頻度が高い原因としては悪性腫瘍に伴う胸水、肺炎随伴性胸水、結核性胸膜炎、膿胸が挙げられる。
・また横隔膜に解剖学的構造異常が生じることで胸水が生じることもある。
・胸水貯留は薬剤によって生じることもある。主な原因薬剤としてはアミオダロン、β遮断薬、麦角アルカロイド、L-トリプトファン、メトトレキサート(MTX)、フェニトインなどが知られる。
<胸水貯留の原因/病型/主な臨床所見>
臨床症状/臨床経過
・胸水貯留があっても、無症状の場合もあれば、咳嗽や呼吸困難、胸膜痛などを自覚することもあり、様々である。
・病歴と身体診察で鑑別疾患を絞り込むことが可能。病歴聴取では特に呼吸器疾患による胸水貯留と、心血管疾患あるいはその他の疾患による胸水貯留とを区別することに重点が置かれる。
・病歴や身体所見で鑑別に有用な所見は腹水貯留、JVP高値、労作時呼吸困難、発熱、血痰、肝脾腫、起坐呼吸、末梢浮腫、Ⅲ音亢進、下腿浮腫(両側性or片側性)、体重減少などが挙げられる。
・胸壁打診での濁音は胸水貯留の存在に関して、感度も特異度も高い。
<胸水貯留に関する主な身体所見とその診断学的特性>
<胸水貯留に関する診断アルゴリズム>
画像検査
・胸水の存在が疑われる場合にはまず胸部X線撮影が行われる。
・一般的に200mL以上の胸水貯留があれば正面撮影でCP angleが鈍(dull)となる。なお、側面撮影では50mL以上の胸水貯留が存在すれば異常所見が指摘可能である。
・側臥位(lateral decubitus)での撮影では胸水貯留が連続的に存在しているか否かを判断するのに有用なことがある。
・胸部X線撮影での判断が困難なケースではCT撮像が有用である。
・超音波検査は隔壁の存在を指摘することに関してCT撮像よりも感度が高い。
・被包化胸水や胸膜肥厚があれば、膿胸や肺炎随伴性胸水が示唆される。
胸腔穿刺
・病歴や身体所見から原因が推察できる場合(例: 急性心不全, 肺炎随伴性胸水)は必ずしも胸腔穿刺の実施は必須でなく、まず原疾患の治療や利尿薬治療などを行い、反応性を確認することも検討される。
・総合的に胸水貯留の原因が判然としない場合には胸腔穿刺による診断を試みることとなる。側臥位撮影で1cm以上の胸水貯留があるケースで診断がついていないケースでは胸腔穿刺を要するという見方もある。
・一般的に大量胸水(>胸郭の1/2)、胸膜肥厚、被包化胸水の存在がみられれば、胸腔ドレナージが検討されやすい。
・穿刺後の胸部X線撮影はルーチンでの実施は不要とされていて、無症状であれば不要という見方もある。
胸水の評価
・胸水の外観(色調、透明度)、匂いを確認する。
・一般的には胸水細胞数/細胞分画、蛋白、Alb、LDH、グルコース、ADA、Ht、Chol、一般細菌-塗抹/培養、抗酸菌-塗抹/培養/核酸増幅、細胞診、セルブロックが提出される。
・一般細菌の培養検査は血液培養ボトルを利用することで感度が高まることが知られる。
・胸水pHを測定する際には血液ガス分析用のキットを利用する。注入後は速やかにキャップをして、なるべく空気に曝される時間を短くする。
・Lightの基準を利用することで滲出性胸水と漏出性胸水とを区別可能である。通常、Lightの基準は滲出性胸水について感度が高い(LR−0.04)。なお、利尿薬を使用していると実際は漏出性胸水であっても滲出性胸水と誤って判定されることがある。
・胸水穿刺の実施が奏功しなかった場合や、穿刺を実施して検査結果が得られても解釈が困難である場合などでは呼吸器科へコンサルテーションを行い、経皮的胸膜生検や胸腔鏡検査がさらに検討されることがある。また、喀血や気管支閉塞が認められれば、気管支鏡検査が検討される。
<胸水の外観とその鑑別疾患>
<胸水-検査項目とその解釈>
―――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Saguil A, Wyrick K, Hallgren J. Diagnostic approach to pleural effusion. Am Fam Physician. 2014 Jul 15;90(2):99-104. PMID: 25077579.
・Sahn SA, Huggins JT, San José ME, Álvarez-Dobaño JM, Valdés L. Can tuberculous pleural effusions be diagnosed by pleural fluid analysis alone? Int J Tuberc Lung Dis. 2013 Jun;17(6):787-93. doi: 10.5588/ijtld.12.0892. PMID: 23676163.
・Han ZJ, Wu XD, Cheng JJ, Zhao SD, Gao MZ, Huang HY, Gu B, Ma P, Chen Y, Wang JH, Yang CJ, Yan ZH. Diagnostic Accuracy of Natriuretic Peptides for Heart Failure in Patients with Pleural Effusion: A Systematic Review and Updated Meta-Analysis. PLoS One. 2015 Aug 5;10(8):e0134376. doi: 10.1371/journal.pone.0134376. PMID: 26244664; PMCID: PMC4526570.
・McGrath EE, Blades Z, Anderson PB. Chylothorax: aetiology, diagnosis and therapeutic options. Respir Med. 2010 Jan;104(1):1-8. doi: 10.1016/j.rmed.2009.08.010. Epub 2009 Sep 18. PMID: 19766473.