肝機能障害とその評価

肝臓の解剖/肝機能障害の疫学

・肝臓は炭水化物、タンパク質、脂質の代謝において中心的役割を果たす。

老化した赤血球の処理、解毒、合成能(胆汁合成, 凝固因子合成, リポ蛋白合成など)、グリコーゲン貯蔵に関わっている。

・肝小葉(acinus)はZone1~3に区別され、例えばZone 3は中心静脈周囲を指し肝動脈から最も遠い箇所にあるため酸素濃度が低い特性を有する。また、ミトコンドリアが最も豊富に存在する。Zone 3にはより高濃度のASTが存在し、この区域が障害を受けるとASTはより高値になりやすい。

・ASTは肝臓のほかに、心臓、骨格筋、腎臓、脳、赤血球と広く分布するが、ALTは主に肝臓に分布し、肝以外では低濃度で骨格筋と腎臓とに分布するのみである。したがって、ALT高値は肝障害により特異性が高いといえる。

・肝臓において、ALTは細胞質のみに局在するが、ASTは細胞質(20%)とミトコンドリア(80%)との両方に存在する。

・血中濃度半減期はALTが約47時間、ASTが約17時間である。

・肝酵素の値を解釈するには患者の臨床的背景を理解することが重要である。例えばASTやALTは激しい運動により上昇することがある。

・肝機能障害を評価するには患者の年齢、併存疾患、服薬歴と肝酵素異常が生じたタイミングとの関連性などの情報が重要である。

 <アミノトランスフェラーゼ上昇の主な原因とその特徴>

肝機能障害の評価

・肝機能障害の評価を行うにあたり、①障害パターン(肝細胞障害パターン or 胆汁うっ滞パターン) ②アミノトランスフェラーゼ高値の程度(軽度(基準値上限の5倍未満)/中等度(5~10倍)/重度(10倍以上)) ③変化の速度(時間経過に伴い増加するか低下するか) ④臨床経過(例: 軽度の変動に留まる/進行性に増加する) という点に着目して評価を行う必要がある。

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 ※ANA: 抗核抗体, ASMA: 抗平滑筋抗体,

  anti-LKM: 抗LKM-1抗体(抗肝腎ミクロソーム-1抗体)


肝細胞障害パターン

・肝障害があれば最終的にはアミノトランスフェラーゼ高値となる。

アルコール性肝疾患を有する患者ではピリドキサール-5-リン酸の欠乏によりALT活性が低下し、結果としてAST優位の肝酵素上昇となる(AST/ALT比>2.0)。

 <中等度以上のアミノトランスフェラーゼ上昇>

・アミノトランスフェラーゼが基準値上限の10倍以上に上昇(重度の上昇)では急性肝障害を生じていると評価できる。

・過去の研究によると、ウイルス性肝炎による肝障害ではアミノトランスフェラーゼ値の上昇幅が大きく、基準値上限の5~10倍(AST: 200IU/L(感度 91, 特異度 95), ALT: 300IU/L(感度 96, 特異度 94))以上であることが報告されている。換言すれば、この値を下回るようであれば急性ウイルス性肝炎が原因である可能性は低い。

・急性ウイルス性肝炎ではアミノトランスフェラーゼ値は黄疸が出現する前にピークに達し、その後はアミノトランスフェラーゼ値が緩やかに低下する。また、血清ビリルビン値は比較的高値となる。急性ウイルス性肝炎の約50%でLDH高値を伴うが、基準値を多少上回る程度であることが多い。

・黄疸はHAV感染の約70%、HBV感染の33~50%、HCV感染の20~33%で生じる。

・急性ウイルス性肝炎が疑われる場合にはIgM-HAV抗体、IgM-HBc抗体、HBs抗原、HCV抗体を確認することとなる。なお、HDV感染は通常HBV感染と共感染するため、HBV感染を示唆する所見がなければ、HDVに関する精査は不要である。

・アミノトランスフェラーゼ値が著明に高い場合(基準値上限の75倍以上)には通常、虚血性肝障害中毒性肝障害が示唆される。この上昇幅では急性ウイルス性肝炎の頻度は低い。

虚血性肝障害の特徴としては、アミノトランスフェラーゼ値がピークに達した後の低下が早いことが知られている。なお、虚血性肝障害のマーカーとしてはALT/LDH比<1.0が知られている。

PT延長、高ビリルビン血症がみられるケースでは肝不全のリスクが高まるため、慎重な経過観察が求められる。

アルコール性肝疾患の98%でAST高値がみられ、基準値上限の6~7倍未満に留まり、AST/ALT比>1.0(症例の92%)、AST/ALT比>2.0(症例の70%)が特徴である。

・前述のような急性肝障害の一般的な原因が除外された場合には他の肝炎をきたすウイルス(例: CMV, EBV)や自己免疫性疾患、肝外胆管閉塞による影響(例: 胆管癌)、先天性疾患の可能性を考慮するべきである。

自己免疫性肝炎では軽度のアミノトランスフェラーゼ上昇、または黄疸を伴う中等度以上のアミノトランスフェラーゼ上昇(症例の49%)がみられる。

 <軽度のアミノトランスフェラーゼ上昇>

・軽度のアミノトランスフェラーゼ上昇は日常臨床で遭遇しやすい。

薬剤性が頻度としては高く、市販薬を含め服薬歴を聴取する。被疑薬を中止したうえで改善に転じれば、その可能性が高まる。

MASLD(≒NAFLD)は軽度のアミノトランスフェラーゼ上昇の頻度の高い原因である。

・そのほかHBVやHCVによる慢性ウイルス性肝炎の可能性も考慮する。アミノトランスフェラーゼ値の軽度上昇がみられる患者では全例でHBs抗原、HCV抗体を確認するべきという見方もある。もしもHCV抗体が陽性であれば、HCV-RNA検査(定性)を実施することとなる。

・HCVによる慢性肝炎患者の4%、肝硬変を併発している患者の79%ではAST/ALT比>1.0となる。

先天性疾患としては遺伝性ヘモクロマトーシスなどが想定される。遺伝性ヘモクロマトーシスは常染色体劣性遺伝形式をとり、肝臓、膵臓、心臓へのヘモジデリン沈着を特徴とする。疑われれば、血清フェリチン、鉄、TIBCを測定することとなる。血清フェリチン高値、TSAT>45%であれば本疾患が強く疑われる。診断は遺伝子検査によってなされる。

慢性甲状腺炎などの自己免疫疾患が併存している患者(特に女性患者)で、アミノトランスフェラーゼ値の軽度上昇がみられるケースでは自己免疫性肝炎の可能性を考慮する。高ガンマグロブリン血症を伴うことがあり、疑われれば抗核抗体(ANA)、抗平滑筋抗体(ASMA)、抗肝腎ミクロソーム抗体の提出を検討する。診断基準の内容には肝生検も含まれる。ステロイド治療で劇的な改善がみられることもあるが、寛解と再燃を繰り返すこともある。

溶血性貧血や精神症状を伴う若年患者ではWilson病を疑い、血清セルロプラスミン値、血清銅、24時間尿中銅を検査することを検討する。Wilson病では血清セルロプラスミン低値、尿中銅排泄亢進が認められ、眼科的精査でKyser-Fleischer輪が確認されれば診断的である。もしも診断が不明確な場合には肝生検を要することがある。

α1アンチトリプシン欠損症は欧米では新生児1,600~2,800人に1人の頻度で発症する。通常は小児期に発症するため、成人で診断されることは稀である。成人患者の場合で肺疾患(肺気腫)を併発している場合にこの疾患が疑われ、血清α1アンチトリプシン低値が確認される。

・原因不明のアミノトランスフェラーゼ高値の最大10%はセリアック病と報告されている。ただ、本邦ではより頻度が低い。

胆汁うっ滞パターン

 <ALP>

・ALPは細胞膜を超えて、代謝物を輸送する役割を担う酵素である。

・ALP高値となる最も一般的な原因としては肝疾患および骨疾患が挙げられる。ただし、ALPは胎盤、腎臓、小腸などの他の組織、または白血球から生じることもある。

妊娠第3期(胎盤由来)および思春期(骨由来)においては、血清ALPの単独高値がみられる。

・肝臓のALPは胆管上皮に存在する。胆汁うっ滞が生じるとALPの合成および遊離が促される。

・ALPの血中濃度半減期はアイソザイムによって異なるが、通常は約1週間である。したがって、胆管閉塞が解消された後もALP値は比較的緩徐に低下していくことが一般的である。

・ALP高値の原因が不明瞭な場合にはγGTP測定かALPアイソザイムの測定かが検討されるが、実際的にγGTP測定の方がより有用であることが多い。

・肝臓の超音波検査では胆管拡張や慢性肝疾患や肝硬変を示唆する所見、肝腫瘤が確認されることもある。

薬剤性肝障害では胆汁うっ滞パターンを呈することがある(ALPの選択的高値、あるいはALT/ALP<2.0)。ALPの上昇幅は様々で、高ビリルビン血症を伴うこともある。例えばACE阻害薬やホルモン製剤(例: エストロゲン製剤)は胆汁うっ滞を惹起することがある。薬剤性の場合、超音波検査では肝臓に異常所見が認められないことが典型的である。

炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎)では様々な程度でALP高値が認められることがあり、ときに原発性硬化性胆管炎(PSC)の合併を示唆する。PSC患者の約70%は潰瘍性大腸炎(UC)に関連しているとされている。また、UCには関連しにくいが同様の血液検査異常所見があり、掻痒感が目立つ場合には原発性胆汁性胆管炎(PBC)を想定する。PBCを疑った場合には抗ミトコンドリア抗体、総IgM値の確認を行う。PBCやPSCでは血清ビリルビン値が予後予測に有用といわれている。また肝臓の超音波検査ではびまん性所見あるいは肝硬変を示唆する所見が認められることがある。

・またALP高値の原因として肝への浸潤性疾患が挙げられ、悪性リンパ腫、転移性肝腫瘍、サルコイドーシスなどが主に考えられる。腹部超音波検査も有用であるが、ときに肝生検での精査を要する。

 <γGTP>

・γGTPは肝細胞、胆管上皮細胞、腎尿細管、膵臓、腸管に存在する酵素である。

・γGTPは抗てんかん薬、経口避妊薬などにより酵素活性が誘導されることがある。

・γGTP高値はときに慢性閉塞性肺疾患(COPD)、腎不全などの肝疾患以外の疾患でも確認される。また、急性心筋梗塞後も数週間続くことがある。これらでは酵素活性の上昇のほか、クリアランス低下も関連して生じている。

・MASLD(≒NAFLD)患者の50%以上で、γGTPは基準値上限の2~3倍に達する。また、慢性C型肝炎患者の約30%で基準値上限を超えることが知られている。

 <ビリルビン(Bil)>

・ビリルビンは老化した赤血球が網内系で処理されて生じる

・網内系で生じたビリルビンは間接ビリルビンとして肝臓へ運搬され、グルクロン酸抱合を受け、直接ビリルビンとして胆汁中に排泄される

・間接ビリルビンはビリルビン産生の増大、肝臓への取り込み低下、肝臓での抱合能の低下などにより増加し得る。

成人の間接ビリルビン優位のビリルビン上昇の一般的な原因としては、溶血、Gilbert症候群が知られる。溶血は貧血の有無、網状赤血球数、ハプトグロビン値を評価することで除外できる。Girbert症候群では肝臓での抱合能低下を先天的に伴う。これらの疾患では肝臓の超音波検査で通常異常所見が認められない。

間接ビリルビン優位のビリルビン上昇比較的稀な原因としては、大量の血腫再吸収無効造血などが挙げられる。

健常者では胆汁分泌が速やかなので、直接ビリルビンがほとんど血中に存在しないはずである。しかし、肝臓での胆汁排泄能力がおよそ半分程度損なわれると、直接ビリルビンは上昇し始めることが知られている。したがって、直接ビリルビン高値は通常、肝疾患を示唆する。

・直接ビリルビン高値の一般的な原因としては胆管閉塞なども挙げられる。

・直接ビリルビン高値の原因が除去されると、原因によらず、血中ビリルビン値は二峰性に減少することが知られている。通常、まず急速に低下し、その後、ビリルビンとアルブミンとが結合して複合体(δ-ビリルビン)を形成することで、低下が緩やかなものに変わるはずである。

 <γGTP高値で、かつALP高値(肝由来)が認められる場合の鑑別>

 <高ビリルビン血症の原因と臨床的特徴>

アルブミンとPTの評価

・血清アルブミン値、PTの測定はしばしば肝機能評価の一環で行われる。

進行した肝疾患では肝合成能低下により血清アルブミン低値となり、凝固因子合成低下によりPT延長をきたす。

・ただし血清アルブミン値もPTも肝特異的な検査所見ではないことに留意する必要がある。血清アルブミン値は吸収不良症候群、ネフローゼ症候群、蛋白漏出性胃腸症、低栄養でも低下がみられる。また、PTはワルファリン内服、ビタミンK欠乏などによっても延長する。なお、ビタミンKは凝固因子Ⅱ, Ⅶ, Ⅹを活性化させるために必要である。

・アルブミンの血中濃度半減期は約20日間と長く、凝固因子の半減期は約1日間と短い。

・なお、肝機能が著明に低下するまではPTは長期間、正常範囲内に留まりやすい。代償性肝硬変の患者ではPTは正常であることも少なくない。

・また閉塞性黄疸を来す疾患では腸管への胆汁分泌が低下するため、ビタミンK吸収能が低下し、PT延長をきたすことがある。この状況ではビタミンKの静注によりPTは改善するが、経口投与ではPTは改善しないはずである。

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<参考文献>

・Giannini EG, Testa R, Savarino V. Liver enzyme alteration: a guide for clinicians. CMAJ. 2005 Feb 1;172(3):367-79. doi: 10.1503/cmaj.1040752. PMID: 15684121; PMCID: PMC545762.

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