けいれんへの対処/てんかん発作 convulsion/seizure

てんかん発作の疫学/病歴

・80歳まで生活している方の最大10%が人生で1回以上の発作(seizure)を経験するとされていて、なかでもその約半数を熱性けいれんが占めると言われている。

・なお、けいれん(convulsion)発作(seizure)は異なる概念である。発作はけいれん性発作(convulsive seizure)非けいれん性発作(non-convulsive seizure)とにさらに分けられる。また、Seizureを反復する疾患をてんかん(epilepsy)と呼ぶ。

・85%の患者は病歴で診断が可能。血液検査、心電図検査、脳波検査、MRI撮像などの検査はてんかん(epilepsy)の分類とリスクの予測とにおいて重要である。

・当初は”初発のてんかん発作”と考えて対処していたとしても、改めて病歴聴取をしなおすと過去に発作を経験しているようなケースも存在し、その場合には診断がてんかん(epilepsy)となる。

・ヨーロッパの報告では初発の発作の発症率は年間10万人あたり約70人と報告されていて、低所得国ではその約2倍に上昇すると推定されている。

・”てんかん”という疾患に対する社会的なスティグマや運転免許の取り消しに対する不安などから、てんかんを有していることを自己申告されないこともある。

発作後朦朧状態(postictal state)、チアノーゼ、舌側面の咬傷痕、先行する既視感or未視感の病歴、発作中の反応性の欠如、頭部や眼球の片側への偏倚、規則的な四肢の震えなどてんかん発作でみられやすい所見である。患者は発作中の自身の様子を把握できないため、目撃者の情報が重要である。

てんかん発作の区別

・臨床的には初発の発作が意識消失を伴うものか否かの区別が重要である。

 <意識減損を伴わない発作>

  <ミオクローヌス>

・ミオクローヌスは不規則かつ素早い動きで、四肢では”ピクッ”とするような動きで視認できる。

睡眠時ミオクローヌスも一般的で、睡眠中に突然ビクッとして目が覚めることもある。多くの人が一度は経験したことがあるものと思われる。

薬剤(オピオイド, 抗うつ薬, 抗精神病薬など)によりミオクローヌスが生じることもある。

てんかんによって二次的にミオクローヌス発作が生じることがある。

若年ミオクロニーてんかん(JME: juvenile myoclonic epilepsy)の症状としても知られ、典型的には睡眠不足で、起床後数時間以内にミオクローヌスが生じる。

  <前兆(aura)>

・てんかん発作の前兆(aura)は数秒間だけみられ、意識消失を伴わない部分発作でみられる。

・自律神経性の前兆では上腹部における感覚異常(不快感, 悪心など)が生じやすい。

デジャブ(既視感)が生じることがある。デジャブは側頭葉を起源とした発作で一般的にみられやすい。

・ほかに離人感なども経験される。

  <単純部分発作(simple partial motor seizure)>

四肢遠位部において、間代性(clonic/規則的な震え)、強直性(tonic/硬直)あるいはジストニー運動(dystonic)がみられ、通常は数秒間続く。

・大脳皮質または脊髄疾患による痙縮(spasticity)や局所性ジストニア(facal dystonia/例: 書痙)などとは区別される概念である。

 <意識減損を伴う発作>

  <欠神発作(absences)>

・欠神発作は数秒間から数分間続き、突然意識を失い、一日に複数回生じることもある。

眼瞼の痙攣などがみられることはあるが、一般的には脱力してしまい倒れるようなことはしない

小児期に発症することが多いが、約70~80%で成人期まで続く

・脳波検査は90%以上の症例で有用である。また過呼吸で典型的な所見がみられることもある。

 <複雑部分発作(complex partial seizure)>

・大脳皮質の一部が過剰興奮して生じる、意識減損を伴う発作を指す。

・ときに前兆(aura)を伴い、一点凝視をしたり、自動症(例: 口をモグモグする)がみられたりすることがある。また周囲にある物を利用して、物を叩いたり、発生をしたりすることもある。

・発作は通常数秒から数分間続き、通常意思疎通はできない

 <強直間代性発作(tonic-clonic seizure)>

・多くの場合、はじめに発声が生じた後に緊張が失われて、倒れ、その後に強直発作(tonic/硬直)を生じ、間代発作(clonic/規則的な震え)へ移行する

舌の側面に咬傷を伴ったり、失禁がみられたりすることが多い。

・発作が全身性に生じる場合は前兆を伴いやすく、発作が局所に留まる場合は前兆を伴いにくい。

・発作は通常1~2分間続き、発作後朦朧状態(postictal state)は最低でも10分以上はみられる。

一過性意識消失で鑑別を要する主な疾患/病態

・一過性意識消失(transient loss of consciousness)をきたす疾患/病態としてはてんかん発作(seizure)より失神(syncope)の方が多い。

 <失神(syncope)>

前駆症状として視野症状(例: 視界のぼやけ)、発汗、めまい、呼吸困難、悪心、動悸などを自覚することがある。

長時間の座位や立位による失神、蒼白は比較的よくみられやすい所見である。

・ときに脳血流の低下を原因として失神と痙攣を生じることがあり、痙攣性失神(Convulsive syncope)と呼ばれる。Convulsive syncopeはEpilepsyとは明確に区別されるが、Convulsive syncopeでみられやすい痙攣の多くはミオクローヌス性痙攣であり、通常は短時間に留まる。ただし、患者が臥位をとることができないケースでは強直間代性発作様の痙攣となることがある。

てんかん発作(seizure)Convulsive syncopeはいずれも痙攣時に開眼がみられる。そのほかの一過性意識消失をきたす疾患は通常、閉眼しているはずである。

・不整脈や心臓の構造的異常によるConvulsive syncopeは標準化死亡比が約2倍に上昇するため、緊急的な精査の対象となる。

 <心因性非てんかん性発作>

心因性非てんかん性発作(PNES: psychogenic non-epileptic seizures)はてんかん発作が疑われる発作症状があり、その発作に関しててんかん発作および他の器質因が除外された際に診断される。心理的苦痛や葛藤、トラウマなどに関連した感情的かつ行動的反応と捉えられている。

・主な特徴として顔色不良や酸素飽和度低下を伴わず、意識消失が比較的長時間に及ぶこと、震えが非律動的であること、骨盤を突き動かすような動き、頭部や体幹部の左右への動き、発作時の泣き声、他動的開眼への抵抗性、発作時の記憶が保たれること、発作後朦朧状態(postictal state)の欠如などが挙げられる。

マネジメント

・いかなる種類の初回発作であっても、全例で専門医へ紹介されるべきとされている。

・強直間代発作が認められた場合にはABCの確保(特に気道確保)、周囲の危険の除去、器質因の除外(例: 低血糖, 代謝性疾患, 敗血症, 中毒, 離脱症状, 脳卒中など)のための検査が必要となる。

・初発のてんかん発作に相当し、再発リスクが低く、神経学的巣症状(focal sign)もなく、MRI撮像や脳波検査でも異常所見がないケースでは5年以内の再発リスクは35%とされ、抗てんかん薬の導入は通常行われない。

・発作が再発or持続するケース、急性期治療を必要とするような背景疾患などがあるケース、意識障害がみられるケース、神経学的脱落所見があるケースなどでは入院が必要である。

 

 <新規のSeizureに対するアプローチ>

痙攣重積状態とその治療

けいれんが頓挫せずに5分間以上続くケースや、意識障害が改善しないまま2回以上けいれんが反復するケース痙攣重積状態(status epilepticus)と考えることが原則である。この場合、ベンゾジアゼピン系薬剤の投与を必要とする。

<第一段階(早期てんかん重積状態(5~30分間持続するけいれん))>

ベンゾジアゼピン系薬剤の投与を急ぎつつ、同時並行でバイタルサインの確認、静脈路確保、血液検査(血中濃度測定なども含む)、血液ガス分析などでの器質因の精査も行う。

ベンゾジアゼピン系薬剤の静注が基本となる(投与例: ジアゼパム5~10mg 静注(小児: 0.3~0.5mg/kg)/ロラゼパム 4mg 静注(小児: 0.1mg/kg(Max 4mg))。

ルート確保が困難な場合にはミダゾラム鼻腔・口腔内・筋注投与が検討可能である。この場合、ミダゾラム 10mg筋注(or鼻腔/口腔内投与)を行う。小児では0.3mg/kgでの用量で投与する。

低血糖(目安60mg/dL未満)を伴う場合血糖補正も行いつつ、ビタミンB1補充も行うことがある(投与例: 塩酸チアミン100mg 静注+50%ブドウ糖液50mL静注)。

<第二段階(確定したてんかん重積状態(30分以上続くけいれん))>

気道確保、酸素投与、モニタリングを行う。

・前述の第一段階での治療を行ってもけいれんが持続する場合は第二段階として、以下の薬剤投与を検討する。

・薬剤治療としてはレベチラセタム(投与例: 1,000~3,000mg(2~5mg/kg/分)15分かけて点滴静注(小児: 20~60mg/kg/(Max 3,000mg)))、ホスフェニトイン(投与例: 22.5mg/kg静注(150mg/分以下))や、フェノバルビタール、ミダゾラムの投与を検討する。

・けいれんが停止し、ABCの確保ができていれば、必要に応じて頭部CT撮像、頭部MRI撮像を検討する。

<第三段階(難治てんかん重積状態(60~120分以上続くけいれん))>

・第二段階までの治療を行ったうえでも、けいれんが続く場合には気管挿管および人工呼吸、脳波モニタリングも行うことがある。

・薬物治療としてはミダゾラム(投与例: 0.05~0.4mg/kg/時で持続静注(小児: 0.1~0.5mg/kg/時))や、プロポフォール、チオペンタールなどの投与を検討する。

・髄膜炎や脳炎の存在が疑われるケースでは髄液検査を実施する。髄液中の抗神経抗体を後から検索できるように、髄液検体の一部を冷凍保存しておくことも可能である。

 <新規のEpilepsyに対するアプローチ>

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<参考文献>

・Angus-Leppan H. First seizures in adults. BMJ. 2014 Apr 15;348:g2470. doi: 10.1136/bmj.g2470. Erratum in: BMJ. 2014;348:g2977. PMID: 24736280.

・Gavvala JR, Schuele SU. New-Onset Seizure in Adults and Adolescents: A Review. JAMA. 2016 Dec 27;316(24):2657-2668. doi: 10.1001/jama.2016.18625. PMID: 28027373.

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