前庭神経炎 VN: vestibular neuritis

前庭神経炎とその疫学

・前庭神経炎(以下VN: vestibular neuritis)とはいわゆる末梢性めまいの原因となる疾患の一つである。通常、蝸牛症状(耳鳴、難聴)は伴わない

・恐らく前庭神経節における単純ヘルペスウイルス(HSV)の再活性化による前庭機能低下が生じているものと推定されている。

・メニエール病と疾患を区別するために1952年に前庭神経炎という用語が示された。なお、前庭神経炎と名付けたのはDixとHallpikeであった。

・ある報告ではVNの発症率は人口10万人あたり3.5人とされる。

・主な症状としては、めまい、悪心/嘔吐、ふらつきなどがある。

・VNでは健側へ向かう水平方向眼振Head impulse test(HIT)の異常、患側のカロリック試験陽性、患側に傾きやすいなどの所見がみられる。なお、HIT陽性であっても中枢性疾患は否定できないことに留意する。

・前庭迷路は上部と下部とに分けられ、上部には水平半規管、卵形嚢、前庭が存在し、下部には後半期間、球形嚢が存在する。HITによって各半規管の機能を評価できる。

・VNでは主に上部の前庭迷路に影響を及ぼすため、上前庭神経炎が最も多い(55~100%)。それに次いで上下前庭神経炎(15~30%)、下前庭神経炎(3.7~15%)の順で多い。なお、下前庭神経炎のごく一部のケースでは蝸牛症状(耳鳴、難聴)を伴うことがある。

・VNで再発をきたす割合は2~11%低い

・VN患者の10~15%では数週間以内に患側耳においてBPPVを発症することが知られている。ほかに持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)を合併するケースもある。

臨床症状/臨床経過

・VNのほとんどで急性~亜急性経過のめまい、悪心/嘔吐、ふらつきといった症状がみられる。

突発的に発症することもあれば、数時間かけて進行することもあり、発症様式は様々である。

・前駆症状としてのめまいが8.6~24%で認められる。なお、前駆症状のめまいは非回転性めまいであることがほとんど(74%)。

・ウイルス感染症の先行感染が生じていた可能性がある。また、同時期に感染症を発症しているケースもある。

・めまいは数時間かけて緩徐に悪化し、最初の1日以内にピークに達しやすい。通常は回転性めまいに相当し、頭位変換で増悪する。通常、患者は健側を下にし、目を閉じた状態で側臥位になる。また重度の悪心/嘔吐を起こす。

・めまいは通常1~2日ほどで改善に転じる

・自発性眼振は通常、上方成分の要素を伴う。眼振はフレンツェル眼鏡を利用すると、より観察しやすい。患側に視線を誘導させると眼振は増大し、健側に誘導させると減弱することが典型的である(Alexander’s law)。なお、VNでは眼振の方向が変わることはない。

・両足を揃えて立位をとってもらったときや、歩行したときには患側へ傾きやすい。立位を維持しようとする際には両足を広げた姿勢で維持しようとするはずである。

診断基準(日本めまい平衡医学会 2017年)

  1. 症状
    • 1. 突発的な回転性めまい発作で発症する。回転性めまい発作は1回のことが多い。
    • 2. 回転性めまい発作の後、体動時あるいは歩行時のふらつき感が持続する。
    • 3. めまいに随伴する難聴、耳鳴、耳閉感などの聴覚症状を認めない。
    • 4. 第Ⅷ脳神経以外の神経症状がない。
  2. 検査所見
    • 1. 温度刺激検査により一側または両側の末梢前庭機能障害(半規管機能低下)を認める。
    • 2. 回転性めまい発作時に自発および頭位眼振検査で方向固定性の水平性または水平回旋混合性眼振を認める。
    • 3. 聴力検査で正常聴力またはめまいと関連しない難聴を示す。
    • 4. 前庭神経炎と類似のめまい症状を呈する内耳・後迷路性疾患、小脳、脳幹を中心とした中枢性疾患など、原因基地の疾患を除外できる。

 

<確実例(Definite vestibular neuritis)>

 ・A.症状の4項目を満たし、B.検査所見の4項目を満たしたもの。

 <疑い例(Probable vestibular neuritis)>

 ・A症状の4項目を満たしたもの。

治療

・VNの治療法としては支持療法、ステロイド治療、前提リハビリテーションが挙げられる。

・悪心/嘔吐、めまいを自覚する場合は対症療法を行う。

・ステロイド投与の有効性について、コクランレビューではその有用性を指示する根拠が不十分と結論付けている。

・また、バラシクロビル単独投与や、バラシクロビルとステロイドの併用治療も有効性が示されなかった。

・急性期に前庭リハビリテーションを行うことが有効であることは示されている。患者は1日3回、少なくとも30分間程度は運動を行うべきという見方もある。

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<参考文献>

・Jeong SH, Kim HJ, Kim JS. Vestibular neuritis. Semin Neurol. 2013 Jul;33(3):185-94. doi: 10.1055/s-0033-1354598. Epub 2013 Sep 21. PMID: 24057821.

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