破傷風 tetanus
破傷風とその疫学
・破傷風(tetanus)は破傷風菌(Clostridium tetani)が産生する神経毒素により発症する疾患である。
・先進国では破傷風トキソイドのワクチン接種が進み、発症率は大幅に減少している。本邦では1964年に百日咳/ジフテリア/破傷風混合ワクチン(DPT)接種が導入され、1968年から定期接種が開始された。2012年からは百日咳/ジフテリア/破傷風/不活化ポリオワクチン(DPT-IPV)の接種が開始された。本邦における届出数は年間約100例である。
・ICUを備えた先進国における致死率は20%未満とされている。
・ヒト-ヒト感染はみられない。通常は土壌などに存在する破傷風菌が傷口から侵入し、傷部分で破傷風菌が増殖し、産生された毒素が血行性に全身に伝播し神経症状を生じさせる。
・破傷風患者の7~21%では原因を同定できない。
・潜伏期間は3~21日間である。潜伏期間が短い症例ほど死亡率が高くなる。
臨床所見/診断
・破傷風に特異的な検査異常はない。
・創部からの細菌培養は感度と特異度とはいずれも低く、有用でない。
・破傷風は臨床診断される。
・開口しようとしてもできないことが特徴で(開口障害/牙関緊急)、通常、頸部筋の緊張が強い。開口障害によって苦笑しているような表情にみえる(痙笑)。
・破傷風には全身型破傷風(generalized)、限局型破傷風(localized)、脳神経障害型(cephalic)、新生児破傷風(neonatal)の4つの病型に分けられる。
・開口障害は比較的初期にみられやすい。そのほか筋痙攣、筋硬直、嚥下困難などもみられる。
・意識障害をきたすことはない。
・腱反射は亢進し、病的反射がみられることもある。
・脳神経では特に顔面神経麻痺がみられやすい。しかし、その他の脳神経麻痺が生じることもある。
・外眼筋麻痺、Horner症候群を呈することもある。
・中耳炎から脳神経障害型破傷風に進展する報告例がある。
感染対策
・ワクチン接種歴、外傷の性状などに応じて、破傷風トキソイドワクチン、ヒト破傷風グロブリン(TIG)の投与を要する。
・DPTワクチンが定期接種化されたのが1968年であるため、それ以前に生まれた方は基本的に基礎免疫を有していないため、原則としてどういった外傷でもトキソイドワクチンを要する。ただし、1期3回接種がなされていることが確かで、さらに10年以内に追加接種(ブースター接種)が実施されている場合においてのみ不要である。
・破傷風トキソイドワクチンを接種する場合は通常1期3回の接種となり、受傷3~8週間後に2回目接種、そのさらに6~18ヶ月後に3回目接種で完了となる。接種は世界的に筋注が標準的である。
・破傷風の発症リスクの高い創傷の場合は破傷風ヒト免疫グロブリンも追加投与することとなる(投与例: テタノブリンIH®250単位+生食100mL 点滴静注)。一般的にリスクが高い創傷は、深さ1cm以上の鋭的損傷、受傷から6時間以上経過、挫滅創/爆裂創/凍傷による傷、組織の壊死や壊疽を起こしている、土/糞便などで汚染された開放創、などが挙げられる。
<予防接種歴が不明か, 3回接種していないケース>
<リスクの小さい創傷>
・破傷風トキソイドワクチン:要する
・破傷風ヒト免疫グロブリン:不要
<リスクの大きい創傷>
・破傷風トキソイドワクチン:要する
・破傷風ヒト免疫グロブリン:要する
<3回のワクチン接種が完了しているケース>
<リスクの小さい創傷>
・破傷風トキソイドワクチン:不要(ただし10年以内に追加接種がない場合には必要)
・破傷風ヒト免疫グロブリン:不要
<リスクの大きい創傷>
・破傷風トキソイドワクチン:不要(ただし5年以内に追加が接種がない場合には必要)
・破傷風ヒト免疫グロブリン:不要
治療
・破傷風を臨床診断した場合の治療法には抗菌薬投与、創部の洗浄、破傷風ヒト免疫グロブリン投与などが挙げられる。
・創部の洗浄が有用な可能性は示唆されている。洗浄のほか、必要に応じてデブリドマン、異物除去を行う。創部のケアにより、C.tetaniを物理的に除去し、抗菌活性を改善させられる可能性が想定されている。
・抗菌薬治療としてはPCG大量投与が原則となり、300~400万単位を4~6時間ごとに投与し、7~10日間の治療期間を見込む。ほか、MNZ 500mg 6時間ごと投与(10~14日間)や、DOXYの投与(7~10日間)なども選択肢となる。
・毒素の中和を目的に破傷風ヒト免疫グロブリン、破傷風トキソイドワクチンの接種を行う。なお、破傷風に対する免疫はワクチン接種以外で得られることはない。
・必要に応じてミダゾラムやジアゼパムなによる鎮静、痙攣への対処を行う。
・硫酸マグネシウムはそれ自体が痙攣や自律神経症症状に対して有効性を発揮することがある。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Afshar M, Raju M, Ansell D, Bleck TP. Narrative review: tetanus-a health threat after natural disasters in developing countries. Ann Intern Med. 2011 Mar 1;154(5):329-35. doi: 10.7326/0003-4819-154-5-201103010-00007. PMID: 21357910.