唾液腺疾患 salivary gland disorders
唾液腺疾患の疫学/病因
・唾液腺疾患の病因としては炎症性、細菌性、ウイルス性、腫瘍性などに大別される。
・唾液には潤滑を良くして嚥下を助ける役割、アミラーゼによってデンプンを消化する役割、味覚に関係する役割、齲歯を予防する役割などがある。
・大唾液腺には耳下腺、顎下腺、舌下腺がある。小唾液腺には口唇、舌、口腔、咽頭粘膜に存在する。
・閉塞性唾液腺炎(主に唾石や狭窄に由来)は良性唾液腺疾患の約半数を占める。
・悪性腫瘍は比較的稀であり、全ての頭頚部腫瘍の約6%を占める。
炎症性疾患
<急性化膿性唾液腺炎>
・通常は耳下腺を侵す。
・口腔粘膜内から唾液腺管を介した逆行性感染をきたすことが一般的である。
・脱水や経口摂取量減少により、唾液流量が減少することで生じやすい。
・発症の素因として糖尿病、甲状腺機能低下症、Sjögren症候群(SjS)、腎不全が知られる。
・特に抗コリン作用を有する薬剤は唾液流量を減少させ、発症に影響することがある。
・再発をきたすこともある。
・起因菌としては黄色ブドウ球菌(S.aureus)が50~90%を占め、そのほか溶連菌(streptococcus)、インフルエンザ菌(H.influenzae)が関与することも一般的である。
・自覚症状としては唾液腺に一致する疼痛、腫脹が一般的である。
・身体所見では唾液腺の腫大、硬結、局所的な圧痛がみられる。唾液腺をマッサージすることで、腺開口部から排膿がみられることがある。膿汁は培養に提出することも検討する。
・治療としては前述の糖尿病などの背景疾患があればそちらのマネジメントも行うことが重要で、そのほか抗菌薬治療を行うことが一般的である。トローチなどを利用した唾液分泌促進、水分補給、唾液腺マッサージ、口腔衛生保持なども治療に含まれる。
・ときに膿瘍形成する場合があり、状況によってはドレナージ術の適応となる。
<小児の再発性唾液腺炎>
・原因が明らかでないことが多いが、小児では再発性唾液腺炎をきたすことがある。
・典型的には発熱、倦怠感、疼痛を伴う耳下腺腫脹がみられる。
・多くは片側性で生じるが、両側性のケースもある。
・症状はときに数日から数週間続き、数ヶ月おきに発現することもある。
・通常、思春期には自然軽快し、手術などの侵襲的治療を要することは稀である。
<唾石症>
・別に記事を作成しているため、ここでは割愛する。
ウイルス性疾患
<流行性耳下腺炎(ムンプス)>
・別に記事を作成しているため、ここでは割愛する。
<HIV感染症>
・HIV感染症では大唾液腺における、びまん性嚢胞性腫大がみられることがある。
・唾液腺リンパ上皮性嚢胞は初発症状であることもあれば、比較的病期が進行してから生じることもある。
・耳下腺が侵されることが多く、緩徐に腫大しやすい。
・唾液分泌低下とそれに伴う口腔粘膜乾燥がみられ、Sjögren症候群に類似した病像を呈することがある。
・画像検査では通常、多発嚢胞がみられ、びまん性リンパ節腫脹も伴う。
・HIV感染症に対する抗レトロウイルス療法、口腔衛生保持などが治療として行われる。
腫瘍性
<良性腫瘍>
・小児で一般的な良性腫瘍としては血管腫、リンパ奇形、多形腺腫が挙げられる。ただし、小児における唾液腺腫瘍の50%以上は悪性であることには留意しなければならない。
・成人では多形腺腫が一般的である。
・通常は無痛性、無症候性で、緩徐に増大する耳下腺腫瘤として認識される。
・診断のためには穿刺吸引針生検、超音波検査、CT撮像、MRI撮像が検討される。一部の腫瘍、特に多形腺腫では悪性転化する場合がある。
・唾液腺腫瘍は診断を確定させたうえで、完全に切除することも検討される。
<悪性腫瘍>
・多くの耳下腺腫瘍は良性であるが、顎下腺/舌下腺/小唾液腺における腫瘍性病変は悪性である可能性が比較的高い。
・生検を実施せずに良性腫瘍と悪性腫瘍とを区別することは困難なことが多い。どちらも通常、無痛性腫瘤として認識される。
・疼痛を伴うケース、顔面神経麻痺が併存するケース、リンパ節腫脹が触知されるケースなどでは悪性腫瘍が想定される。
・非急性経過の顔面神経麻痺を呈し、他に原因を同定できない場合には耳下腺に関する精査を行うべきである。
・初期評価では超音波検査、造影CT撮像、MRI撮像などを検討し、状況に応じて穿刺吸引針生検を検討される。
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<参考文献>
・Wilson KF, Meier JD, Ward PD. Salivary gland disorders. Am Fam Physician. 2014 Jun 1;89(11):882-8. PMID: 25077394.