メニエール病

メニエール病とその疫学

・メニエール病(Ménière病)は再発性のめまいを特徴とする疾患で、主に患側の低音域の感音性難聴、耳閉感、耳鳴を伴う。

発作がない間は無症状であるが、発作時には片側性の感音性難聴、耳鳴が生じる。

・メニエール病は19世紀初頭にパリで働くフランス人医師、Prosper Meniereによって初めて報告された。

・病態としては内耳における内リンパ水腫が原因と考えられていて、くも膜下腔への吸収不全もその一因と想定されている。発作が自然軽快するのは内圧が高まった膜迷路における軽微な破裂が生じている可能性が考えられている。

・有病率は地域によって大きく異なるが、2010年の米国における調査では人口10万人あたり約190人とされた。

・診断は一般的に40~60歳代でされることが多い。

再発性のめまいを特徴とするため、新規発症のめまいでメニエール病が診断されることは原則的にない。

臨床症状/臨床経過

・前述のように典型的な臨床症状としては低音域が障害される感音性難聴、耳鳴、耳閉感が知られる。

・通常は片側性に生じるが、約30%のケースで両側性に症状がみられる。したがって、両側性のケースで安易に除外をしない。

・めまいは比較的急速に悪化し、患者によっては臥位から動けなくなるほどの症状になることもある。めまいは通常20分から数時間程度で治まる。全体的な発作は少なくとも20分間続き、24時間以内に改善するのが典型。

・なお、感音性難聴、めまい、耳鳴の3症状を全て伴うケースは全体の約1/3に過ぎない。ただし、通常は数年後には全ての症状が揃うことが典型的で、むしろ年単位で発作を繰り返しているにも関わらず一向に蝸牛症状を伴わないようなケースではメニエール病以外の疾患の可能性を想起する必要がある。

・通常、めまい自体は5~15年程度の経過で生じなくなるが、軽度の平衡感覚障害、耳鳴、中程度の片側性感音性難聴は常時みられる状態になり得る。

・長期にわたる難聴の平均値は患側において約50dBとされる。

・一部の患者は突発的なドロップアタック(drop attacks)を経験する。これは意識を保ったまま、突然転倒する発作のことで、通常は転倒後すぐに起き上がることが可能。まるで背後から突き落とされるような感覚や、周囲の環境が急に動いたような感覚を持つことすらある。ドロップアタックはメニエール病患者の10%未満で経験される。これは前庭脊髄路の運動ニューロンの活性化を誘発するような、耳石膜の急激な機械的変形が原因と考えられている。

アセスメント

・通常は病歴聴取と身体診察で良性発作性頭位めまい症(BPPV)、急性前庭神経炎(VN)、前庭性片頭痛などといった一般的なめまいの原因を鑑別することは可能。

・発作時には水平回旋性眼振がみられることがある。

一過性脳虚血発作(後方循環系)、外リンパ瘻(主に外傷後、真珠腫性中耳炎による)、聴神経鞘腫(徐々に進行する片側性難聴など)などもときに重要な鑑別疾患となる。

・いわゆるレッドフラッグとされる所見としては中枢神経症状を伴うケース(特に脳幹部)、突発性の重度な難聴(瘻孔あるいは蝸牛の虚血)、後頭部の激しい頭痛を伴うケース(SAHや脳圧亢進など)、垂直性眼振(脳幹部病変など)などが挙げられる。

検査

・メニエール病は臨床診断であるが、発作を起こした場合に聴力検査で一過性の片側性の低音域の感音性難聴がみられれば、診断の有力な根拠となる。また、聴力は発作後に一時的に回復することも特徴的。

・また、メニエール病を疑うケースでは聴神経鞘腫のスクリーニング検査としてMRIによる評価を受けるべきとされる。メニエール病では通常、著しい片側性の感音性難聴を呈するが、聴神経鞘腫でも類似した病像を呈することがあるため、MRI撮像が推奨される。

マネジメント

・メニエール病が疑われる場合にはまずは3ヶ月間程度のベタヒスチン投与を試すことも妥当である。それでも急性の発作を繰り返す場合にはさらなる介入を検討する。

ドロップアタックを経験しているケースは特に積極的な治療適応となる可能性がある。ゲンタマイシンの耳管内注入療法が最もエビデンスが集積した治療法として知られる。

リハビリテーションも聴覚と前庭機能低下に対して重要で、必要に応じて補聴器を利用したり、前庭リハビリテーションなども行われる。

・メニエール病の患者では不安、抑うつ状態、広場恐怖などの問題を抱えていることもあり、心理面への配慮も重要。

・エビデンスの質は高いとはいえないが、塩分制限は内リンパにおける浸透圧上昇を抑えることにつながり、発作抑制に有効な可能性が示されている。ほか、カフェイン、アルコール、チーズ、チョコレートの摂取を制限することや禁煙を推奨する見方もある。

・ベタヒスチンはヒスタミンの類似体であるが、1日16mgを3回にわけて投与することで、発作の重症度と頻度とを軽減することが期待されている。2010年に報告されたベタヒスチンに関するコクランレビューではほとんどがベタヒスチンがめまい症状軽減につながることを示している。ただし、エビデンスの質が十分とはいえず、根拠としては限定的とされる。ただし、ベタヒスチンは高価な薬剤でなく、副作用が多いものでもないため、まず使用してみることは妥当と思われる。

・内リンパ水腫が病態であるため、利尿薬の使用が有効という理論が以前からあるが、コクランレビューではその有効性を示せなかった。

・外科手術として前庭神経切断術などが知られるが、こちらについては詳細を割愛する。

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<参考文献>

・Harcourt J, Barraclough K, Bronstein AM. Meniere's disease. BMJ. 2014 Nov 12;349:g6544. doi: 10.1136/bmj.g6544. PMID: 25391837.

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