大腿骨近位部骨折(頸部骨折/転子部骨折/転子下骨折) hip fracture

大腿骨近位部骨折とその疫学

・毎年約450万人が大腿骨近位部骨折を発症している。

・大腿骨近位部骨折は世界的にもDisabilityの原因の上位10以内に含まれる。

・大腿骨近位部骨折は関節包内の骨折(頸部骨折)関節包外の骨折(転子部骨折、転子下骨折)に分類される。また、大腿骨頸部骨折は転位のあるもの(displaced)転位のないもの(nondisplaced)に分けられる。頸部骨折の約1/3は転位のないものに相当する。

・大腿骨頸部の直下の骨折を転子部骨折といい、小転子より尾側の骨折を転子下骨折という。

発症後1年以内の死亡率が高い疾患として知られる。また、手術後1ヶ月以内の死亡率が約10%という報告もある。

・通常、迅速な手術が行われるが、手術後はADL低下をきたすことが少なくない。

・発症後の死亡のリスク因子としては高齢、男性、社会的/経済的困窮、併存疾患、認知症、施設入所などが特定されている。しかし、多くのリスク因子は修正不可能なものである。

治療

・治療法を決定するうえで、骨折の分類、転位の程度、全身状態や併存疾患などを把握することが重要である。

骨折後の転位が大きいほど、大腿骨頭への血流供給が障害されるリスクが高まり、それは結果として大腿骨頭壊死や骨折の癒合不全に関係し得る。大腿骨頭への血液供給は主に内側回旋動脈と外側回旋動脈の分枝によりなされている。

・耐術能を有し、外科的治療が困難な一部のケースを除き、原則として大腿骨頸部骨折のほとんどのケースに対して手術治療が推奨される。単一施設におけるレトロスペクティブ研究では手術を実施しなかった患者群の1年後の死亡率は手術を実施された患者群群の4倍に相当し、2年後においては3倍に相当していたと報告された。また別のレトロスペクティブ研究では非手術群で安静臥床を原則とした患者群の30日死亡率は早期から運動療法を行った患者群のそれの約3.8倍であったと報告された。この研究で死亡率に関して統計学的有意差は示されなかったが、早期に運動療法を行ったほうが死亡率は低下したという観察研究の結果はほかにもある。

・大腿骨頚部骨折の手術は骨折発生後48時間以内に実施することを推奨するガイドラインもある。この推奨は手術までの時間がより短いほど患者の予後が改善したという観察研究の結果に基づいている。さらに急性期の頸部骨折による疼痛、出血、不動状態による炎症/凝固能亢進/蛋白異化亢進などを避けることも早期の手術を推奨する要因の一つである。また、入院から手術までの時間を6時間以内にすることで、6時間を超過した場合よりも30日後の術後合併症発生率をより大きく低減させられることが示唆されている。ただし、これらの研究は交絡因子による修飾を受けている可能性を考慮しなければならない。

・大腿骨頚部骨折に対する手術治療の選択肢としては骨接合術(内固定術/internal fixation)人工骨頭置換術(arthroplasty)とが挙げられる。転位のない骨折(Garden分類 Ⅰ~Ⅱ)では骨接合術が選択される。なお、65歳以上の頸部骨折の患者における手術法についてのメタ解析では人工骨頭置換術は骨接合術よりも再手術となるリスクがより低いことが示された(RR: 0.23(95%CI: 0.13-0.42))。ただし、人工骨頭置換術は骨接合術よりも感染リスクが高いことが示されている点に留意が必要である(RR: 1.81(1.16-2.85))。

転子部骨折および転子下骨折では大腿骨頭への血流がおおむね保たれているため、骨接合術を選択することが一般的である。

術後のケア

術後早期からの運動療法が推奨されている。

下肢のDVT予防および抗菌薬予防投与、骨粗鬆症の評価/治療も実施される。特に大腿骨近位部骨折は骨粗鬆症患者に多くみられることに留意する。

・また骨折後はカルシウムおよびビタミンDの日常的な摂取が推奨される。その後の骨折リスク軽減のためにもビスホスホネート製剤(BP製剤)の速やかな開始が推奨される。なお、ビスホスホネート製剤の投与は骨折の治療に悪影響を与えることはないとされている。

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<参考文献>

・Bhandari M, Swiontkowski M. Management of Acute Hip Fracture. N Engl J Med. 2017 Nov 23;377(21):2053-2062. doi: 10.1056/NEJMcp1611090. PMID: 29166235.

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