鼻出血 epistaxis
鼻出血とその疫学
・鼻出血(epistaxis)はCommonな現象で、鼻出血をきたした患者の約6%が医療機関を受診するという報告がある。
・鼻出血は明らかな誘因なしに自然に生じることが多い。
・鼻出血の原因およびリスク因子としては局所の問題(例: 粘膜の乾燥/外傷/鼻腔内への薬剤投与/感染/炎症/腫瘍性)、全身性疾患(例: 血液疾患(白血病など)/動脈硬化/高血圧性/うっ血性心不全)が挙げられる。
・繰り返す鼻出血は全身性疾患あるいは局所性疾患の初期徴候の可能性がある。遺伝性出血性末梢血管拡張症(Osler病)は5,000人に1人の割合で発症する常染色体優性遺伝の疾患で、粘膜における毛細血管拡張や全身性の動静脈奇形の原因となる。この疾患はしばしば再発性鼻出血を契機に診断されることもある。
・鼻は血管の発達が盛んで、内頚動脈および外頚動脈の分枝が伸びている。鼻出血の約80~90%は鼻中隔前方に位置するキーゼルバッハ部位(Kiesselbach plexus)から生じている。キーゼルバッハ部位は内頚動脈と外頚動脈の分枝の血流が合流する箇所として知られる。この部位からの出血であれば、通常は容易に圧迫止血で対処可能である。
・鼻出血の約10~20%は後方出血によるものであり、蝶口蓋動脈(sphenopalatine artery)と上行咽頭動脈(ascending pharyngeal artery)の分枝由来の出血である。後方出血は出血量が比較的多く、止血が容易でないケースも多く、気道閉塞や誤嚥リスクが高い。
・鼻出血の多くは圧迫止血による対処が可能である。しかし、抗血小板薬内服や凝固異常のあるケースなどでは止血が容易でないことがある。
アセスメント
・鼻出血患者の診察では血液に触れる機会があるため、標準予防策を徹底することが原則である。
・まずは気道と血行動態の評価を行う。鼻出血によって気道閉塞や循環血液量減少性ショックをきたすことは稀であるが、両側からの出血例や失神、皮膚蒼白、末梢冷感などを来しているケースでは注意が必要である。
・病歴聴取やバイタルサイン測定は患者自身で鼻翼の圧迫止血を行ってもらいながら、同時並行で行うこととなる。問診では出血量と出血頻度、鼻や顔面の外傷歴、手術歴、併存疾患、定期服薬の有無などを聴取する。
治療
<圧迫止血>
・まずは鼻翼を押さえて圧迫止血を図る。通常、15~20分間程度は圧迫し、途中で圧迫を解除しないことが重要である。
・圧迫止血を終えた後は鼻鏡とライトを利用して鼻腔前部の観察を行う。その際に出血が持続し、かつ出血箇所を特定可能な場合は局所血管収縮薬あるいは焼灼術を用いる。一方で出血箇所が特定できない場合には圧迫止血を継続する。通常はこれらの処置により出血は制御可能である。
<局所血管収縮薬の使用>
・局所血管収縮薬を利用した治療としては、アドレナリン(ボスミン®)を染み込ませたガーゼを利用することがある。実際には1,000倍希釈アドレナリン(ボスミン®)と4%キシロカインとを1:1の割合で混合した液体を用意し、コメガーゼを浸す。浸したコメガーゼを鼻腔内に挿入した鼻腔内に薬剤が触れるイメージで挿入した後にはその状態で再度15~20分ほど圧迫止血し、ガーゼを除去し、止血しているかどうかを確認する。その後、抗菌薬含有軟膏を塗ったガーゼを鼻腔底に沿って挿入し(ガーゼパッキング)、数日以内に耳鼻咽喉科を受診することを約束し、処置終了とする。なお、挿入したガーゼの枚数なども記録しておくとよい。
<トラネキサム酸>
・トラネキサム酸(TXA)は抗線溶薬の一つで、経口投与または局所投与により鼻出血の抑制に寄与することがある。
・コクランレビューでは経口投与または局所投与によりプラセボ薬に比して、10日以内の再出血リスクを低減するという中等度のエビデンスが示された(RR 0.71(95%CI: 0.56-0.90))。
<焼灼術>
・出血部位が特定されたあとは焼灼術が行われる場合がある。
・焼灼術の合併症としては感染症、鼻腔乾燥が知られている。鼻中隔穿孔などをきたすことは稀とされている。
<動脈結紮術/血管内塞栓術>
・前述の治療に抵抗性を示す、再発性鼻出血に対しては動脈結紮術や血管内塞栓術が検討される。この場合、副鼻腔機能は温存したまま、出血源をコントロールすることが目的である。
・詳細は割愛する。
抗血小板薬および抗凝固薬を使用しているケース
・抗血小板薬や抗凝固薬を使用している患者ではそうでない患者に比して、再発性鼻出血や輸血を必要とする大量出血に至る割合が高い。
・治療内容は前述のとおりであるが、適切な処置を行っても止血が得られない場合には抗血小板薬または抗凝固薬の使用を中止する場合もある。ただし、ルーチンでの中止は避け、出血の重症度に応じて検討することとなる。
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<参考文献>
・Seikaly H. Epistaxis. N Engl J Med. 2021 Mar 11;384(10):944-951. doi: 10.1056/NEJMcp2019344. PMID: 33704939.