群発頭痛 cluster headache
群発頭痛とその疫学
・群発頭痛は一次性頭痛の一つである。通常、短時間(通常15~180分間)の頭痛が1日最大8回まで生じる。頭痛は片側の顔面において発作的に生じ、それと同時に同側の自律神経症状(流涙、縮瞳、鼻閉など)、落ち着かない感覚を伴う。
・疼痛は通常かなり強く、自殺願望を伴わせることもある。治療法が他の疾患と異なるため、適切な診断が重要。なお、三叉神経痛や片頭痛と混同されることが多いとされる。
・生涯有病率は0.12%と推定されている。年間発症率は明らかでない。
・あらゆる年齢で発症し得るが、好発年齢は20~40歳代に相当する。また、男性に好発する。アジア人では欧米の方々と比べて男性患者の割合が高い傾向にあり、また慢性群発頭痛の有病率は低い傾向にある。
・群発頭痛患者の約80%は発作が数週間から数ヶ月の間にのみ生じる発作型(episodic subtype)であり、多くの場合、年周期で生じる。残りの約20%は慢性型(chronic subtype)で、年間を通じて定期的に生じ、寛解期間が3ヶ月を超えることがないことが特徴である。
・群発頭痛は三叉神経自律神経性頭痛(TACs: Trigeminal autonomic cephalalgias)という概念の中に含まれるが、 TACsには他に発作性片側頭痛、短時間持続性片側神経痛様頭痛発作、持続性片側頭痛が含まれる。いずれも群発頭痛と同様の自律神経症状を伴うが、持続時間などにおいてその性状が異なる。
併存疾患
・睡眠時無呼吸症候群(SAS)は群発頭痛に併存しやすい。
・糖尿病の発症リスクを低下させる可能性が示唆されている。
・気分障害は併存しやすく、特に不安症状と抑うつ症状の両者のリスクが高い。希死念慮を伴う割合も非常に高く、アメリカと韓国のデータでは約50~60%でみられる。
・喫煙率も高いことが示されていて、それは結果なのか、原因なのかがよくわかっていない。少なくとも禁煙を行っても、一度発症した群発頭痛は変化しないことが知られている。
診断基準(ICHD-3)
- B~Dを満たす発作が5回以上ある.
- (未治療の場合に)重度~きわめて重度の一側の痛みが眼窩部, 眼窩上部または側頭部のいずれか1つ以上の部位に, 15~180分間持続する.
- 以下の1項目以上を認める.
- ①頭痛と同側に少なくとも以下の症状あるいは徴候の1項目を伴う
- a) 結膜充血または流涙(あるいはその両方)
- b) 鼻閉または鼻漏(あるいはその両方)
- c) 眼瞼浮腫
- d) 前頭部および顔面の発汗
- e) 縮瞳または眼瞼下垂(あるいはその両方)
- ②落ち着きのない, あるいは興奮した様子.
- 発作の頻度は1回/2日~8回/日である.
- ほかに最適なICHD-3の診断がない.
疼痛の強度
・群発頭痛の疼痛は激しいものであることが典型的。
・1,604人の群発頭痛患者を対象としたオンライン調査ではNRSで平均値は9.7であった。なお、次に強い痛みとしては出産に伴う痛みが位置し、こちらは7.2であった。
・ただし、疼痛の自覚は個人差が大きく、仮に疼痛が激しいものでなくても、群発頭痛は必ずしも否定されない。
前兆と発作
・疼痛は発作時に最強に達するが、約83%のケースで前兆がみられることが報告されている。
・前兆としては発作の約1時間前などに、患側の疼痛、流涙、鼻閉などの感覚、集中困難、気分の変化などを自覚する。
・発作の誘因として最も一般的なものはアルコールであり、40~80%でみられる。
臨床症状
・主な症状は診断基準にも記載されるようなものである。
・約2/3のケースで光過敏、音過敏を伴う。約1/4のケースで発作時に悪心または嘔吐を伴う。したがって、群発頭痛は片頭痛と解釈される可能性がある。
・片頭痛と群発頭痛とは主に持続時間(群発頭痛では3時間未満に対し、片頭痛では4時間以上)、落ち着きのなさ(群発頭痛では落ち着きがない様子となり、片頭痛では体動で頭痛が悪化する)で区別する。
・発作時の落ち着きの無さは群発頭痛に特徴的であるが、患者によっては歩き回ったり、体を揺らしたり、声を上げたり、ランニングや腕立て伏せをしたりと様々である。
・自傷行為に及ぶこともあるが、これは自殺願望とは無関係に起こることも特徴的である。ときに頭をぶつけるなどの自傷行為がみられる。
自律神神経症状
・発作時には自律神経症状を伴う。その各所見から群発頭痛を”副交感神経発作(parasympathetic paroxysm)”と称する者もいる。
・主に患側の縮瞳、流涙、鼻閉などがみられる。
発作が起こる時期
・約80%で発作が起こる時間帯が予測でき、最も一般的なのは午前02時~午前03時とされる。
・発作は昼寝の最中に生じることもあるが、夜間の就寝中に生じることの方が約2倍多く、睡眠以外の要因も発作に関係していると思われる。
・季節性も知られていて、夏は最も発作が生じにくく、春と秋とにおいて最も発作が起こりやすいとされる。これは日照時間のほか、天候をはじめとした複合的な要因が影響しているものと想定されている。
鑑別疾患
・前述のTACsに含まれる他の病型がまず鑑別疾患として挙げられる。これらは治療法が一部異なる可能性がある。
・下垂体腺腫、髄膜腫、脳動静脈奇形などは二次的な群発頭痛の原因となることがある。
・そのほか急性閉塞隅角緑内障、埋伏歯、Tolosa-Hunt症候群、巨細胞性動脈炎などが鑑別疾患として挙げられる。
急性期治療
・群発頭痛の急性期治療として第一選択は酸素投与とスマトリプタン皮下注であり、いずれもエビデンスレベルAとされる。ただし、スマトリプタン皮下注は血管収縮作用を発揮するため、数週間以上にわたる連日投与は推奨されない点に留意する。
・トリプタン製剤で最も有効なのは皮下投与であるが、次いでゾルミトリプタン点鼻、スマトリプタン点鼻、ゾルミトリプタン内服の順に有効とされる。なお、トリプタン製剤は血管収縮作用があるため、心筋梗塞、脳卒中、コントロール不良な高血圧症などでは原則として使用しない。
・酸素投与は10L/minの流量で15分間程度行うことが多い。一般的にはより高い流量が望ましく、10L/minを超える流量でより有効であることが知られていて、スマトリプタン皮下注と同等の効果があると考えられている。当然、火災に注意する必要がある。
ブリッジ療法(Bridge therapies)
・ブリッジ療法は群発頭痛の管理で使用されることがある。
・RCTでは17日間のPSL投与で改善がみられることが示された。100mg/日 5日間投与で開始し、その後3日ごとに20mg/日ずつ漸減するレジメンであった。
・ほか詳細は割愛する。
予防治療
・一般的に慢性群発頭痛のケースでは継続的な予防治療を必要とする。一方で、発作性の群発頭痛では症状が現れる期間においてのみ予防治療を必要とする。
・予防治療は発作を完全に防ぐことはできないが、その頻度や強度は軽減させられる。
・ベラパミルは予防薬としては第一選択に位置する。予防効果はモノアミン神経伝達径および視床下部における作用が関係している可能性が想定されている。ベラパミルの使用にあたっては便秘、QT延長、徐脈などに注意が必要である。ロメリジンなども有効と思われる。
・そのほかメラトニン、トピラマート、バルプロ酸などの有効性も一部示されている。
・ガルカネズマブ(エムガルティ®)はヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤で、発作性の群発頭痛にも使用可能な予防薬として知られている。ただし、本邦では保険適用外。
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<参考文献>
・Schindler EAD, Burish MJ. Recent advances in the diagnosis and management of cluster headache. BMJ. 2022 Mar 16;376:e059577. doi: 10.1136/bmj-2020-059577. PMID: 35296510.