一酸化炭素中毒/CO中毒 carbon monoxide poisoning

一酸化炭素中毒とその疫学/病態生理

・一酸化炭素中毒(CO中毒)は炭素を含む物質が酸素不十分な状況下で不完全燃焼を起こすことで生じる。主に換気不十分な環境下で石油ストーブ、薪ストーブ、練炭などを使用することで発症する。

・また自動車のマフラー周囲が雪で覆われている状況でエンジンをかけたままにしているとCO中毒になることがある。

・COは無臭気体であるため、充満していても匂いで気がつくことはない。

病態生理

・COは血液中のHbと可逆的に結合することでカルボキシヘモグロビン(CO-Hb)を形成する。CO-Hb存在下ではHbの酸素解離曲線を左方移動させ、組織でのHbからの酸素の解離が障害されてしまう。また、CO-Hbは心機能障害を来し、心拍出量を低下させる作用もある。結果として、これらの相乗効果によって全身の組織の低酸素状態が形成される。

・COはHbとの親和性が高く、酸素の200倍以上結合しやすい。したがって、吸入されたCOの総量が比較的少量であっても、CO-Hbは形成される。

自覚症状

・CO中毒の症状は非特異的である。

・軽症例では頭痛、筋肉痛、めまいなどを自覚する。重症例では意識障害を来す場合があり、致命的な転帰をたどることがある。

・CO中毒では遅発性脳障害とも呼ばれる、神経学的後遺症を残すことがある。あるRCTでは高圧酸素療法(HBO: Hyperbaric oxygen)でなく、平圧酸素療法(NBO: Normobaric oxygen)を受けたCO中毒患者の46%が発症から6週時点で認知機能障害を残したと報告されている。その他にも歩行障害、運動障害、末梢神経障害、難聴、前庭機能障害、認知症などをきたす場合もある。

画像所見

急性期では頭部MRI撮像で両側淡蒼球の壊死を反映しT2WIで高信号を来し、細胞性浮腫を反映しDWIで高信号、ADCmapで低信号を呈する。なお、淡蒼球における信号変化は肝性脳症、高アンモニア血症でもみられることがあり、CO中毒に特異的な所見ではない。

・慢性期では淡蒼球における空洞性変化、海馬萎縮などもみられる。

・頭部MRI撮像は他疾患の除外目的でも利用される。

急性期のマネジメント

・まずは100%酸素投与を吸入してもらって、平圧酸素療法(NBO: Normobaric oxygen)を行いながら、救急医療施設へ搬送を急ぐことが第一である。NBOはCO排出を早め、比較的安価に実施できるため、CO-HB値が5%未満になるまで実施するべきである。

・CO中毒ではパルスオキシメーターで測定されるSpO2で異常所見がみられないため、病歴などからCO中毒を疑えば血液ガス分析でCO-Hb値を測定するべきである。なお、静脈血の血液ガス分析でもCO-Hbの評価は可能である。CO-Hb値は通常、曝露時のCO濃度曝露された時間とによって決まる。

非喫煙者では3%以上喫煙者では10%以上のCO-Hb値はCOへの曝露を裏付ける所見となる。ただし、この数値は初期症状の程度やその後の予後と必ずしも相関しない。

・CO中毒では冠動脈に異常所見がない方であっても心筋障害を惹起することがあるため、心電図検査心筋逸脱酵素の評価はしておくべきである。

・高圧酸素療法(HBO)については後述する。

高圧酸素療法(HBO)

・CO中毒の治療では高圧酸素療法(HBO)の利用を検討するべきである。

・HBOとは1.4絶対気圧以上に加圧した空間内で100%酸素を吸入して行う治療を指す。

・HBOは動脈およぼ末梢組織における酸素分圧を上昇させ、COの排泄が促される。また、ATP産生も増加し、酸化ストレスや炎症を軽減する効果も期待できる。

・ある前向き研究ではCO中毒発症24時間以内にHBOを3回(初回150分間で、その後6~12時間間隔で120分間を2回追加)受けた患者のほうが、NBOで治療された患者よりも12ヶ月時点での認知機能障害の発生率が有意に低いことが示された(18% vs 33%(P=0.04))。

・2.5~3.0絶対気圧のHBOを実施した場合のCOの半減期は約20分間である。対して、室内気での呼吸では約4~5時間である。

長期的なマネジメント

・急性期治療を終えた後もフォローアップを行うことが重要。

・治療後の回復の程度と早さは様々である。また、神経学的後遺症は発症からしばらく時間経過してから顕在化することがある。

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<参考文献>

・Weaver LK. Clinical practice. Carbon monoxide poisoning. N Engl J Med. 2009 Mar 19;360(12):1217-25. doi: 10.1056/NEJMcp0808891. PMID: 19297574.

・Howe K, Griffen D, Jaeger C. Human carbon monoxide factory. Am J Emerg Med. 2016 Nov;34(11):2251.e3-2251.e4. doi: 10.1016/j.ajem.2016.04.008. Epub 2016 Apr 8. PMID: 27117658.

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