アスピリン増悪性呼吸性疾患 AERD: Aspirin-Exacerbated Respiratory Disease
アスピリン増悪性呼吸性疾患とその疫学
・アスピリン増悪性呼吸性疾患(以下AERD: Aspirin-Exacerbated Respiratory Disease)はアスピリンやNSAIDsなどの薬剤によって誘発される喘息の一種である。NSAIDs不耐症と呼ばれることもある。
・鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎、喘息とアスピリンやNSAIDsに対する過敏反応を特徴とする。
・AERDは全喘息患者の約7%でみられる。
・女性に生じやすく、欧米のデータでは男女比は1:2.3と報告される。また、重症例も女性に多い傾向にある。
・患者の70%が急性期治療を必要とする。
・20歳代から50歳代で好発する。
・アルコール過敏症を有する患者も多い。
臨床症状/臨床経過
・30歳前後で、アレルギー性鼻炎や喘息の既往を有する人が、ウイルス性上気道炎などを発症することを契機にAERDを発症すると考えられている。
・AERDを発症すると嗅覚低下、鼻閉が生じ、最終的には鼻茸を伴う副鼻腔炎に至る。そして、多くの患者で喘息が併存する。
・鼻茸を伴う副鼻腔炎(あるいは喘息)が存在し、アスピリンやCOX-1を阻害する作用のあるNSAIDsを接種した後に呼吸状態が悪化した場合にAERDが疑われる。
・症状が上気道症状のみに留まることもある。また、NSAIDs服用から平均50~90分後に症状が出現するため、関連性に気づかれない場合もある。
・ほとんどの患者で上気道症状(鼻閉, くしゃみ, 眼球の掻痒感, 流涙)を呈し、一部の患者では喘鳴、呼吸困難、FEV1低下などの下気道症状がみられる。また、頻度は低いが蕁麻疹や顔面紅潮、消化器症状(悪心/嘔吐、腹痛)もみられることがある。
誘発薬剤
・COX-1阻害薬は交差反応によって呼吸症状の悪化を招く。
・過去の報告によると呼吸器症状を起こしやすい薬剤としては、アスピリン(80%)、イブプロフェン(41%)、ナプロキセン(4%)が挙げられている。なお、COX-2選択的阻害薬のセレコキシブも呼吸器症状を起こした報告例もあり、注意を要する。
・アセトアミノフェンは500mg未満の低用量であればAERD患者に呼吸器症状を誘発することはない。しかし、1,000mg以上の投与ではAERD患者の約1/3で軽度の喘息症状と鼻症状が誘発されるという報告がある。
治療
・マネジメントとしてはまずCOX-1阻害薬の使用を回避することが挙げられる。
・喘息と慢性副鼻腔炎の標準治療に準じた対応も求められる。AERD患者では通常ICS/LABAによるコントローラーを用いた治療がなされる。また、LTRAの併用は一部のAERDに患者において有効な場合がある。
・鼻茸を伴う場合、内視鏡下副鼻腔手術が検討されることもある。
・アスピリン減感作もときに検討される。
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<参考文献>
・Stevenson DD, White AA. Clinical Characteristics of Aspirin-Exacerbated Respiratory Disease. Immunol Allergy Clin North Am. 2016 Nov;36(4):643-655. doi: 10.1016/j.iac.2016.06.002. Epub 2016 Sep 13. PMID: 27712760.
・Woessner KM. Update on Aspirin-Exacerbated Respiratory Disease. Curr Allergy Asthma Rep. 2017 Jan;17(1):2. doi: 10.1007/s11882-017-0673-6. PMID: 28097500.
・Walgama ES, Hwang PH. Aspirin-Exacerbated Respiratory Disease. Otolaryngol Clin North Am. 2017 Feb;50(1):83-94. doi: 10.1016/j.otc.2016.08.007. PMID: 27888917.