ピロリン酸カルシウム結晶沈着症 CPPD disease: calcium pyrophosphate deposition disease

CPPDとその疫学

・ピロリン酸カルシウム結晶沈着症(以下CPPD disease: calcium pyrophosphate deposition disease)はピロリン酸カルシウム(CPP)によって引き起こされる関節炎である。

・CPPD diseaseの有病率は欧米では成人で4~7%程度と推定されている。

加齢がリスク因子であり、60歳未満の患者で生じることは稀である。

関節の外傷歴、変形性関節症もリスク因子となる。特に膝関節の半月板損傷は強く関連する。

・ALPの機能低下によっても生じるため、低ホスファターゼ症でもCPPD diseaseは併発しやすい。また、副甲状腺機能亢進症、ヘモクロマトーシス、低マグネシウム血症とも関連性が示されている。マグネシウムはCPP結晶の溶解性を高める効果を有すると考えられている。60歳未満でCPPD diseaseを発症した患者では背景疾患が存在する可能性があるため、前述したような代謝性疾患に関する診察および検査が必要である

・医原性の要因としては関節内ヒアルロン酸注入がCPPD diseaseを誘発する可能性があることが示唆されている。そのほかループ系利尿薬、G-CSF製剤などとの関連性も示唆されている。

臨床経過/臨床症状

・偽痛風(pseudogout)はCPPD diseaseのなかで最も広く認識されている疾患であり、通常、急性経過で単関節炎あるいは少関節炎をきたす。

・侵された関節においては熱感、圧痛、腫脹、発赤などが認められ、身体所見のみでは偽痛風と化膿性関節炎とを区別することはできないということに留意することが重要。

・CPPD diseaseでは通常、発熱、悪寒といった全身症状を伴う。

・痛風関節炎の発作(attacks)は通常、数日間から1週間程度と短いのと対照的に、CPPD diseaseの発作は数週間から数ヶ月続くこともある。

・稀にピロリン酸カルシウム結晶は椎間板や脊椎靱帯などの脊椎組織においても沈着がみられる。特にCrowned dens syndrome(CDS)は軸椎背側における沈着によって生じ、急性経過で強い頸部痛、発熱などがみられる。

・同様に、稀ながらピロリン酸カルシウム結晶の腫瘍性沈着が軟部組織で生じ、組織障害を来すことがある。ときに悪性腫瘍と誤認される。

画像検査

・X線撮影で石灰沈着が認められることもある。しかし、臨床的に重要なCPPD diseaseの約40%でしか石灰沈着は同定できないことが知られている。

・したがって、石灰沈着がみられないことはCPPD diseaesの否定に繋がらない。

・また重度の変形性関節症などでは石灰沈着の描出がそもそも困難なことがある。

・膝関節、恥骨結合、手関節を含むX線撮影では84歳以上の患者の44%で石灰沈着が認められると報告されている。

診断

・罹患関節における関節液検体を利用し、偏光顕微鏡で結晶の存在が示されれば診断的といえる。

化膿性関節炎と併発する場合があるため、関節液培養や血液培養などを含めた適切に鑑別を行うことが望ましい。

治療

炎症を抑えるための治療法が有効である。

・関節内ステロイド注射は急性のCPPD diseaseには有効とされる。

・臨床的に重大な腎機能障害や肝機能障害がないケースではコルヒチン内服も選択肢となる。また、発作頻度を減少させるために予防的に連日コルヒチンを内服することの有効性を支持するエビデンスもある。

・NSAIDsは有効である。また、ステロイド全身投与(例: PSL 5~10mg/日 内服)も疼痛と炎症軽減に有効であることが示されているが、副作用も加味して総合的に判断する必要がある。

・慢性CPPD関節炎のマネジメントはときに難しい。

家族性CPPD

・ほとんどのCPPD diseaseは孤発性であるが、60歳未満など若年で発症するケースや広範囲に発症するケースでは家族性CPPD(familial CPPD)の可能性を想定する。

・これまでに2つの遺伝子変異との関連性が示されている。

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<参考文献>

・Rosenthal AK, Ryan LM. Calcium Pyrophosphate Deposition Disease. N Engl J Med. 2016 Jun 30;374(26):2575-84. doi: 10.1056/NEJMra1511117. PMID: 27355536; PMCID: PMC6240444.

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