閉塞性睡眠時無呼吸症候群 OSAS: obstructive sleep apnea syndrome

閉塞性睡眠時無呼吸症候群とその疫学

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下OSAS: obstructive sleep apnea syndrome)はいびきや日中の過度な眠気の一般的な原因である。

・OSASは心血管疾患の発症リスク上昇、交通事故のリスクに関係し、公衆衛生的な観点からも重要な疾患である。

無呼吸(apnea)とは通常10秒間以上、呼吸が停止することを指し、それに及ばない状態を低呼吸(hypopnea)と呼ぶ。簡易睡眠検査(簡易PSG)ではAHIを測定可能。

・過剰な眠気はAHIが5回/hrを超えるとより多くみられるようになり、この値がOSASの診断における下限値となっている。

・OSASの有病率は男性で4%、女性で2%と低くない。

病態生理

・睡眠中は咽頭周囲の筋肉が弛緩して気道が狭くなるが、特に下顎が小さい場合や、頸部の脂肪が多い場合には上気道がさらに狭窄してしまい、閉塞しやすくなる。

・その後、呼吸筋がその状態を解除しようとする際に、自律神経が活性化し、咽頭周囲の筋肉の緊張が強まる。この際、代償的に神経生理学的には覚醒状態に変わり、脳波検査でもその変化は検出可能なものになる。

・またOSASでは胸腔内圧の変動の影響も受け、高血圧症および肺高血圧症を合併しやすい。

OSASを疑うケース

・特にベッドパートナーからの情報聴取も重要となるが、夜間のいびき無呼吸の病歴が聴取され、日中に過度な眠気を催す際にはOSASが疑われる。

・眠気について、Epworth眠気尺度(ESS: Epworth sleepiness scale)を用いて評価することができる。通常、10点を超える場合にはOSASに関する精査を行うことが推奨される。ただし、一般人口の約10%相当でスコアが11点以上となることも知られているため、日中の眠気の症状の頻度なども参照して判断する必要がある。そのほか、ベルリン質問票(Berlin Questionnaire)STOP-BANG質問票もスクリーニングツールとして知られ、プライマリ・ケアの現場では感度85%程度と報告されている。

・過度な眠気という症状がなく、単純ないびき、時折みられる程度の無呼吸であれば、検査も治療も通常不要である。また、日中の眠気の一般的な原因は睡眠不足であり、そういった原因が明らかな場合においても検査は不要。

<睡眠検査の適応>

・日中の過度な眠気が存在するか、あるいはESS≧11点

・無呼吸が繰り返し目撃されている

・夜間の呼吸困難、呻き声

・早朝頭痛

・睡眠時間が十分であるにも関わらず、スッキリしない睡眠である

・運転中の注意力低下による交通事故、あるいはヒヤリハット

・原因不明の多血症、肺高血圧症、換気障害

診断と治療のアルゴリズム(一部割愛)

①睡眠時無呼吸が疑われる

→②簡易PSGを実施

 →③’ AHI≧40/hr

  →④自覚症状あり

   →⑤CPAP治療

    →⑥使用困難

     →⑦体位治療あるいは口腔内装置(マウスピース)

 →③” AHI<40/hr

  →④PSGを実施

   →⑤’ AHI≧20/hr

    →⑥CPAP療法

     →⑦使用困難

      →⑧体位治療あるいは口腔内装置

   →⑤’’ 5/hr≦AHI<20/hr

    →⑥’ 自覚症状あり

     →⑦口腔内装置

    →⑥’’ 自覚症状なし

     →⑦経過観察

   →⑤’’’ AHI<5/hr

    →⑥睡眠時無呼吸は否定的

臨床検査

一晩連続的に酸素飽和度(SpO2)を測定する方法が採られているが、SpO2低下は無呼吸を直接的に反映しているわけではない点に留意が必要。どの程度のSpO2低下が有意なものかについては議論があるが、一般的には4%の低下幅が無呼吸を反映すると考えられている。したがって、基準から4%低下する状態が1時間あたりに何回あるのかを示す指標としてODI(Oxygen desaturation index)が存在する。なお、OSASの診断に関して、一晩連続的にSpO2を測定する方法の感度は87%、特異度は65%に過ぎないと報告されている。

・SIGN(Scottish Intercollegiate Guideline Network)ガイドラインでは典型的な病歴があり、4%を超える酸素飽和度低下が1時間あたり10回以上認められる患者(ODI≧10)ではそれ以上の精査は行わずに治療へ進むことを推奨している。なお、ODI<5で、Sleep fragmentationがみられないケースでもそれ以上の精査/治療は不要と考えられている。なの、Sleep fragmentation(睡眠の断片化)とは夜間睡眠が中途覚醒によって途絶えることを指す。

・通常、日中の過度な眠気がある場合にはより詳細な検査が必要である。

・SIGNガイドラインではAHIを使用してOSASの重症度を層別化し、軽症(5≦AHI<15)、中等症(15≦AHI<30)、重症(30≦AHI)とされている。なお、AHIと症状の重症度との相関関係は非線形的であるため、あくまで検査結果は病歴と合わせて総合的に解釈しなければならない。理想的には終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を行い、一晩入院して精査を行うこととなる。この際には脳波検査もともに実施可能である。

・なお、まずはスクリーニングとして、簡易ポリグラフ検査(簡易PSG)を行うことも一般的である。簡易PSGは3割負担で約3,000円である。

治療

・通常、中等度から重度のOSAS患者のほか、軽度のOSASであっても睡眠障害がみられる患者では介入が必要。

・主な治療法としてはCPAP、マウスピース、上気道手術などが挙げられる。そのほか減量、肥満手術も選択肢となる。

 <生活習慣の改善と減量>

飲酒は無呼吸や舌根沈下によるいびきを誘発しやすい。ただし、禁酒を継続することによるOSASに関する長期的な有効性は不明。

・ときに仰臥位を避けて眠るなど、就寝中の体位の工夫(positional therapy)で無呼吸が軽減されるケースもある。ただし、重症度が高いケースなどでは必ずしも症状改善に寄与しない。

減量も有効である。軽症のOSAS患者を対象にしたRCTでは朝低カロリー食による食事療法を続けた群においてAHIは40%減少し、患者の約2/3において睡眠検査の結果が正常化したと報告されている。コクランレビューの結果なども加味すると、減量事態でOSASが完全に治癒することは困難で、あくまで補助的な治療と考えられている。

 <CPAP治療>

簡易PSGで得られた結果で、AHI>40/hrの場合にはCPAP治療の適応となる。

・CPAPによる陽圧によって、上気道の狭窄を抑制する効果がある。

・CPAPはESSのスコアを平均3.8ほど有意に低下させることが示されていて、QOL改善にも寄与することが示されている。

・CPAPにより明らかな症状改善に至ることが多いが、少なくとも20%の患者で効果不十分であったり、治療継続が不可能であったりする。報告によって差はあるものの、実際、OSAS患者の46~83%はCPAPを毎晩4時間以上装着することができないことが示されている。

 <口腔内装置(マウスピース)>

マウスピースは下顎や舌を前方に位置させる効果があり、上気道の狭窄を回避する効果が期待できる。

・ただし、重症のOSAS患者や、眠気などの自覚症状が重度であるケースでは第一に選択される方法ではない。CPAPに忍容性が乏しい患者で検討する場合がある。

 <上気道手術>

・病態に応じて異なるが、状況によって扁桃摘出術、歯科口腔外科的治療などが検討される。

OSASと心血管リスク

・OSASは高血圧症、肺高血圧症、脳卒中のリスク増加と関連していることが示されている。一方で、冠動脈疾患との関連性は明らかとなっていない

・OSASは二次性高血圧症の原因の一つとしても知られる。

・現時点ではOSASの治療により高血圧症は改善すると考えられている。ただし、メタ解析ではCPAPを利用することによる血圧低下は0.95~2.5mmHg程度に留まることが示されている。

・OSASによる間欠的な低酸素状態はインスリン抵抗性を惹起するため、血糖管理にも影響を及ぼすことが知られている。ただし、CPAP利用によってインスリン抵抗性は変化しないことが示されている。

・重症OSASかつ未治療の患者は、同じく重症OSASで治療介入がなされている患者よりも将来的な心血管イベントのリスクが高いことは既に示されている。

OSASと運転

・OSAS患者では安全に運転を遂行する能力と注意力があるかどうかについて評価を行うべき。

過度な眠気がみられる患者では治療による症状改善に至るまでの間は運転を行わないように勧めるべきである。

・現時点で自己予測指標は確率されておらず、少なくとも本邦において運転を中止、制限する明確な基準はない

・EUのガイドラインでは中等度~重度のOSASの患者は医学的に管理されるまで運転してはならないと勧告している。

・なお、CPAPを導入することで交通事故を起こすリスクが約1/4に減少するという報告がある。しかし、導入後に実際に適切に利用ができているかなどについても注意して経過観察をする必要性が高い。

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<参考文献>

・Greenstone M, Hack M. Obstructive sleep apnoea. BMJ. 2014 Jun 17;348:g3745. doi: 10.1136/bmj.g3745. PMID: 24939874.

・Bonsignore MR, Randerath W, Riha R, Smyth D, Gratziou C, Goncalves M, McNicholas WT. New rules on driver licensing for patients with obstructive sleep apnoea: EU Directive 2014/85/EU. Eur Respir J. 2016 Jan;47(1):39-41. doi: 10.1183/13993003.01894-2015. PMID: 26721963.

・Tregear S, Reston J, Schoelles K, Phillips B. Continuous positive airway pressure reduces risk of motor vehicle crash among drivers with obstructive sleep apnea: systematic review and meta-analysis. Sleep. 2010 Oct;33(10):1373-80. doi: 10.1093/sleep/33.10.1373. PMID: 21061860; PMCID: PMC2941424.

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