高カルシウム血症 hypercalcaemia

高カルシウム血症とその疫学/生理学

・高カルシウム血症の2大原因は悪性腫瘍原発性副甲状腺機能亢進症であり、この2病態で全体の約90%を占める。

・英国および米国からの報告によると、原発性副甲状腺機能亢進症の発症率は人口10万人あたり0.41~21.6人とされている。

・血液中のCaの約45%は血漿タンパク質、特にアルブミン(Alb)と結合した状態で存在し、約10%はリン酸塩などの陰イオンと結合している。遊離したイオン化カルシウム(基準値: 1.17-1.33mmol/L)は総Caの約45%を占めている。

イオン化カルシウムは血液ガス分析で速やかに確認可能である。血液検査で把握される補正Caを求めてもよいが、イオン化カルシウム値は血清タンパク濃度の影響を受けないため、より安定性が高い

高カルシウム血症の主な原因

 <PTHが関連する病態>

・孤発性(腺腫/過形成/肉腫)

・家族性疾患(MEN1, 2a, 4型/家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症/家族性副甲状腺機能亢進症など)

・異所性PTH産生腫瘍(rare)

・三次性副甲状腺機能亢進症

 <腫瘍性>

・PTHrP産生腫瘍

・局所性の骨溶解性病態(転移性骨腫瘍など)

・異所性PTH産生腫瘍(rare)

・ビタミンD産生性腫瘍

 <ビタミンDが関連する病態>

・肉芽腫性疾患(例: サルコイドーシス, 結核, ベリリウム症, コクシジオイデス症, ハンセン病, 炎症性腸疾患)

・ビタミンD中毒

 <内分泌疾患>

・甲状腺中毒症

・副腎不全

・褐色細胞腫

・VIPoma(Verner-Morrison syndrome)

 <薬剤性>

・サイアザイド系利尿薬

・リチウム中毒

・ミルク・アルカリ症候群

・ビタミンA製剤

・副甲状腺ホルモン製剤

アセスメント

・高カルシウム血症をきたし得る薬剤やサプリメントの服薬歴を聴取することが重要である。

・原発性副甲状腺機能亢進症は遺伝性を有することがあるため、家族歴もときに有用となる。

・病歴聴取では臨床症状の把握とその重症度の評価、症状の発現時期などの把握に努める。軽症の高カルシウム血症では無症状であることが多い。

・血液検査では補正Caの算出のほか、腎機能やi-PTHの測定などを行うこととなる。高カルシウム血症が存在するにも関わらず、i-PTHが抑制されていないということ(つまり基準値内~高値であること)が異常所見である。そのほかビタミンDの状態を評価する必要がある。原発性副甲状腺機能亢進症では血清カルシジオール値(25(OH)D)が低値であることが多い。

・ガイドラインによってはビタミンD欠乏症ではビタミンD製剤の補給を慎重に行うことが推奨される。しかし、具体的な投与量に関する記載はない。一般的には治療目標値は50~75nmol/Lと考えられている。

・原発性副甲状腺機能亢進症の診断においては家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)を除外することを念頭に置く。したがって、可能であれば24時間蓄尿検査を行い、Ca/Crクリアランス比低値(尿中Ca排泄低下を示唆)がないかどうかを確認する。

・Ca/Crクリアランス比低値の場合は家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症の可能性が高く、高カルシウム血症の家族歴や家族の血清Ca値などを評価することとなる。また、血清Mg値は家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症の鑑別に役立つことがあり、通常は正常値の上限に達するか、また僅かに基準値を超えることが多い。確定診断は遺伝子検査によってなされる。

治療

・高カルシウム血症の治療を有効に行うために原疾患の診断は重要である。ただし、診断に関わらず高カルシウム血症では細胞外液の補充が必要である。

 <軽症の高カルシウム血症(mild hypercalcaemia)>

軽症の高カルシウム血症(補正Ca 11.5mg/dL未満(2.9mmol/L未満))原発性副甲状腺機能亢進症により誘発されることが多い。

原発性副甲状腺機能亢進症が原因の50歳以上の患者で、高カルシウム血症の重症度が軽症に留まり、かつ臓器障害を伴わないケースでは、薬剤を使用せずに慎重に経過観察を実施することもできる。なお、原発性副甲状腺機能亢進症で非軽症例では無症候性であっても外科手術が検討される

・また血清Ca値に関係なく、原発性副甲状腺機能亢進症と診断された患者では無症候性であっても骨や腎に関する合併症の有無に関してさらに精査を行うことが推奨されている。特に骨粗鬆症、腎結石、腎機能、高カルシウム尿症の有無などを評価することとなる。これらの合併症が存在する場合や、50歳未満のケースでは軽症例であっても手術適応と考えられる。

・手術を希望されないケースやそもそも手術適応がないケースでは血清Ca値や腎機能を毎年確認し、骨密度検査も1~2年ごとに評価し、腎臓に関する画像評価も行うべきである。経過観察中に、血清Ca値が非軽症例になった場合や、腎臓や骨の合併症をきたした場合には手術を検討することとなる。

・シナカルセトは原発性副甲状腺機能亢進症患者の高カルシウム血症の是正に有効であることが示唆されているが、骨密度や高カルシウム尿症には影響しないと考えられている。

 <重症の高カルシウム血症(severe hypercalcaemia)>

重症の高カルシウム血症(補正Ca 11.5mg/dL以上(2.9mmol/L以上))では治療の方法や薬物治療開始のタイミングを臨床症状に基づいて決定するべきである。

・特に重度な高カルシウム血症(>3.5mmol/L)では入院を原則とするべきであり、緊急的な治療としては生理食塩水3~4Lを毎日静注投与することや、あるいは生理食塩水1~2Lを静注投与後に200~250mL/hrの速さで投与することなどが検討される場合がある。

・高カルシウム血症では腎性尿崩症水分摂取量減少により重度の細胞外脱水状態にあることも多く、細胞外液の補充は急がれる。生理食塩水の投与のみでは溢水(overload)に至ることもあり、特に心不全や腎機能障害を有する患者では注意が必要である。

ループ利尿薬は理論的にはカルシウムの尿中排泄を促進するが、電解質異常や細胞外脱水をきたす可能性があるため、注意を要する。したがって、体液量過剰状態にあってもループ利尿薬の投与は慎重に行うことが望ましい。メタ解析等では高カルシウム血症に対するループ利尿薬の使用を支持するエビデンスは限定的か、あるいは存在しないということとなっている。

・重度の高カルシウム血症の薬物治療ではビスホスホネート製剤(BP製剤)が使用される。細胞外脱水の補正を行ったうえで、ゾレドロン酸4mg(ゾメタ®)を15分程度かけて単回静注すると約80%の患者で3日以内に血清Ca値が正常化する。また、ゾレドロン酸はクレアチニンクリアランス(CCr)<30mL/minの患者での投与は禁忌である。

・なお、BP製剤は効果発現までに数日間かかることが一般的であるため、より速やかな治療のためにはカルシトニン製剤(エルシトニン®)を使用し、骨吸収抑制と尿細管におけるCa再吸収抑制を図る(投与例: 1回40単位 1日2回)。なお、カルシトニン製剤による治療は通常2日以内に耐性を生じさせ、効果が減弱するため、あくまでBP製剤の効果が発現するまでの間のつなぎ役に近い。カルシトニン製剤の効果は投与後2時間以内にみられる。

・前述の保存的治療で軽快しないケースや、そもそも治療の選択肢に乏しいケースでは高カルシウム血症の是正目的に血液透析(HD)も検討される。

ビタミンD中毒や肉芽腫性疾患を背景にした高カルシウム血症ではカルシジオール(25-(OH)-D)の産生増加が根本的な原因であるため、ステロイドなどのビタミンD代謝を促進させる薬剤が適応となり、PSL 20~40mg/dayで内服治療を開始することがある。治療開始24~72時間以内に効果発現することが多い。

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<参考文献>

・Minisola S, Pepe J, Piemonte S, Cipriani C. The diagnosis and management of hypercalcaemia. BMJ. 2015 Jun 2;350:h2723. doi: 10.1136/bmj.h2723. PMID: 26037642.

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