低血糖症 hypoglycemia

低血糖症とその疫学

・低血糖症(hypoglycemia)の診断はWhippleの3徴(①低血糖症に矛盾しない症状がある ②有症状時の血糖値が50mg/dL以下 ③血糖補正により症状が改善する)を満たしたときになされる。

・日常診療で経験する低血糖症の多くは医原性であり、主に経口血糖降下薬インスリン注射が原因となる。しかし、非糖尿病患者における低血糖症の原因の特定はときに容易でない。

臨床症状

・低血糖ではじめに生じる症状は自律神経症状であり、初期は副交感神経症状として悪心,空腹感, 徐脈などがみられる。その後は交感神経賦活による症状(例: 動悸, 振戦, 不安)がみられ、重症例では昏睡に至る。

・低血糖に対する生理学的代償機構としてインスリン分泌低下が生じ、それに続いてグルカゴン分泌亢進が生じる。これらの反応によっても低血糖が是正されない際に、交感神経賦活による症状が前景に立つこととなる。なお、成長ホルモン(GH)とコルチゾールは長時間にわたる低血糖症に対する防御機構に関連している。

・低血糖による神経症状としては様々な程度の意識障害、視力低下、複視、構音障害、けいれん発作(seizure)などがみられる。

低血糖症の主な原因

 <医原性>

・インスリン注射/経口血糖降下薬(特にインスリン分泌促進薬)

・アルコール性

・薬剤性(キニーネ/ガチフロキサシン/ベンタミジン/インドメタシン/リチウム/スルホンアミド系(ST, サラゾスルファピリジンなど)など)

 <併存疾患に伴うもの>

・Critical illness

・肝不全/腎不全/心不全

 ※腎不全ではインスリンのクリアランス低下を来して低血糖を生じさせる。

  心不全による低血糖の正確なメカニズムは不明。

・敗血症

  ※炎症性サイトカインによりグルコール消費量が増大する。

・低栄養

・ホルモン欠乏(GH/コルチゾール/グルカゴン/アドレナリン・ノルアドレナリン)/副腎不全/下垂体機能低下症

・非β細胞性腫瘍に伴う低血糖(NICTH: non-islet cell tumor hypoglycemia)

 ※主に肝細胞癌、胃癌、肉腫などの間葉系腫瘍でみられる。

  低血糖は通常pro-IGFⅡによるインスリン濃度抑制がみられる空腹時に生じやすい。

 <seemingly well(一見状態が良さそうにみえるもの)>

・内因性の高インスリン血症(endogenous hyperinsulinism)

・インスリノーマ

 ※通常は空腹時に生じるが、一部で食後低血糖(6%)もみられる。

  40~50代で好発し、100万人年あたり4例の稀な疾患である。

  インスリノーマの90%は2cm未満で局在の特定が困難なことがある。

  CT撮像、MRI撮像の感度はそれぞれ70%、85%程度である。

・非インスリノーマ低血糖症候群(NIPHS)

・胃バイパス術後低血糖(PGBH)

 ※女性に好発する。

・外因性の高インスリン血症

・グルカゴン投与

フルサイズ画像: 'Approach to the patient with spontaneous hypoglycemia'

臨床検査

・低血糖症の原因検索にはルーチンで血糖値、インスリン、Cペプチド、プロインスリン、β-ヒドロキシ酪酸濃度測定、インスリン抗体のスクリーングも行われることがある。

治療

・低血糖状態が遷延することで神経障害などが生じるため、まずは血糖の正常化が急がれる。そのうえで低血糖症の再発を防ぐために原疾患の治療を行う必要がある。

 <初期対応としての血糖補正>

・血糖補正の方法は患者の全身状態により異なる。意識障害などで経口摂取が困難な場合ではブドウ糖の静注が必要となる。50%ブドウ糖液20mLをボーラス投与し、その後5~10%ブドウ糖液を持続的に静注する方法もある。

経口摂取が可能な場合では10~20gのブドウ糖を経口摂取することが初期治療として適切である。

・経口投与あるいは静注投与のいずれであっても、投与15~30分後に血糖値を再測定し効果がなければ再投与することが原則である。それでも有効性に乏しければ10%ブドウ糖液を持続投与することもある。

持効型インスリンSU薬が原因の低血糖症では作用時間の長さにより、一度血糖補正をしてもその後も低血糖症をきたすことがあるため注意を要する。特に腎機能障害が存在する場合には効果が遷延しやすい。

・グルカゴンの投与(例: グルカゴン1mg 筋注 or 静注)はほとんどの患者には有効である。しかし、グルカゴンがグリコーゲン分解を促進する作用機序を基本とするため、アルコール使用症の患者のようにグリコーゲンが枯渇している状況の患者では効果がみられないことがある。

 <再発予防>

・低血糖症の再発予防のためには低血糖を来したメカニズムを特定することが重要である。

・被疑薬があれば、減量か中止かを検討する。

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<参考文献>

・Martens P, Tits J. Approach to the patient with spontaneous hypoglycemia. Eur J Intern Med. 2014 Jun;25(5):415-21. doi: 10.1016/j.ejim.2014.02.011. Epub 2014 Mar 16. PMID: 24641805.

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