敗血症/敗血症性ショック sepsis/septic shock

敗血症/敗血症性ショックの定義と診断

敗血症(sepsis)とは「感染症に対する生体反応が調節不能な状態となり、重篤な臓器障害が引き起こされる状態」と定義される。また、「①感染症もしくは感染症の疑いがあり、かつ②SOFAスコアの合計2点以上の急上昇」をもって診断される。

敗血症性ショック(septic shock)とは「急性循環不全により細胞障害・代謝異常が重度となり、ショックを伴わない敗血症と比べて死亡の危険性が高まる状態」と定義され、敗血症における最重症の病態である。また、「敗血症の診断基準に加え、①平均動脈圧65mmHg以上を保つために輸液療法に加えて血管収縮薬を必要とし、かつ②血中乳酸値2mmol/L(18mg/dL)を超える場合」に診断される。

・Sepsisという言葉は「腐敗する」という意味を有するギリシア語の”sepo”に由来する。

・敗血症の重症度に関連する要因としては年齢、免疫不全の有無、病原体の毒性の高さなどが挙げられる。

・原因となる感染巣としては頻度が高い順に、肺(40~60%)、腹腔内(15~30%)、尿路(15~30%)、血流感染、皮膚軟部組織感染症と続く。

・全体の60~70%で病原体が特定される。

・最も一般的な起因病原体としてはグラム陽性菌(MRSAを含む)とグラム陰性菌とが挙げられる。さらに、真菌感染症、ウイルス感染症がそれに次ぐ頻度でみられる。

カンジダ血症のリスク因子としては重症感染症の長期化、カンジダ菌の定着、カー手てる留置、粘膜障害、進行した肝疾患、栄養の非経口摂取、免疫抑制状態などが挙げられる。カンジダのほかに、ニューモシスチスなども病原体となる。PCP(ニューモシスチス肺炎)のリスク因子としては免疫抑制状態、長期的な好中球減少、慢性肺疾患などが挙げられる。

・敗血症はあらゆる年齢で発症し得るが、世界的にみると5歳未満の小児で最も多く発症していて、新生児および乳幼児は免疫システムの未熟性によって説明が可能である。当然、成人でも特に免疫抑制状態にある方、血液透析を必要とするような腎不全の方などでリスクが高いといえる。

・米国では長期の維持透析をしている患者では敗血症の発症率が約40倍に増加するという報告もある。

臨床症状/臨床経過

・臨床症状や全身状態は、感染巣、病原体の種類、臓器障害の有無、基礎疾患の状態などにより大きく異なる。

・しばしば感染症による全身症状(発熱, 倦怠感など)感染巣に特異的な症状(例: 咳嗽, 排尿時痛)、臓器不全による症状(例: 酸素飽和度低下, 乏尿, 意識障害)が認められる。

・しかし、前述のように様々なパラメータにより病像は異なり、ときに発症初期に症状が軽微で、敗血症の早期発見が困難なケースもある。また、頻脈や発熱などがβ遮断薬やNSAIDsの使用でマスクされてしまうこともある。

・敗血症の可能性は重篤な感染症あるいは急性の臓器不全を呈する全ての患者で一度考慮されるべきである。また、意識障害、血圧低値、頻呼吸は特に敗血症を示唆するものであるが、これらの徴候が仮になくても敗血症は否定されないことに留意するべきである。

・敗血症に特徴的な一般的な検査所見としては、WBC増多 or WBC減少、10%以上の幼若好中球の存在(つまり左方移動)、血糖高値、血清クレアチニンおよび乳酸値の上昇などが挙げられる。発熱や感染を示す局在性が不明瞭な場合でも意識障害、血圧低値、呼吸困難、慢性疾患の急性代償不全(例: 糖尿病性ケトアシドーシス, 尿毒症)を呈する患者では敗血症を考慮するべきである。

・初期対応としては原因と感染巣の同定、臓器障害と臓器灌流の評価を進めることとなり、想定される感染巣の培養検査の提出も重要である。

マネジメント

・敗血症のマネジメントでは感染制御、臓器灌流の回復、臓器機能のサポートが挙げられる。

 <感染制御(infection control)>

原因となる細菌、真菌、寄生虫、ウイルスの感染に適応となる治療を行い、状況によってはSource controlを行うこととなる。

・治療開始時には病原体が特定できていないことが多いため、経験的治療を行うこととなる。カバーするべき病原体は想定される感染巣、過去の培養歴、地域のアンチバイオグラム、併存疾患、抗菌薬曝露歴などから総合的に決定する。感染を生じさせている可能性が低い病原体についてはカバーを外すべきである。例えば嫌気性菌に対する治療は腸内細菌叢を変化させ、CDIの発症率を上昇させるなどのリスクとなる。

・観察研究では特にショック状態にある患者では治療の遅れにより死亡率が上昇することが示されているため、抗菌薬治療は可及的速やかに行われるべきである。

 <適切な灌流の維持>

低血圧または末梢灌流障害を示唆する所見(例: 乳酸値上昇)が認められる患者では適切なタイミングでの灌流の回復(restoration of perfusion)が重要である。

・血管内容量の減少を是正し、前負荷(preload)を改善させるための第一選択となる治療法は晶質液(crystalloid fluid)の静注である。

初期輸液量としては30mL/kg以上を3時間以内に投与することが推奨される。なお、心不全などの併存疾患の存在により30mL/kg以上の輸液が容易でないケースもあるため、総合的判断を要する。

・30mL/kg以上の輸液を行うことは乳酸値2~4mmol/Lの患者、慢性腎臓病患者、慢性心不全患者を含む敗血症患者の生存率向上と関連していることが報告されている。また、輸液量と転帰との間にはU字型の関係性があることも示されている。

乳酸リンゲル液の使用は生理食塩水を使用する場合よりも死亡率低下に関連することが示されている。

・初期輸液の最中にはバイタルサインを注意して観察し、乳酸値の推移、心エコー検査などを用いて輸液反応性を評価することが重要。したがって、乳酸値測定、心エコーは経時的に繰り返し評価を行い、推移を把握することが重要。CRTも参考指標の一つとなる。

初期輸液を行っても重度あるいは持続性の低血圧がみられる場合には血管収縮薬の静注が適応となり、第一選択薬はノルアドレナリンである。目標値としては平均動脈圧(MAP)を65mmHg以上に維持することが推奨される。ただし、65 trialではMAP 60~65mmHgというやや低い目標値(permissive hypotension)が一部の患者では安全な可能性が示唆されている。

昇圧薬による治療を継続している患者では補助的にストレスドーズのステロイド投与を行うことを考慮するべきである(投与例: ヒドロコルチゾン200mg/日)。メタ解析では死亡率の減少に関しては相反する報告があるが、補助的なステロイド使用によりショック、人工呼吸、ICU滞在時間が減少するという結果は常に示されている)。ステロイドによる副作用も懸念されるため、個々の患者において有用性が勝るかどうかを逐次判断することが重要。

・ノルアドレナリンの必要量が増加する患者においてはカテコラミン曝露をなるべく回避するために、バソプレシンの追加が推奨されている。

回復と長期的転帰

・敗血症は急性期において生命を脅かす疾患であり、仮に回復に至ったとしても認知機能障害、ADL低下、新規の慢性疾患の発症/悪化などとも関連することが多い疾患である。

・また敗血症によって入院に至り、治療で治癒した後、数ヶ月から数年間以内において再入院、死亡するリスクは高まることも知られる。この結果は年齢や併存疾患のみでは説明がつかないものと考えられていて、敗血症そのものによる長期的影響が示唆される。

――――――――――――――――――――――――――

<参考文献>

・N Engl J Med 2024;391:2133-2146

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です