公衆衛生とプライマリケアの統合
Integrating public health and primary care: a framework for seamless collaboration(PMID 39532486)より
■内容:
・公衆衛生(public health)とプライマリケアを単一の組織に統合することが医療制度的に望ましい姿ではないかという見方がある。シームレスな連携により、医療資源の節約や患者の様々なアウトカム向上に有用な可能性が高い。
・アルマ・アタ宣言、アスタナ宣言などで示されるように、”primary care and public health as the core of integrated health services”の提供はプライマリヘルスケア(PHC)の根幹をなす要素の一つである。
・公衆衛生的対策は健康と健康的な環境の促進、疾病予防、疾病の治療と管理、生活の質向上などが共通した目標であるにも関わらず、臨床セクターと別個のセクターでマネジメントされることが多い。しかし、より良い統合(integration)がなされなければ、医療と介護などのシステム全体が最適化されにくくなり得る。
・公衆衛生とは”the science and art of preventing disease, prolonging life and promoting health through the organised efforts of society”と定義される。
・プライマリケアの5つの中核的理念はACCCA、つまりAccessibility(近接性)、Comprehensiveness(包括性)、Coordination(協調性)、Continuity(継続性)、Accountability(責任性)と提唱されている。実際にはACCCAが達成されていないにも関わらず、第一線医療を担う状況がプライマリケアと呼ばれている現状もある。
・プライマリヘルスケア(PHC: primary health care)とはより広義の概念で、マルチセクターによる活動、Community engagement、統合された医療システムに基づく、社会全体による健康への取り組みを指す。
・公衆衛生はある定義された集団における健康アウトカムのレベルと分布とを主に考慮する概念である。一方で、プライマリケアサービスは個人のニーズに焦点を当てる特性を有し、それと同時に健康アウトカムに対して責任を伴い、地域社会における不平等(inequalities)に取り組む。公衆衛生とプライマリケアのセクターの統合を推進する主な理由は両セクター間の連携を最適化し、健康アウトカムを最大化し、地域社会における不平等にも対処し、効率性を上げるためである。
・統合(integration)とは異なる構成要素(component)をまとめてシームレスな全体を形成することを指す。Nolte, McKee, Contandripoulos, Ham, Geradaらの研究をもとに、統合を5つの段階、下位から順にIsolation、Overlap、Cooperation、Collaboration、Margerに区別されている。
Isolation
・一般的にここが統合のスタート地点になる。
・Public health teamはプライマリケアとは無関係に活動し、プライマリケアでは疾患や症状への対症療法を軸とした個人レベルでの介入が行われる。
・Public health teamとPrimary care teamとは互いの活動内容も連携をとる方法も知らない場合がある。
Overlap
・患者に対して積極的な予防医療と健康増進活動(health promotion activities)の提供を担うことで、公衆衛生との関わりに関する一歩目が踏み出されることとなる。
・プライマリケアセクターと公衆衛生セクターとは一部重複するような責任性を共有するが、両セクターのスタッフが一緒に研修したり、コミュニケーションを図ったりすることはない。互いの行っている活動について、多少認識している場合がある。
Cooperation
・プライマリケアセクターと公衆衛生セクターとは依然として互いに独立した形で運営されるが、ときに両セクターは情報提供を互いに行ったり、その場に応じて一時的な協力を行ったりすることもある。例えば特定の疾患や症状の発症率/出現率に関するプライマリケアにおけるデータの提供や新型コロナウイルスワクチン接種の共同運営などが挙げられる。また、両セクターは互いにスペースやスタッフを共有することもある。
・ただし、こういった協力体制は適切に行うためのガバナンス機構が存在しないため、協力体制を築くまでの軌道に乗るまでに時間を要することもある。
Collaboration
・プライマリケアセクターと公衆衛生セクターとの互いの連絡先が明らかで、データなどの共有のための確立したプロセスやシステムが存在する。
・情報提供などに関して継続性がある。
・スタッフの配置、地域社会への協働的な関わり、定期的な会議など、日常的に明確化された役割と責任性が存在する。
Merger
・単一の組織が特定の集団を対象に、健康増進、疾病予防などの全てにおいて責任を有する。ここには個々の患者の治療を行うことに並行して、公衆衛生機能を果たす機能も包含される。
・この単一の組織は単一の予算を有し、多分野にわたるチームを有しているが、ビジョンはあくまで一つであり、目標は共有され、団結するような文化がある。
・組織のなかにはプライマリケアあるいは公衆衛生に関する活動に特化する者もいるが、それでも他のメンバーとトレーニングを一緒に受けたり、交流したりしていることが基本で、あくまで文化を共有している。
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<参考文献>
・Allen LN, Rechel B, Alton D, Pettigrew LM, McKee M, Pinto AD, Exley J, Turner-Moss E, Thomas K, Mallender J, Rajan D, Dedeu T, Bailey S, Goodwin N. Integrating public health and primary care: a framework for seamless collaboration. BJGP Open. 2024 Nov 26:BJGPO.2024.0096. doi: 10.3399/BJGPO.2024.0096. Epub ahead of print. PMID: 39532486.