うつ病 depression

うつ病とその疫学

・うつ病患者の多くはプライマリケアを受診することが多い。

・うつ病に関連した世界的な経済的喪失は2020年頃から2030年頃にかけて約2倍に上昇すると分析されている。

・うつ病のリスク因子としてはアルコール使用症、小児期のトラウマ、慢性疾患、女性、低所得、高齢、本人あるいは家族のうつ病の既往、直近の出産歴、ストレスフルな日々が挙げられる。

・うつ病は自死を予防するうえでもケアが重要な疾患である。女性は自死を図るリスクが高いが、男性は自死を完遂するリスクが高いという違いがある。

・うつ病の経過や治療反応性に関して、年齢や性別による明確な違いは認められない。しかし、傾向としては若年者のうつ病では過眠や過食の症状がみられやすく、一方で高齢者のうつ病ではメランコリーの特性(例: 精神運動遅延, 感情的反応の欠如)がみられやすい。

・特にうつ病、アルコール使用症は全ての年齢層において、自死の最大のリスク因子とされる。本邦では自死原因の最多頻度をうつ病が占め、さらにアルコール使用症がそれに次ぐ。自死に至る患者のほとんどは直近数ヶ月以内に医師の診察を受けている。ときに医師はうつ病患者を診察する際には希死念慮、自殺企図、自殺計画などについて直接尋ねることでそのリスクを推量するべきである。

・うつ病の可能性を疑った場合には甲状腺機能異常、副腎不全、電解質異常、低栄養、慢性硬膜下血腫、薬剤性の可能性について考慮し、適切に除外することが重要。

スクリーニング

・USPSTFは全ての成人および12~18歳の思春期にあたる若年者を対象にうつ病に関するスクリーニングを年1回行うことを推奨している。

・スクリーニングに関するメタ解析ではスクリーニングを開始し6ヶ月時点でのうつ病患者の割合を9%ほど絶対減少させることが示唆された。有病率を10%と仮定したとき、1人の患者に良い影響を与えるためには110人の患者に関してスクリーニングする必要があるということになる。つまり、スクリーニングの効果はその診療セッティングにおける有病率に影響される。

・スクリーニング方法としてはPHQ-2(patient-health-questionnaire-2)を利用する。PHQ-2で2点以上の場合にはうつ病の診断に関して感度86%、特異度78%とされている。

・PHQ-2陽性となった場合にはDSM-5に基づいて、より詳細な評価を行い、うつ病の診断基準を満たすかどうかを判断することとなる。PHQ-9はPHQ-2で陽性と判定された後に使用できる診断および重症度評価のツールとして知られている。

・PHQ-9はBeck depression inventoryに比べると、より短い手間で利用できる。なお、PHQ-9で10点以上の場合、うつ病の診断に関して感度74%、特異度91%とされている。

診断

・操作的診断にはDSM-5の基準を利用することとなる。

・なお、DSM-5の診断基準の利用により重症度評価を行うことはできない

治療

・気分障害の多くはプライマリケア医によりマネジメントが可能である。しかし、診断の確度が高くない場合や、他の精神疾患を併存している場合、自死リスクが高い場合、治療反応性が不十分な場合には精神科医への紹介を検討するべきである。

・うつ病の初期治療としては抗うつ薬、心理療法、またはその併用が行われる。運動療法などが併用されることもあるが、その有効性は限定的とされる。

・初期治療の選択には患者の希望、過去の治療体験、うつ病の重症度などを加味した判断が重要である。対人関係の問題、心理社会的要因の関与、人格障害が併存する場合には心理療法の必要性が示唆される。

・心理療法としては認知行動療法(CBT)対人関係療法(IPT)とが急性期治療として最もエビデンスが集積している。

・米国のガイドラインでは重症のうつ病(PHQ-9スコア≧20点)では薬物療法を使用するべきとしている。軽症~中等症のうつ病には薬物療法または心理療法のいずれかを選択し、中等症~重症のうつ病には両者を併用することもある。軽症のうつ病には運動療法が適する場合もあるが、慎重な経過観察は必要としている。

・薬物療法と心理療法の併用は短期的効果が得られにくいが、心理療法はそれ自体が再発予防に有効とされている。実際、CBTやIPTは抗うつ薬単独による治療よりも再発予防に有効であることが既に示されている。

・抗うつ薬としては通常、SSRI、SNRI、NaSSAなどから開始される。これらの薬剤はいずれもほぼ同等の効果があり、抑うつ症状の重症度と期間を軽減し、全体的なベースラインの回復に寄与するといわれている。三環系抗うつ薬は同程度かそれ以上の有効性を発揮する場合があるが、副作用の観点で優先的に使用されることは少ない。

小児、若年成人において抗うつ薬の使用が自死リスクを高める可能性があることにも留意する。6~18歳のうつ病患者を対象にしたメタ解析ではSSRI、ミルタザピンを投与された患者でプラセボ薬に比して、自死リスクが有意に上昇することが示された(4.8% vs 3.0%(P値=0.01)(NNH=55))。

経過観察

・うつ病の治療には少なくとも6~9ヶ月間の綿密な経過観察が必要である。

・特に薬物治療を開始してからの数週間が最もチャレンジングであることが多い。うつ病による悲観や絶望感、薬剤の副作用などで服薬アドヒアランスに影響をきたす場合がある。実際、プライマリケア現場におけるうつ病治療では最初の1ヶ月で28%の患者が服薬を中断し、3ヶ月以内に44%の患者が中断すると報告されている。薬物による副作用も事前に適切に伝えておくこともときに重要。

・治療開始1~2週間以内に患者を診察する機会をもち、服薬状況などについても確認することとなる。また、躁病エピソードの発症にも注意して経過観察することとなる。

PHQ-9などのスケールで重症度を経時的に評価できる。6~8週間後において薬物治療への反応性が不十分な倍には治療法を変更するべきである。

薬物治療の主な副作用

・SSRIでは性的な副作用として性欲の減退、射精遅延などが知られる。もしも忍容性が低い場合にはより性的な副作用が少ないミルタザピンへの切り替えも検討可能。また、シルデナフィルは禁忌がなければ、SSRI関連勃起不全にも有効である可能性が示されている。

・ミルタザピン、パロキセチンは軽度の体重増加(平均2~3kg)がみられることがある。

・SSRIは治療初期において不安症状を悪化させることがあり、最少用量の50%程度から開始し,1週間後に忍容性をみながら最少用量まで増量する方法もある。

・SSRIは上部消化管出血、高齢者の低ナトリウム血症、骨粗鬆症とも関連していることが示唆されている。なお、上部消化管出血のリスクはNSAIDsとSSRIとの併用によりさらに上昇することが知られている。

入院適応

自死リスクが高い場合や実際に企図したケース、他害リスクが高いケース、セルフケアができないケース(例: 食事を摂らない)などでは入院を考慮する。

妊娠中の抗うつ薬

・複数の疫学研究で妊娠中の抗うつ薬(主にSSRI)母体および胎児に及ぼす影響が評価されている。全体としてはSSRIの催奇形性は低いと考えられている。

・しかし、2件の疫学研究では妊娠初期のパロキセチン内服が新生児の心臓構造異常と関連することが示唆されている。

・また、妊娠20週以降に母親がSSRIを内服した場合に、胎児において持続性肺高血圧症を発症するリスクが約6倍高いことを示した研究がある。ただし、こちらについては関連性が不明という結論になっている。

・妊娠中に抗うつ薬を中止すると、うつ病の再発リスクが高まる可能性があることに留意するべきである。

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<参考文献>

・McCarron RM, Shapiro B, Rawles J, Luo J. Depression. Ann Intern Med. 2021 May;174(5):ITC65-ITC80. doi: 10.7326/AITC202105180. Epub 2021 May 11. PMID: 33971098.

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