頸椎症 degenerative cervical spondylosis
頸椎症の疫学/病態
・頸椎の変性は加齢によって全ての人に生じ得るが、必ずしも頸部痛などの症状を伴うとは限らない。
・神経根症に留まるケースもあれば、頚髄症に至るケースもある。
・前述のとおり、加齢に伴い頸椎の変性は生じるが、早ければ生後10年以内に生じることがある。
・頚椎症性神経根症の年間発症率は人口10万人あたり約83人、頚髄症の年間発症率は人口10万人あたり約4例と推定されている。
・男性に好発し、発症のピークは40~60歳代にある。
・頸椎症では椎間板とFacet joint(椎間関節)に変化が生じ得る。椎間板は髄核とそれを囲む線維輪で構成される。Facet jointはある椎骨の下関節突起とその1つ下位の椎骨の上関節突起とから成り、脊柱後方の支持に役立っている。椎間関節における炎症は神経根に波及し、後根神経節内の炎症性サイトカインの発現を増加させるという報告もある。
・特に侵される頻度が高い高位はC6/C7神経根症である。
臨床症状/臨床経過
・頸部痛は通常、頸部を動かすことで悪化し、安静や固定によって緩和されることが多い。ただし、一般人口の約15%は頸部痛を自覚しているという報告もあり、頸部痛は決して頸椎症に特異的な症状ではないことに留意する必要がある。
・神経根症では肩周囲から上腕へ放散する疼痛がみられることも一般的である。通常はデルマトームに一致した異常感覚、疼痛、脱力感を伴うが、必ずしもそうとは限らない。
・後頭部痛(C2 or C3)、頸部や僧帽筋部の疼痛(C4)などは鑑別に比較的挙げられにくいかもしれない。ほか頸椎症性神経根症は胸痛の原因となることがある(Cervical angina)。
・急性経過で症状が生じる場合には椎間板ヘルニアによる影響、慢性経過で生じる場合にはFacet jointの肥大による影響がそれぞれ関係している場合がある。
・上腕二頭筋腱反射低下(C6神経根)、上腕三頭筋腱反射低下(C7神経根)などは神経根の圧迫を間接的に裏付けることとなる。そのほか頸椎症性神経根症に関する誘発試験としてSpurling試験、肩関節外転試験、頸椎牽引試験などがある。肩関節外転試験は患側の腕の手掌または前腕を患者自身の頭の上に置き、神経根痛が緩和されれば陽性となる。
・頸髄症では頸部の屈曲によりさらに圧迫が強まり症状が強まる可能性がある。症状としては巧緻運動障害、歩行障害、平衡機能障害、頻尿や尿意切迫感などがみられる。身体所見としては腱反射亢進、病的反射亢進(Babinski反射/Hoffman反射など)、Romberg徴候陽性、クローヌスなどがみられ得る。頸部屈曲時にLhrmitte徴候(脊柱下方や肩に放散する電撃痛)をがみられることもある。
画像検査
・頸部痛や上肢の症状が持続し、神経根症が疑われる患者では、まずX線撮影(正面/斜位/側面前後屈)を行うことが多い。
・進行性の臨床症状がみられるケース、重度の神経症状を伴うケース、脊髄症を示唆する所見があるケースでは頸椎単純MRI撮像を行うことが望ましい。
・外科的な除圧術を行うかどうかは日常生活の支障の程度や症状の進行の早さなどによって決定されることが多い。
治療
・神経学的脱落所見を伴わない頸椎症のケースではまず鎮痛薬や理学療法による保存的加療を選択する。
・神経根症や脊髄症を示唆する所見がなくても、疼痛が増悪することや慢性化することがある。こういったケースではときに不安障害やうつ病などが併存することがあり、そちらのケアも行うことで疼痛も改善傾向に転じることがある。
・頚椎症性神経根症の患者の多くは鎮痛薬内服、硬膜外ステロイド注射、理学療法、頸椎牽引、マッサージなどの保存的加療によって疼痛軽減が図れる。
・神経症状悪化が進行するケースや重度の神経症状を有するケースでは外科的治療の必要性を考慮することとなる。このとき神経症状の重症度(例: 日常生活の支障の程度)、神経症状の進行速度が主に重要。
・椎間板ヘルニアなど、臨床症状を呈する原因が明らかとなっているケースでは手術成績が良好であることが多い。また中等度~重度の神経症状を有する患者では保存的加療が手術加療に比して臨床的転帰が劣ることがConsensus statementで示唆されている。
・頸髄症をきたす患者は通常、脊椎外科医に紹介することが妥当である。
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<参考文献>
・Theodore N. Degenerative Cervical Spondylosis. N Engl J Med. 2020 Jul 9;383(2):159-168. doi: 10.1056/NEJMra2003558. PMID: 32640134.