レジオネラ肺炎 regionella pneumonia

レジオネラ感染症とその疫学

・1976年にフィラデルフィアで開催された退役軍人の年次総会で肺炎の流行が生じ、その調査の過程でレジオネラ菌が発見された。

・レジオネラ感染症による臓器障害は特に高齢者、基礎疾患のある患者、免疫抑制症例でみられやすい。

・レジオネラ菌は主に水場に存在し、特に循環式浴槽等の利用などを契機に曝露し、レジオネラ肺炎を発症することがある。エアロゾルの吸入によって感染が成立すると考えられている。また、Legionella longbeachaeは園芸などを含む土壌曝露で感染することが想定されている。

・レジオネラ菌は水環境から分離され、そのうち約30種が下気道に感染を起こす。数時間程度であれば50度程度の温度に耐えられるが、20度以下の温度では増殖ができない。

・増殖するために条件があるグラム陰性菌で特殊な培地を必要とする。通常コロニーは培養開始3~5日目に確認される。

・レジオネラ菌のなかでも血清群1(Lp1)が最も病原性が高く、そして最も一般的な原因菌とされる。

・レジオネラ肺炎は市中肺炎の2~9%を占めるという報告がある。

・季節性もみられ、特に夏から秋にかけて発症しやすい。

リスク因子

・レジオネラ肺炎のリスク因子としては慢性肺疾患、喫煙、高齢、ステロイド治療、血液腫瘍(特に化学療法を施行されているケース)、固形癌、TNF-α抗体製剤の使用、Hairy cell白血病などが挙げられる。

臨床症状

・レジオネラ肺炎は非定型肺炎に属する。

・潜伏期間は2~14日間である。

・重症度は軽症から入院を要するような重症例まで様々である。

・前駆症状として頭痛、筋肉痛、倦怠感、食欲不振などがみられる。

・通常は発熱もみられ、高熱となることも多い。ただし、免疫不全者の一部では発熱を呈さないこともある点に留意する。また、比較的徐脈もよく知られる。

・肺炎が認められる患者において、消化器症状神経症状が出現している場合にはレジオネラ肺炎が通常疑われる。

・消化器症状は目立ちやすく、下痢、悪心/嘔吐、腹痛などとしてみられる。

・神経症状としては特に頭痛が目立ちやすい。そのほかけいれん発作などがみられることもある。

約50%の患者で膿性痰を伴う咳嗽がみられ、ときに胸膜性胸痛もみられる。

・自覚症状としては多い順に、38.8度以上の発熱(67~100%)、咳嗽(41~92)、悪寒(15~77)、呼吸困難(36~56)、40度以上の発熱(21~62)、筋肉痛または関節痛(20~43)、下痢(19~47)、胸痛(14~50)、頭痛(17~43)、悪心/嘔吐(9~25)などが知られる。

・症状の回復には比較的時間がかかり、易疲労感などがしばらく残存することもある。

・また、ボンティアック熱という病型がある。ボンティアック熱は数時間から48時間程度の潜伏期を経て、数日間で自然軽快するインフルエンザ様症状を特徴とする非炎症性疾患で、抗菌薬治療は通常不要。

血液検査/尿検査

・レジオネラ肺炎に特異的な検査異常はない。

・典型的には低ナトリウム血症、低リン血症、CK高値、リンパ球減少を伴うWBC増多、CRP高値/ESR亢進、ミオグロビン尿、顕微鏡的血尿などがみられる。

画像検査

・ほとんどのレジオネラ肺炎で胸部X線撮影において肺炎を示唆する透過性低下がみられる。

・入院に至るレジオネラ肺炎患者の15~50%で胸水貯留がみられる。

免疫抑制状態にある患者、特にステロイド治療中の患者では円形の結節影がみられ、約10%の症例で空洞化することも知られている。仮に適切な抗菌薬治療がなされていても、発症14日目までに空洞形成が生じる可能性がある。

合併症

・一部の症例で脾腫/脾破裂、心膜炎、心筋炎、心内膜炎、関節炎、中枢神経感染症などを合併することが知られている。

診断

尿中抗原検査を利用する方法と、培養によって診断する方法とがある。実際は尿中抗原検査結果をもとに診断するケースの方が多い。

・尿中抗原検査ではレジオネラ菌の細胞壁のリポ多糖成分を検出するように設計されている。通常は発症から48~72時間以内に陽性となり、数週間から数カ月間は陽性の状態が続く場合もある。なお、検査の感度については報告によって様々で、56~99%とされている。おおむね40%は見逃される可能性があるため、検査で陰性が確認されてもレジオネラ肺炎の否定には至らない。

・ボンティアック熱を発症した患者でも尿中抗原が陽性となる場合がある。

・喀痰培養の感度は20~80%と、報告によって様々である。この結果は喀痰の質の問題、抗菌薬の事前投与、増殖に厳しい条件が必要なことなど様々な要素による修飾を受けていると考えられる。なお、重症例では喀痰中により高い濃度でレジオネラ菌が存在しているため、より感度は高まる可能性が想定される。

抗菌薬治療

・レジオネラ菌は細胞内寄生菌であるため、宿主細胞内へ浸透する抗菌薬が必要である。

・βラクタム系抗菌薬やアミノグリコシド系抗菌薬は仮にIn vitroで活性があったとしても利用できない。

・抗菌薬の第一選択薬はLVFXまたはAZMである。第二選択薬としてDOXYが挙げられる。なお、British Thoracic Societyは重症例に対してはキノロン系抗菌薬の使用を推奨している。臨床的な裏付けに乏しいという見方もあるが、米国感染症学会(IDSA)はLVFXの場合は750mg/日、AZMの場合は500mg/日の用量で治療を行うことを推奨している。なお、LVFXとAZMの併用療法の有用性について示したデータはない。

・治療期間としてはLFVXでは5~10日間、AZMでは3~5日間が一般的。ただし、免疫抑制状態にある患者、重症例、膿胸合併例などではより長く抗菌薬治療を行うことも推奨される。

・マクロライド系抗菌薬は例えばシクロスポリン、タクロリムスなどといった薬剤と相互作用があるため、そういった薬剤を使用しているケースではLFVXやDOXYなどを選択することを検討する。

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<参考文献>

・Cunha BA, Burillo A, Bouza E. Legionnaires' disease. Lancet. 2016 Jan 23;387(10016):376-385. doi: 10.1016/S0140-6736(15)60078-2. Epub 2015 Jul 28. PMID: 26231463.

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