心不全に対する利尿薬治療 diuretic therapy for patients with heart failure
腎血流と糸球体濾過
・通常、腎血流量(RBF: renal blood flow)は心拍出量の約20%に相当し、主に腎動脈と腎静脈の圧較差によって規定される。糸球体濾過量(GFR)は機能している糸球体数と、糸球体毛細血管とボウマン嚢間の静水圧差とによって規定される。
・中心静脈圧上昇は腎血流量減少とGRF低下と関連していて、効果的な除水により腎機能が改善することが示されている。
利尿薬の薬理学/薬力学
・効果的な利尿効果を得るためには4段階が必要で、①経口摂取と消化管吸収 ②腎臓への到達 ③尿細管内腔への分泌 ④キャリアタンパクとの結合 がそれらに相当する。
・ループ利尿薬は消化管から比較的速やかに吸収されるが、薬剤間で重要な違いがある。
・フロセミドの吸収速度は血中濃度半減期よりも遅く、この現象を”absorption-limited”現象と呼ばれる。Bioavailabilityは平均で約50%とされているが、吸収速度は変動性が大きく、食事摂取などの影響も受ける。
・トラセミドは吸収が早く、経口投与後0.5~2時間で最高血中濃度に達する。Bioavailabilityは80%以上と高い点もフロセミドと異なる。心不全による腸管浮腫が存在する状況でもフロセミドと異なり、Bioavailabilityが比較的保たれやすいことが特徴である。
・フロセミドのBioavailabilityが低いため、静注投与から内服投与へ切り替える際には用量を2倍にすることがあるが、その必要性を直接的に裏付けるような臨床データはほとんどない。あくまで反応性をあくまで重視して用量の調整をすることが望ましい。
・ループ利尿薬は用量反応曲線が急峻で、用量依存性に効果が増加する。しかし、ある一定以上で天井効果(ceiling)に達し、それ以上用量を増やしても有効性が変わらないという状況になる。
・ループ利尿薬はヘンレループ上行脚のチャネルに結合することでNa利尿作用を発揮する。ループ利尿薬はAlbなどのキャリアタンパクと結合して循環することで糸球体濾過されづらい状況を形成し、結果として近位尿細管で尿細管腔内に分泌され、薬理学的効果が発揮される。NSAIDsの使用やCKDの存在は利尿薬の近位尿細管での分泌を抑制し、反応性を低下させる可能性が知られている。
・ループ利尿薬は前述のようにAlbと強固に結合し、循環する有機アニオンである。したがって、著明な低アルブミン血症の場合を除き、分布容積は小さいのが通常である。なお、血清Alb>2g/dLであればAlb輸液を行うことでNa利尿効果がさらに増強するというエビデンスはないことが知られている。
・投与したフロセミドの約50%は未変化体のまま尿中に排泄され、残りの50%は腎臓でグルクロン酸抱合を受けて排泄されると考えられている。トラセミドは肝臓での代謝と尿中排泄の両方によって排泄されるが、どちらかといえば肝臓での代謝が優位である。したがって、CKD患者であってもトラセミドの半減期はより変化しづらいと考えられる。
・ループ利尿薬では耳鳴、難聴の副作用も知られる。これは内耳の外有毛細胞のATPポンプが阻害される、細胞浮腫が生じるためと考えられているが、特にループ利尿薬のボーラス投与がなされた際に発生しやすい。そして、特にAKIの存在化で生じやすいことが知られる。
・特にフロセミド投与を行い、利尿効果が切れたあとには尿中へのNaCl排泄量はベースラインを下回ること(リバウンド現象)が知られる。このことがフロセミド静注を1日2回とすることの推奨の根拠となっている。ただし、トラセミドのような半減期が長い薬剤であれば1日1回投与とすることが一般的である。
心不全に対するループ利尿薬の使用
・急性心不全を理由に入院したケースでは非経口ループ利尿薬の使用が治療の中心となることが多い。
・ただし、ループ利尿薬の使用によって死亡率が低下するというエビデンスはなく、あくまで症状緩和の意味合いが強い治療法といえる。
・うっ血を伴う急性心不全で入院したケースではループ利尿薬の初期用量をどうするか、間欠ボーラス投与と持続点滴のどちらを選択するか、初期の利尿反応が不十分(利尿薬抵抗性)な場合にどう対処するか、などを考えなければならない。
<うっ血を伴う急性心不全に対する初期投与量>
・ループ利尿薬を平時から長期的に使用している患者では外来での使用量の2.5倍量を投与する。例えば外来でフロセミド40mg 1日2回で内服しているケースでは初期の静注用量をフロセミド100mgとすることが提唱されている。なお、平時にフロセミドを使用していないケースではフロセミド40~80mg 1日2回静注することもあり得る(高齢者ではより少量からの投与を検討してもよいように思える)。
・静注投与する際には1日2回の投与を原則とするべきである。
<利尿薬投与量の調整>
・初期投与のループ利尿薬に対する利尿反応性に基づいて、その後の投与量を決定するべきである。
・十分なループ利尿薬が初期投与された場合、通常2時間以内に尿量が増加するはずである。初期投与に対する反応性が不十分な場合には次の投与予定時刻まで投与を待つ必要はない。この場合、用量を2倍量に増やすなどして再投与を行うこととなる。
・尿中Naのモニタリングも利尿薬の用量調整に有用な可能性がある。
<うっ血に対する利尿薬使用中の血清クレアチニン上昇への対処>
・利尿薬投与後に血清クレアチニン値が上昇することは一般的である(通常は0.5mg/dLまでの上昇幅)。特にうっ血が持続している場合にはループ利尿薬を中止あるいは減量する必要はない。
・これまでの臨床データによるとこの変化は一過性であり、効果的な除水が行われていれば、より良好な転帰につながることもあると示唆されている(the DOSE study)。
<利尿薬抵抗性への対処>
・ループ利尿薬にサイアザイド系利尿薬を併用することでしばしば強力な利尿効果を得られることがある。
・ただし、電解質異常の副作用リスクが大きく上昇するため、注意が必要である。
<GDMTを最適化している最中の対処>
・GDMT(guideline-directed medical therapy)、つまりβ遮断薬、MRA、ARNI、SGLT2阻害薬の4剤の投与を推進している際にはGDMTの最適化によってループ利尿薬の用量を減量させられる可能性がある。
※UOP: urine output
The DOSE trial
・DOSE(Diuretic Optimization Strategies Evaluation) studyは入院中の心不全患者に対するループ利尿薬について、高用量のフロセミド投与が低用量投与よりも適切なのか、持続点滴静注が間欠的ボーラス投与よりも適切なのかをの2点を主に明らかにしようとしたRCTである。
・primary outcomeに関しては高用量群と低用量群とで有意差がなかった。しかし、呼吸困難の緩和、体重変化などのsecondary outcomeについては高用量群が優れていた。
・投与後の腎機能の悪化(72時間以内のsCre 0.3mg/dL以上の上昇と定義)は高用量群でより生じやすかったが、その後の分析では初期の血清クレアチニン値の上昇はむしろ長期的な良好な予後と関連していることが示唆された。
・薬力学的には間欠的ボーラス投与よりも持続点滴静注の方が高い血中濃度域(毒性をもたらしやすい濃度)を回避しながら、濃度を維持できる点で持続点滴静注の方が適切と思われる。しかし、DOSE studyでは1日2回の間欠的ボーラス投与と持続点滴静注とでoutcomeに関して統計学的有意差が示されなかった。
利尿薬抵抗性
・利尿薬抵抗性の厳密な定義は明確化されていないが、平易に言い換えれば「利尿治療を行っているにも関わらず、Na利尿が不十分な状態」といえる。
・利尿薬投与後の随時尿での尿中Na<50mmol/Lであったり、投与2時間以内の尿量<150mL/hrであったりする場合には反応性が不十分であり、利尿薬用量を2倍にして投与し、尿中Na濃度を再評価することなどもある。正味のナトリウムバランスをマイナスにすることが重要で、十分なNa利尿/利尿反応が得られたら、目標とする体液量を達成するために、6~12時間ごとに投与を繰り返すことを検討できる。
・一般的に利尿薬反応性が不良なケースは予後不良であり、特に高用量投与でも利尿効率が低いケースは最も予後が不良である。
・近年、尿中Naでの利尿反応の定量化が注目されている。利尿薬投与後の随時尿での尿Na濃度が50~70mmol/L未満の場合、腎機能障害、心不全の悪化、長期にわたる有害事象のリスクが高いことが知られている。
・前述のようにループ利尿薬にサイアザイド系利尿薬を併用することでしばしば強力な利尿効果を得られることがある。一部のエキスパートはループ利尿薬の用量を最適化させるまではサイアザイド系利尿薬の併用を保留することを推奨するが、どれほどのループ利尿薬の増量が最適なのかについてコンセンサスは得られていない。たしかにサイアザイド系利尿薬の併用による利尿効果の増強はときに有用であるが、一方でレトロスペクティブ研究では併用療法による低カリウム血症、低ナトリウム血症、腎機能障害の進行、死亡リスクの増加と関連していることが示唆された。
・腎機能を改善することを目的に、平時から投与されているACE阻害薬またはARBを一時的に中止することはループ利尿薬による利尿反応を低下させる可能性があることが示されている。RCTおよび観察研究ではACE阻害薬またはARBに静注ループ利尿薬を併用することで、腎機能障害の進行を伴わないまま、Na利尿効果を強めることができることが示されている。
慢性心不全とループ利尿薬
・慢性心不全患者の多くは体液量を適正範囲に保つために経口ループ利尿薬を必要とする。
・理想的なループ利尿薬が何かは明らかでない。
・トラセミドやアゾセミドはフロセミドよりもBioavailabilityが優れるという点でより有効な可能性もある。また、トラセミドには心筋リモデリングの進行を軽減する作用がある可能性を示唆するデータもある。
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<参考文献>
・Felker GM, Ellison DH, Mullens W, Cox ZL, Testani JM. Diuretic Therapy for Patients With Heart Failure: JACC State-of-the-Art Review. J Am Coll Cardiol. 2020 Mar 17;75(10):1178-1195. doi: 10.1016/j.jacc.2019.12.059. PMID: 32164892.