大動脈弁狭窄症 AS: aortic stenosis

大動脈弁狭窄症とその疫学

・大動脈弁狭窄症(以下AS: aortic stenosis)は主に高齢者(70歳以上)で好発し、変性や動脈硬化などによることが多い。

・欧米では有病率が65歳未満では1.3%未満であるが、70歳以上では4~9%と推定されている。

若年者で発症する場合には先天性二尖弁が原因であることが多い。先天性二尖弁の有病率は0.2~0.8%という報告がある。また先天性二尖弁を有する患者では長期的な大動脈解離のリスクが高いことが知られ、年齢調整相対リスクは8.4と推定されている。

・ASはリウマチ熱が原因で生じることもあるが、主に低中所得国での主要な原因となっている。

・急性心不全の原因となる場合がある。

・通常、無症状の期間が長く続き、重症例に近づき症状が発現してから認識されることが多い。

・ASのリスク因子としては胸部放射線照射歴、腎不全、家族性高コレステロール血症、カルシウム代謝異常、高血圧症、喫煙、糖尿病などが挙げられる。

・ASではHeyde症候群(ハイド症候群)を合併することがある。これはASに合併する消化管血管異形性(gastrointestinal angiodysplasia)からの消化管出血を指す。狭窄した大動脈弁を血液が流れる際に、止血に必須なvWF多量体が機械的に破壊されることによって、vWFが枯渇して生じると考えられている。

臨床症状

・症状は通常、重症度と関連する

・主な自覚症状に胸痛(63%)、労作時呼吸困難(53~77%)、易疲労感(8%)、前失神または失神(2%)などが挙げられる。労作時呼吸困難や易疲労感などの症状に関しては慢性閉塞性肺疾患などと誤認されることもある。

原因が不明確なADL低下をきたすケースでもASの可能性を想起する。

身体所見

・心雑音は第2肋間胸骨右縁(2RSB)で収縮期駆出性雑音として聴取され、多くは右頸動脈に放散する

Ⅱ音減弱もときに認められる。なお、Ⅱ音の減弱はsevere ASの可能性を高める。

Ⅳ音が聴取されることがある。Ⅳ音はASでなくても左室肥大が形成されれば聴取され得る。

・肥満で胸壁が厚い患者などでは収縮期雑音が検出されにくい。

・心雑音はASの診断に関して感度44%、特異度81%とされている。ただし、moderate~severe ASに限定すれば収縮期雑音はほぼ全例で聴取されることが示されているため、雑音がなければ中等度以上のASは除外できることが多い(陰性的中率 92%)。

遅脈が認められることがある(感度 36%, 特異度 93%)。頸動脈や橈骨動脈の触診をすると、脈圧が低下し、脈の立ち上がりが遅れることが確認される。

診断

・診断には経胸壁心エコー検査(TTE)が最適である。

・TTEはsevere ASの診断に関して、感度92%、特異度99%と高い精度を有する。

・心雑音を聴取する場合や、臨床症状などからASが疑わしい場合ではTTEを実施し、診断を確定させるとともに、重症度評価を行う。

mild ASの患者では2年ごとにTTEを行い、フォローアップを行う。

・平均的には最大血流速度は年間0.1~0.3m/sほど、平均圧較差は年間3~10mmHgほど、弁口面積は年間0.1cm2ほど悪化することが知られている。ただし、当然個人差がある。

TTEでの重症度分類

 <平均圧較差(mPG: mean aortic pressure gradient)(mmHg)>

 ・mild AS:<20

 ・moderate AS:20~40

 ・severe AS:>40

 <弁口面積(aortic valve area(cm2))>

 ・mild AS:>1.5

 ・moderate AS:1.0~1.5

 ・severe AS:<1.0

 <最大血流速度(peak aortic flow velocity)(m/s)>

 ・mild AS:2.6~2.9

 ・moderate AS:3.0~4.0

 ・severe AS:>4.0

弁置換術

症状を伴うASのケースや、severe ASでなおかつLVEF<50%のケースでは症状の状態に関わらず、弁置換術を検討することが推奨される。実際、弁置換術により生命予後が改善することが示されている。

・severe ASでなければ、症状がないASでは侵襲的治療は必要ない。

75歳以上の患者、従来の弁置換術を実施するリスクが高い患者ではTAVIを第一選択とすることをESC(European Society of Cardiology)は推奨している。

症状発現時の年齢に関係なく、見込まれる余命が1年以上ある場合では弁置換術は少なくとも選択肢には挙げられる。もちろん併存疾患、耐術能、価値観や嗜好などに基づく、総合的判断が重要である。

予後

・PARTNERⅠ trialでは有症状のsevere ASは無治療では1年後の死亡率が約50%であることが示唆された。なお、このtrialではsevere ASで耐術能がない患者に対してTAVIを行った場合には保存的加療と比較して、死亡率が19%程度減少することが示された。

・あるRCTではTAVIの実施により、2年間の全死亡率はTAVIを実施しなかった群における68%に比して、43.4%に減少することが示された。また、症状およびQOLも有意に改善することが示された。

――――――――――――――――――――――――――――――――

<参考文献>

・Hurrell H, Redwood M, Patterson T, Allen C. Aortic stenosis. BMJ. 2023 Mar 15;380:e070511. doi: 10.1136/bmj-2022-070511. PMID: 36921921.

・Otto CM, Prendergast B. Aortic-valve stenosis--from patients at risk to severe valve obstruction. N Engl J Med. 2014 Aug 21;371(8):744-56. doi: 10.1056/NEJMra1313875. PMID: 25140960.

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です