多発血管炎性肉芽腫症 GPA: granulomatosis with polyangiitis

多発血管炎性肉芽腫症とその疫学

・多発血管炎性肉芽腫症(以下GPA: granulomatosis with polyangiitis)はANCA関連血管炎(AAV)の一つで、自己免疫性の小型血管炎に位置づけられる。主に上気道および下気道の肉芽腫性炎症と小~中血管における壊死性血管炎が病態の本態。また、壊死性糸球体腎炎を伴うことも特徴。

・耳、鼻、上気道に限局した病像を呈するものもあれば、全身症状が目立つケースもある。

・病院として遺伝的要因、環境要因(例: 公害, 喫煙, 吸入アレルゲンなど)、感染性の要因が示唆されている。また黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌はGPAの病勢悪化のCommonな誘因と考えられている。

・1936年にこの疾患に関連する3つの症例報告をしたFriedrich Wegenerの名前にちなみ、以前はウェゲナー肉芽腫症(Wegener’s Glanulomatosis)と呼ばれていた。2011年以降は多発血管炎性肉芽腫症と名称が変わっている。

・年間発症率は人口100万人あたり5~10例とされ、男女差はほとんどない。

・小児や若年成人において発症することは稀で、発症の年齢のピークはおおむね60~70歳代とされる。

・北欧出身の白人において有病率が比較的高いことが報告されている。

薬剤誘発性ANCA関連血管炎(Drug-induced ANCA-associated vasculitis)という概念があり、特定の薬剤の開始に伴って発症することがある。通常は原因薬剤を中止することで症状は治まるが、一部遺伝的素因があるケースではGPA発症の原因となることがある。原因となり得る薬剤としては抗菌薬(CTX, MINO)、抗甲状腺薬(PTU, MMIなど)、抗TNF-α抗体製剤(アダリムマブ, エタネルセプト, インフリキシマブ)、向精神病薬(クロザピン, チオリダジン)、その他(アロプリノール, ペニシラミン, ヒドララジン, フェニトインなど)が知られる。

病因

・GPAの約80%PR3-ANCAが産生され、約10%MPO-ANCAが産生され、これらが発症に関与する。また、LAMP-2に対する抗体もGPAの発症に関与している可能性が想定される。

・前述のように黄色ブドウ球菌はGPAの病態生理に関係していて、ときに再燃の経過をたどるケースでは黄色ブドウ球菌が鼻腔に持続的に定着していることと関連している可能性が想定されている。黄色ブドウ球菌はB細胞とT細胞とを活性化するスーパー抗原を産生し、結果としてAAVの発症を誘発し得る。

臨床症状/臨床経過

・特に病勢が強い状況では全身倦怠感、筋肉痛、関節痛、食欲不振、体重減少、発熱といった全身症状を呈する。

四肢の紫斑、皮膚潰瘍、白血球破砕性血管炎などはGPAでもみられる所見である。ただし、これは他の全身性血管炎でもみられる非特異的な所見であることに留意する。

・活動期にあるGPAでは粘膜症状として口腔内潰瘍、口腔内肉芽腫性病変がみられ、眼症状として強膜炎、結膜炎、角膜炎、ぶどう膜炎、網膜出血、視力障害、眼球突出、眼窩肉芽腫性腫瘤がみられることがある。

耳、鼻、上気道は侵されやすい。耳症状として感音性難聴または伝音性難聴がみられ、鼻症状としては鼻出血、鼻腔乾燥、潰瘍、腫瘤形成、鞍鼻、副鼻腔炎などがみられる。上気道病変としては声門下狭窄などがみられることがある。

下気道症状としては咳嗽、呼吸困難、喘鳴のほか、肺の結節性病変、空洞性病変、強膜炎、胸水貯留、肺胞出血、浸潤影などがみられる。

心血管系では心膜炎、心嚢液貯留、心筋症、心臓弁膜症、虚血性心疾患、心不全などがみられる。

消化管系では腸間膜血管における炎症を反映して、腸間膜虚血症、腹膜炎などを合併することがある。

腎臓系では半月体形成性糸球体腎炎がみられる。血尿、蛋白尿がみられたり、赤血球円柱なども参考所見となる。

中枢神経系(CNS)及び末梢神経系(PNS)では頭痛、髄膜炎、けいれん発作、脳血管障害、脊髄病変、脳神経麻痺、多発単神経炎、感音性難聴など様々な症状として現れる。

筋骨格系では関節炎、関節痛、筋肉痛などがみられる。

診断

・GPAに診断基準はなく、血管炎を示唆する全身症状、血清学的検査(ANCA等)、皮膚、肺、腎臓などの関連臓器の生検による壊死性血管炎、壊死性糸球体腎炎の証明、肉芽腫性炎症の組織学的所見などの組み合わせで総合的に診断される。

・重要度はBVAS(Birmingham Vasculitis Activity Score)を利用することができる。BVASは臓器障害の程度に応じて分類を行える。

・ANCA陽性はGPAの診断において必須ではない。ただし、類似した病像を呈する疾患を除外することが重要。また、AAVを示唆する症状や身体所見がないケースや、全身性血管炎の組織学的所見が得られないケースにおいて、ANCA陽性となった際には解釈に注意が必要。

・ELISAを利用した場合、AAVの診断に関してANCAは感度96%、特異度98.5%であると報告されている。なお、GPAの88%でc-ANCAが陽性となる。

導入治療

・シクロホスファミドとステロイドの併用療法や、リツキシマブ、メトトレキサートなどが導入治療に用いられる。

・そのほかの詳細は割愛する。

維持療法

・維持療法はGPAの再発、臓器障害などの発生率を低下させるためにも重要で、通常、導入療法を終えた後、最低12~18ヶ月間ほど実施される。

・維持療法にはアザチオプリン、メトトレキサート、レフルノミド、リツキシマブなどが利用される。

・そのほかの詳細は割愛する。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

<参考文献>

・Lutalo PM, D'Cruz DP. Diagnosis and classification of granulomatosis with polyangiitis (aka Wegener's granulomatosis). J Autoimmun. 2014 Feb-Mar;48-49:94-8. doi: 10.1016/j.jaut.2014.01.028. Epub 2014 Jan 29. PMID: 24485158.

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です