Oddi括約筋機能不全/胆道ジスキネジア SOD: sphincter of Oddi dysfunction

Oddi括約筋機能不全/胆道ジスキネジアとその疫学

・Oddi括約筋機能不全(以下SOD: sphincter of Oddi dysfunction)とはOddi括約筋の運動障害や狭窄により、胆汁と膵液の十二指腸への排出が障害され、胆道内圧が亢進して腹痛が生じる疾患である。

胆道ジスキネジア(biliary dyskinesia)という用語でも知られる。

・米国の調査では一般人口の最大1.5%でSODに一致する症状を自覚していることが報告されていて、女性患者は男性患者の約3倍に相当すると考えられている。

胆嚢摘出術をうけた患者の10~20%はその後、右上腹部の再発性あるいは持続性の疼痛を経験すると考えられていて、このなかにSODが含まれる可能性がある。

・SODの診断をなるべく客観化するために、欧米では修正ミルウォーキー分類(Modified Milwaukee classification)が採用されている。上腹部の上昇、血液生化学検査異常、画像所見に基づきⅠ~Ⅲ型に分類される。なお、一部のExpertはSODという診断について懐疑的な見方をもち、Ⅰ型は慢性的な胆泥や胆石の通過による乳頭部狭窄の結果で、Ⅱ型は狭窄を伴わない胆石通過の結果で、Ⅲ型は胃不全麻痺、過敏性腸症候群、機能性ディスペプシアなどと関連する機能障害であると主張される。

・なお修正ミルウォーキー分類は内視鏡的治療の治療反応性を予測する因子になるという見方がある。

病態生理

・SODの病態生理は十分に解明されていない。

・SODは結石を伴わない胆道閉塞性疾患に分類される。

・原因として考えられている説としては、胆石や胆泥が長期間にわたり胆道を通過することで、膨大部における狭窄が形成されるというものである。あるいはOddi括約筋の先天性肥厚か、あるいはホルモン刺激などによってOddi括約筋の過剰な収縮が生じている可能性が想定されている。

臨床症状

・典型的な病像は中年女性において生じる、発作性で耐え難い心窩部痛あるいは右上腹部痛である。ただし、年齢や性別は様々である。

食後の上腹部痛がみられることがある。

膵炎を併発した場合(pancreatic SOD)には背部痛を伴うことがある。

・なお、慢性的で非発作的な疼痛はSODらしいとはいえない。

診断

・SODの診断のためには、右上腹部痛などをきたす他の原因がないことをまず確認する必要がある。機能性疾患の可能性を疑うためにはRome基準が参考となる。

・原則として胆嚢が存在する患者でのSODの診断は困難であるため、通常は胆嚢摘出術が実施された患者においてのみ診断がなされる

・SOD患者ではERCP後に膵炎を発症するリスクが高く、その発症率は約25%に及ぶ。したがって、不必要にERCPを繰り返さないことなども重要。ただし、同時に悪性腫瘍の可能性は常に想定する必要があり、侵襲性が低いMRCP、CT撮像、超音波検査などを用いて、評価を行うことも重要。

胆道シンチグラフィーは潜在的な胆嚢疾患の評価や、SODにみられる胆汁の胆管内におけるクリアランスが不良であることを示すことに有用な場合がある。

・以前はOddi括約筋の内圧検査が実施されていた。内圧が高い場合にはSODの診断に繋げられることがある。しかし、その診断的精度は高くない。内圧は1日のなかでも変動があり、信頼性が低いことが示されている。また、Oddi括約筋切開術後の患者でも異常高値の内圧を示す場合があり、検査そのものの信頼性が十分でない。

 <機能性胆嚢症およびSODの診断基準(RomeⅢ)>

診断基準:心窩部and/or右上腹部における疼痛がみられ、以下の全てをみたすこと.

  1. 疼痛が30分以上持続する.
  2. 症状が異なる間隔で繰り返し発生する(毎日ではない).
  3. 疼痛が徐々に強くなる.
  4. 患者の日常生活に支障があるか, あるいは救急外来への受診をするほどの中等度以上の疼痛である.
  5. 排便によって疼痛が緩和されない.
  6. 体位変換をしても疼痛が緩和されない.
  7. 制酸薬によって疼痛が緩和されない.
  8. 症状を説明できる他の器質因が除外されている.

支持基準:疼痛は以下の1つ以上を伴うことがある.

  1. 悪心/嘔吐を伴う.
  2. 背部and/or右肩甲骨下部に放散する疼痛がある.
  3. 夜間に眠りから目が覚める.

治療

・治療の目標は胆汁や膵液の逆流を惹起することの予防と、胆道内圧上昇による疼痛の緩和とが主となる。

・薬物治療としてはニフェジピンが試されることがあり、特にⅡ型において初期の有効性が示されている。ただし、長時間作用薬ではプラセボ薬との有効性の差異が認められなかった。

・そのほか硝酸薬(例: ニトログリセリン)、PDE阻害薬(例: バルデナフィル)、消化管運動調節薬(例: トリメブチン)が少数の患者で試され、有効性を示唆する結果がある。

・従来、Oddi括約筋切開術が治療の主流となっていた。ただし、内視鏡的治療はプラセボ治療と差がないことも明らかとなりつつある。

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<参考文献>

・Small AJ, Kozarek RA. Sphincter of Oddi Dysfunction. Gastrointest Endosc Clin N Am. 2015 Oct;25(4):749-63. doi: 10.1016/j.giec.2015.06.009. Epub 2015 Aug 5. PMID: 26431602.

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