鎖骨下動脈疾患 subclavian artery disease
鎖骨下動脈疾患とその疫学
・鎖骨下動脈疾患(Subclavian artery disease)は鑑別疾患に挙げられにくいが、一般人口の2%にみられるという報告もある。
・疾患の進行が比較的遅く、側副血行路が発達するため、大半のケースは無症状である。
・鎖骨下動脈疾患は喫煙、高血圧症、脂質異常症、下肢の末梢動脈疾患(PAD: peripheral artery disease)の併存と関連する。
・PADが認識されている患者における鎖骨下動脈疾患の有病率は約42%である。また、PADが認識されている患者の約54%では左鎖骨下動脈の狭窄(30%超)が存在する。
・鎖骨下動脈疾患はアテローム性動脈硬化によって生じることが一般的である。その他の原因としては先天性奇形、線維筋性異形成症、神経線維腫症、血管炎(例: 高安病)、放射線被曝、機械的原因(例: 外傷, 圧迫)が挙げられる。
臨床症状/身体所見
・鎖骨下動脈疾患の主な症状としては上肢の”痺れ”/疼痛/冷感、上肢の跛行症状(claudication)、椎骨脳底動脈系の循環不全に起因する神経症状(視覚障害/失神/運動失調/めまい/失語/構音障害など)などが挙げられる。
・左内胸動脈がCABGにおけるバイパス術に利用されたケースでは、心筋虚血に伴う症状が出現することもある。左内胸動脈はアテローム性動脈硬化が特に生じにくいことから、CABGには適した血管と考えられている。しかし、ときに冠動脈からの血流を逆行性に奪い(Steal)、結果として心筋虚血を招くケースが存在する。そういった状態を冠動脈-鎖骨下動脈盗血症候群(coronary-subclavian steal syndrome)と呼ばれ、CABG後の患者の約3.4%で併発するという報告もある。
・血管造影検査で鎖骨下動脈盗血症候群(SSS: subclavian steal syndrome)に典型的な所見が確認されるケースの大半は臨床的に無症状であることが知られている。鎖骨下動脈の近位部や腕頭動脈における狭窄を有するケースにおいて、本来、大脳へ向かうべき椎骨動脈の血流が、上肢の血流を補うために逆流してしまうことがあり、そのことで症状が生じる状態が鎖骨下動脈盗血症候群(SSS)に相当する。
・初期評価では両側の上肢の血圧を測定して左右差がないかを確認すること、頸動脈/鎖骨上部の雑音の有無を確認することなどが挙げられる。なお、頻度は低いものの、手指の壊死や潰瘍などがみられることがある。両上肢の血圧左右差は10~15mmHg以上の差をまずは有意と捉えても良いかもしれない。
マネジメント
・上肢の”痺れ”、後方循環系の血流低下に起因する神経症状などの症状がみられ、鎖骨下動脈盗血症候群が想定される場合には治療を要する。
<薬物治療>
・抗血小板薬、スタチン製剤、降圧薬の投与を検討することとなる。
<手術>
・バイパス手術などが検討される。詳細は割愛する。
―――――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Saha T, Naqvi SY, Ayah OA, McCormick D, Goldberg S. Subclavian Artery Disease: Diagnosis and Therapy. Am J Med. 2017 Apr;130(4):409-416. doi: 10.1016/j.amjmed.2016.12.027. Epub 2017 Jan 19. PMID: 28109967.