末梢動脈疾患 PAD: peripheral artery disease

末梢動脈疾患とその疫学/リスク因子

・末梢動脈疾患(以下PAD: peripheral artery disease)は総腸骨動脈~膝窩部の部分が侵される近位型と、膝窩部以遠が侵される遠位型とがある。

・PADのリスク因子としては他の動脈硬化性疾患のリスク因子の多くと重複するが、なかでも喫煙糖尿病とが強く関連している。

・有病率は男性と閉経後女性とで同程度であるが、間欠性跛行を呈する割合は男性の方がより高い

・遺伝的要因も示唆されていて、PADの家族歴を有する場合は発症率が約2倍に上昇する。

・ABI(足関節上腕血圧比)が0.9以下の場合、1.11~1.40の場合と比較して死亡率が2倍以上高いことが知られている。

スクリーニング

・米国予防医療専門委員会(USPSTF: United Stated Preventive Services Task Force)はPADを早期発見することで良好な転帰がもたらされるというエビデンスが不足していることを根拠に、無症状の人に対するABIによるスクリーニングの実施を推奨していない。

・一方で米国心臓協会(AHA)は65歳以上の高齢者、および喫煙者あるいは糖尿病を有する50歳以上の方においてはスクリーニングを行うことを推奨している。

臨床症状

・無症状のこともあれば、間欠性跛行のような典型的な症状を呈することもある。また、下肢の不快感といった非典型的症状もときにみられる。

・身体所見としては膝窩動脈や足背動脈の拍動減弱/消失、聴診時の雑音、下肢挙上時の皮膚蒼白などがみられる。

・重症下肢虚血に至っている場合、安静時疼痛を呈することが多く、足趾には潰瘍壊死が認められる。

臨床検査

・非侵襲的検査としては主にABI、超音波検査(連続波ドプラ検査、カラードプラ検査)が挙げられる。

動脈硬化が強いケースではABI>1.40となりやすい。この場合、TBI(toe-brachial indexes)を参照する。TBI≦0.70であれば、PADに対して診断的である。

・再灌流療法を検討する患者では造影CT撮像、血管造影検査なども検討される。

動脈硬化に関する介入

 <抗血小板薬>

症候性PAD患者では抗血小板治療(アスピリン(75~325mg/日))を行うべきである。PAD患者を対象としたアスピリン使用に関するメタ解析では心血管イベントのリスク減少に影響を与えなかったが、脳卒中リスクの有意な減少に寄与することが示された。

ABI<0.95で、かつ無症状の患者ではアスピリンは予後を改善しないことも示された。

クロピドグレル(75mg/日)はアスピリンよりも脳梗塞、心筋梗塞、その他の血管性疾患による死亡リスクを僅かであるがさらに減少させる可能性が示唆されている。

・PAD患者にはワルファリンの使用は推奨されない。

 <脂質異常症>

・アテローム性動脈硬化を伴う場合にはスタチン治療を行い、LDL-Cを50%以上低下させることが推奨されている。ただし目標となるLDL-Cの絶対値は示されていない。

・スタチン治療がなされているPAD患者における、四肢の有害転帰(症状悪化, 末梢再灌流療法の導入、四肢切断など)の発生率は無治療のケースよりも発生率が約18%低いことが示された。

 <高血圧症>

・血圧の目標値については議論の余地がある部分であるが、心血管リスクの高い患者ではsBP<120mmHgとすべきと考えられている。

・降圧薬の種類ごとの有効性を比較したTrialは乏しい。しかし、心血管イベントのリスク減少のためにACE阻害薬が望ましいという見方がある。

 <糖尿病>

・糖尿病に対する介入によって微小血管疾患、神経障害のリスクを軽減させる可能性がある。

・ただし厳格な血糖コントロールは死亡率をさらに増加させる可能性があるため、目標とする血糖値、HbA1cは年齢、ADLなどを総合的に勘案して決定されることが望ましい

 <禁煙>

・喫煙を継続するケースに比べて、禁煙をするケースでは死亡/疾患進行/重症下肢虚血および四肢切断/心筋梗塞/脳卒中のリスクが減少することが知られている。

運動能力改善のための介入

ABIにおける数値と、運動能力との相関性は小さいことが知られる。PAD患者の運動能力低下は冠動脈疾患や肺疾患、変形性関節症などを含む複合的要因によることが大きい。

 <運動療法>

・間欠性跛行に対する第一選択の治療法は運動療法である。3回/週以上(30~60分間/回)の運動を少なくとも12週間以上続けることを基本とした運動プログラムは有効性が示されている。

 <薬物治療>

・薬物治療ではまずシロスタゾールの有効性が知られ、間欠性跛行の改善に寄与する(投与例: 100mg 1日2回内服)。シロスタゾールはプラセボ薬と比較してトレッドミル使用下での最大歩行距離を約25%増加させることが示された。

・シロスタゾールはPDE阻害作用による抗血小板作用と血管拡張作用、TXA2による血小板凝集を抑制する作用がある。副作用としては易出血性のほか、動悸、頻脈、頭痛、下痢などが知られる。なお、心不全患者(特にHFrEF)に対する投与は禁忌である。

・アトルバスタチン(80mg/日 12ヶ月間投与)はプラセボ薬と比較して、疼痛を伴わないまま歩行できる距離は僅かに延長したが、最大歩行時間は延長しなかったことが示され、有効性に乏しい。

再灌流

運動療法や薬物治療を実施しても症状改善に乏しいケースや、介入によって症状改善が期待できるケースでは再灌流療法が適応となり得る。また、重症下肢虚血の状態では四肢を温存するためにも適応となる。

・治療としてはステント留置、外科的バイパス術などが挙げられる。詳細は割愛する。

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<参考文献>

・Kullo IJ, Rooke TW. CLINICAL PRACTICE. Peripheral Artery Disease. N Engl J Med. 2016 Mar 3;374(9):861-71. doi: 10.1056/NEJMcp1507631. PMID: 26962905.

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