流行性耳下腺炎/ムンプス mumps

流行性耳下腺炎とその疫学

・流行性耳下腺炎(mumps)はムンプスウイルス(mumps virus)によって発症する小児感染症で、耳下腺腫大を特徴とする

・ムンプスはワクチンで予防できる可能性が高い疾患である。ワクチンは本邦では2回接種で、1歳になった時点で接種し、小学校入学の前年に2回目の接種を完了することとなる。1回のワクチン接種によって約80%の予防効果があり、2回の接種が完了すると約99%の予防が可能と報告されている。

感染経路/潜伏期

接触感染、飛沫感染によって伝播する。

・潜伏期間は15~24日間(平均約3週間)と推定される。

臨床症状が出現する1~2日前に最も感染力が高い状況になり、その後、数日間はその状態が続く。また、症状出現9日後まで唾液からウイルスが分離されることもある。

・ウイルスは鼻腔などの上気道粘膜で増殖する

・ウイルスは耳下腺を最もよく侵すが、そのほか中枢神経系(CNS)、尿路、生殖器などに症状をきたすこともある。腎臓が侵されるとウイルス尿症が10~14日間程度続く。

・ムンプスウイルスは腺上皮と親和性があり、導管周囲の間質性浮腫とリンパ球およびマクロファージの浸潤を伴う局所性炎症を惹起する。

臨床症状

・ムンプスの約1/3は無症状のまま経過する。したがって、症状を呈するのは全体の60~70%程度である。

・一般的に微熱、食欲不振、倦怠感、頭痛などの短期間の前駆症状期から症状が始まる

・頻度別では耳下腺腺(臨床症状を呈する患者のうち95%)、精巣上体炎(15~30%)、両側性精巣炎(精巣上体炎患者の15~30%)、卵巣炎(5%)、髄膜炎(1~10%)、脳炎(0.1%)、永続的な片側性難聴(0.005%)、膵炎(4%)などが知られる。なお、死亡に至るのは脳炎を合併した患者のうち約1.5%である。

 <耳下腺炎>

疼痛を伴う耳下腺炎を来し、臨床症状を呈する患者の約95%でみられる。

・耳下腺が腫大すると、耳朶が外側に偏位し、触診で下顎角が不明瞭となることが身体診察上のポイントである。

・症状は2~3日かけて進行し、1週間程度は続く。疼痛や圧痛は自然軽快する。

・多くのケースでStensen管の開口部が浮腫状に発赤している。なお、対側の耳下腺腫大は数日程度遅れて生じることが多い

・ごく稀に唾液分泌過多の合併症を呈する。

・顎下腺および舌下腺が侵されることは稀で、感染者の約10%に留まる。

 <精巣上体炎/卵巣炎>

・精巣上体炎は感染した成人男性の15~30%で発症する。

思春期以前の患者で発症することは稀である。

・精巣炎をきたす患者の15~30%で両側の精巣が侵される。

・精巣炎は耳下腺炎の4~8日後に発症することが一般的であるが、6週間程度の間隔をあけて発症した症例の報告例もある。

・通常は患側の精巣の急激な腫大、熱感、圧痛から始まる。全身症状として発熱、嘔吐、頭痛、倦怠感などもみられる。

・耳下腺炎と同様に、症状は2~3日で進行し、1~2週間で軽快するが、精巣の圧痛は数週間続くこともある。

・患者の約半数精巣のサイズが縮小し、患者の約25%精子に関する検査(数/形態/運動性)で異常がみられる。

思春期以降の女性患者の約5%で卵巣炎を合併し、下腹部痛、発熱、嘔吐などがみられる。卵巣炎の後に不妊症や早期閉経などが報告されているが、頻度としては稀である。また、思春期以降の女性患者では乳腺炎を合併することもある。

 <中枢神経感染症>

・髄液への浸潤はムンプスの少なくとも50%以上の患者で生じるが、実際に髄膜炎を呈することはほとんどない。臨床的に明らかな髄膜炎はムンプス患者の1~10%にとどまり、脳炎は0.1%に発症する。

・患者は男性により多い。

・CNS感染症は耳下腺炎の発症5日後に生じやすいが、耳下腺炎の出現に1週間ほど先行することもあり、様々である。

・髄膜炎を合併するケースの約半数では唾液腺が侵されていない状況で発症する。したがって、耳下腺炎の重症度とCNS感染症の合併率は相関しない

・ムンプスウイルスによる髄膜炎は良性疾患で、死亡リスクや後遺症リスクは基本的にない。

・難聴の症状が出現し、めまいも伴うことがある。しかし、前庭機能検査は正常なこともある。

 <膵炎>

・ムンプス患者の約4%で膵炎を合併するが、ほとんどが軽症である。

妊婦におけるムンプスの発症

自然流産妊娠初期におけるムンプス発症の合併症として起こり得ることが知られている。

・Siegelらは妊娠第1期のムンプス発症後の胎児死亡率は対照群が13%であるのに対し、ムンプス患者群では27%であったと報告した。しかし、Endersらによる比較的新しい研究ではムンプスを発症する女性における流産率は増加していないことが示されていて、現時点で関係性が明らかに解明されているとは言い難い印象をうける。

・少なくともムンプスと低出生体重児や先天性奇形との関連性を示す明確な根拠はない。

診断

・通常は典型的な耳下腺腫大によって臨床診断がなされる。通常は明らかな他の原因がない状態で、片側あるいは両側の時間腺または他の唾液腺の急性経過の腫大が2日以上持続することが基本である。

・しかし、耳下腺腫大が目立たない症例も一部存在するため、血清学的検査(特異的IgM抗体など)によって診断することも可能。IgMは症状発現時には確実に検出できるという報告もあるが、症状発現後4日目以前に提出した血液検体ではIgMが偽陰性となる可能性を指摘する研究もある。総じて、最適な時期は症状発現後7~10日目と考えられる。

・血液検査ではほとんどのムンプス患者でWBCおよびその分画に異常所見がないことが知られている。ただし、膵炎や髄膜炎、精巣炎などを併発している場合ではWBC増多がみられる。また、耳下腺炎か膵炎を発症している症例のほとんどで血清アミラーゼ上昇が確認できる。

治療

・特異的な治療法はなく、抗ウイルス薬も存在しない。

・通常は自然治癒するため、対症療法が基本となる。

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<参考文献>

・Hviid A, Rubin S, Mühlemann K. Mumps. Lancet. 2008 Mar 15;371(9616):932-44. doi: 10.1016/S0140-6736(08)60419-5. PMID: 18342688.

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