腹部膨満感のマネジメント

腹部膨満感/腹部膨満とその疫学

・腹部膨満は腸管内ガス、腹圧などによって生じることがある。

機能性ディスペプシア(FD)、過敏性腸症候群(IBS)、機能性便秘などの他の機能性疾患と併存することが多い。

・そのほか食物に対する不耐症、腸内細菌叢の乱れ、腸管蠕動低下などの複合的原因が影響し得る。

・腹部膨満感の有病率は高く、一般人口の16~31%とされる。IBS患者では66~90%で自覚していると報告されている。

・慢性的な腹部膨満感はQOLに影響を及ぼす。腹部膨満感を自覚する患者の75%はその症状を中等度から重度のものと捉え、50%は日常生活に支障をきたしていると感じている。

主な鑑別疾患

 <器質性疾患>

・小腸内細菌異常増殖症(SIBO)

・ラクトースやフルクトース、炭水化物などに対する不耐症

・セリアック病

・膵臓の外分泌機能不全

・胃食道の手術による影響(例: 肥満手術, 噴門形成術)

・胃幽門部の狭窄/閉塞

・胃不全麻痺

・腹水

・消化器系/婦人科系の悪性腫瘍

・甲状腺機能低下症

・肥満

・小腸憩室症

・偽性腸閉塞

 <腸脳連関の障害>

・過敏性腸症候群(IBS)

・慢性特発性便秘症

・骨盤底機能障害

・機能性ディスペプシア(FD)

・機能性腹部膨満

小腸内細菌異常増殖症(SIBO)

別の記事を作成しているため、割愛。

腸内細菌叢の変化

・IBS患者と健常者とを比較すると、腸内細菌叢の質的/量的な差異があることが示されている。

・ある研究では腹部膨満感の症状のないIBS患者、症状のあるIBS患者、健常者を比較したところ、膨満感のないIBS患者においてRuminococcaceae科およびEubacteriaceae科の細菌が著明に減少していたことが示された。

腸管蠕動の問題

・胃不全麻痺患者や小腸蠕動に問題がある患者(例: 強皮症)では腹部膨満感はみられやすい。

・機能性便秘症、IBSなどの患者2,000人以上を対象にした研究では90%以上の患者で腹部膨満感を自覚していたと報告されている。

骨盤底機能障害

・骨盤底筋の機能障害がある患者では排ガスや排便を促す機能が低下しているため、腹部膨満感を自覚しやすい。

・便秘患者では排ガスの遅延が腹部膨満感の症状と相関することが示されている。

内蔵知覚神経の過敏性亢進

・IBS患者で腹部膨満感を自覚する患者では内蔵知覚神経の過敏性が亢進していることが示されている。FD患者でも同様の傾向を示す場合がある。

・腸管内容物に関する知覚亢進が腹部膨満感に影響している可能性がある。また、腸脳連関が影響しているため、不安、抑うつ、身体化などによってこれらはさらに修飾を受ける。

診断

・腹部膨満感の根本的な原因を把握するためには様々な情報の聴取が重要。

・症状が自覚されはじめた時期や食事との関係性、手術歴、既往歴、服薬歴などの情報を慎重に把握する必要がある。

・SIBOでビタミン欠乏に至る割合は高いとはいえず、仮にビタミン欠乏症がなくてもSIBOは否定されない。SIBOの診断のゴールドスタンダードは空腸における腸液の培養であるが、侵襲性が高く、コストもかかるため、実施されることは稀である。ゴールドスタンダードの検査ではないが、海外ではSIBO呼気試験が実施されることがあり、主に水素ガスとメタンガスに関する検出を図る検査である。

・意図しない体重減少、原因不明の貧血など、悪性腫瘍の存在を示唆する情報がある場合には上部消化管内視鏡が勧められる。悪性腫瘍のほか、胃幽門部の狭窄/閉塞などを否定することに利用される。

・胃不全麻痺などが想定される場合には胃排出シンチグラフィーが実施されることもある。

・骨盤底筋の機能障害は直腸指診で所見が得られることもある。

フルサイズ画像: 'Management of Chronic Abdominal Distension and Bloating'

治療

 <食事>

・ソルビトール、キシリトールなどの吸収性が低い人工甘味料はガス産生を促す傾向にあるため、可能な限り回避することが無難かもしれない。

・グルテン過敏症のない患者においても、グルテンフリーな食事に変更することで腹部膨満感が改善する場合がある。

・必要に応じて管理栄養士とも協働する。

 <プロバイオティクス>

・プロバイオティクスにより、腸内細菌叢を変化させることで腹部膨満感が改善する可能性がある。

・L.sporogens/Bacillus coagulansを含むプロバイオティクスをランダムに使用されたIBS患者患者では腹部膨満感に関する自覚症状に改善がみられたという報告がある。ただし、研究によって有効性に関するデータは一貫していないため、明確に有効とはいえないかもしれない。

 <抗菌薬>

・最もよく研究されている抗菌薬はリファキシミンである。

・非便秘型IBS患者を無作為にリファキシミン550mg 1日3回 14日間投与群とプラセボ群とに分け、観察をしたところ、少なくともはじめの2週間においてプラセボ群よりも腹部膨満感に関する症状緩和がみられたと報告されている(30.3% vs 40.2%(P<0.001))。そのほかの研究でもリファキシミン400mg 1日2回 10日間の投与で症状が改善したという報告もある。

 <緩下薬(上皮機能変容薬)>

・1,171人のIBC-C患者を対象にしたRCTでは1日2回のルビプロストン(8μg)投与で、IBSの全般的な症状が改善し、secondary endpointの腹部膨満感も改善したという報告がある。

・そのほかルビプロストンと同様に上皮機能変容薬に該当するリナクロチドも腹部膨満感を改善することを示唆する報告がある。

 <消化管運動促進薬>

・消化管運動促進薬はFD、胃不全麻痺、IBSなどで使用される。ただし、慢性的な腹部膨満感に対する有効性に限定すると、その有効性を示すデータは限定的である。

・ピリドスチグミン、アコチアミドはIBSやFDにおいて腹部膨満感をわずかに改善させることが示唆されている。

 <神経調節薬>

・脳腸連関に影響を与える薬剤はNeuromodulators(神経調節薬)と呼ばれることがある。

・アミトリプチリン、エスシタロプラム、シタロプラムは食後の腹部膨満感の改善に有効であることが示唆されている。

 <その他>

・IBS患者に関する研究でペパーミントオイル(180mg 1日3回)が腹部膨満感を有意に改善させることが示されている。

・六君子湯も同様に有効性が示唆されている。

 <催眠療法>

・代替医療の一部に含まれることもあるが、催眠療法は腹部膨満感を改善することが示唆されている。

―――――――――――――――――――――――――――――――――

<参考文献>

・Lacy BE, Cangemi D, Vazquez-Roque M. Management of Chronic Abdominal Distension and Bloating. Clin Gastroenterol Hepatol. 2021 Feb;19(2):219-231.e1. doi: 10.1016/j.cgh.2020.03.056. Epub 2020 Apr 1. PMID: 32246999.

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です