腰椎椎間板ヘルニア herniated lumbar intervertebral disk
腰椎椎間板ヘルニアとその疫学
・腰椎椎間板ヘルニア(herniated lumbar intervertebral disk)は坐骨神経痛の主な原因であるが、無症状の患者でも画像検査で検出される場合がある。50歳の人の約60%で椎間板の膨隆(bulging)がみられるという報告もある。
・腰部脊柱管狭窄症、脊椎すべり症、骨折が除外された場合、坐骨神経痛を自覚する患者の約85%で腰椎椎間板ヘルニアが認められると報告されている。
・自然経過は一般的に良好で、保存的加療で3ヶ月以内に約87%の患者で疼痛が軽減すると報告される。
・椎間板ヘルニアでは椎間板の線維輪が断裂することで、髄核が脊柱管内に突出して生じる。突出部位による分類では後外側型(posterolateral type)が最多で、後正中型(central type)がそれに次いで多い。この2つで約80~90%を占めることとなる。
・髄核が神経根と接触すると炎症が生じ、疼痛発生に影響を及ぼす。
・前述のように椎間板ヘルニアは必ずしも疼痛を伴わず、無症状の患者でもみられ得る。
・激しい運動、喫煙はリスク因子とされる。そのほか遺伝的要因なども示唆されている。
・疼痛が消失した患者の約25%は1年以内に症状が再発する。
坐骨神経痛に関する身体診察
・別に記事を作成したため、ここでは割愛する。
臨床症状/鑑別疾患
・腰痛は坐骨神経痛に先行する場合がある。ただし、前景に立つ症状は坐骨神経痛や下肢の感覚症状となることが多い。疼痛は通常、膝関節以遠まで放散する。
・特定の誘因が明らかでないことも多く、一般的に突発完成ではない。
・主な鑑別疾患には椎体骨折、脊椎主要、硬膜外膿瘍、脊椎すべり症、腰部脊柱管狭窄症、糖尿病神経障害などが挙げられる。発熱や体重減少などの全身症状、既往例(例: 悪性腫瘍)、外傷歴などの情報が鑑別において重要である。
・稀に正中に突出するヘルニアによって馬尾症候群を呈することがある。この場合、症状は片側性であることも両側性であることもあるが、そのほかに尿失禁や尿閉、臀部・会陰部の感覚喪失などがみられる。また肛門括約筋の緊張低下も所見としてみられる。
画像検査
・腰椎X線撮影では椎間板ヘルニアは確認できない。しかし、腫瘍、骨折、すべり症などの鑑別疾患に関する確認に役立つ。
・通常、MRI撮像で腰椎椎間板ヘルニアが診断可能。
・原則として保存的加療を4~6週間行っても症状の改善がみられない患者でCT撮像やMRI撮像が必要となる。そのほか神経症状が重度であるケース、進行性の神経障害がみられるケース、腫瘍性疾患や感染性疾患が疑われるケースでは早期のMRI撮像を検討する。
治療
・坐骨神経痛の症状が4~6週間続く場合には硬膜外ステロイド注射や手術が検討される。その場合にはMRI撮像やCT撮像の適応となる。
・臨床所見とMRI所見が一致して6週間以内に症状が改善しないケースでは手術が検討される。そのほか、神経症状が重度であるケースや、進行性の神経障害がみられるケースでは手術が必要となる。
・硬膜外ステロイド注射はその後の手術に至る患者の割合を減少させることはない。
<保存的加療>
・コホート研究では椎間板ヘルニアが想定される患者の多くは6週間以内に症状が改善することが示唆されている。したがって、重大な神経障害などがみられないケースでは6週間の保存的加療が推奨される。なお、ある研究では2週間以内に36%の患者で症状の改善がみられることも報告されている。
・NSAIDsは短期的に腰痛を軽減するが、坐骨神経痛に対する効果はあまり明確に示されていない。また、ステロイド全身投与の有効性は示されていない。
・坐骨神経痛に対するアセトアミノフェン、抗てんかん薬、抗うつ薬、筋弛緩薬の有効性を支持するエビデンスは不足している。
・システマティックレビューでは腰痛に対して、オピオイドは短期的に僅かに有効であることが示唆されている。ただし、オピオイドの使用は重度の疼痛を訴える患者に限定するべきであり、投与期間も限定するべきとされる。
・筋力低下を防ぐためにも長期間の臥床安静は推奨されず、可能な限り日常生活を維持できるようにすべきである。楽に座れるようになれば、状態が改善している一つの指標とみなせるかもしれない。
<手術>
・原則としてMRI撮像で神経根の圧迫が確認され、6週間の保存的加療で疼痛が軽減しない患者が手術適応となる。ただし、重度の神経障害などが認められるケースなどの例外は存在する。
・手術治療は保存的加療よりも早期に坐骨神経痛を緩和する。しかし、その後1~4年間において坐骨神経痛の程度は手術実施群と保存的加療群とで差がないことが優れている。
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<参考文献>
・Deyo RA, Mirza SK. CLINICAL PRACTICE. Herniated Lumbar Intervertebral Disk. N Engl J Med. 2016 May 5;374(18):1763-72. doi: 10.1056/NEJMcp1512658. PMID: 27144851.