失神 syncope

失神とその疫学

・失神(syncope)は救急外来で経験する症候のうち約1%を占める。

・血管迷走神経反射(以下VVR: vasovagal reflex)が原因であれば予後良好であるが、心室性頻拍の場合は予後良好とはいえない。

・発症率に関して男女差はほとんどない

約35%の人が生涯で失神を一度は経験する。失神の初発年齢としては10~35歳が多い。また70歳以降では年齢とともに発症率が上昇する。総じて20代80代とにおいて二峰性のピークがある。

病因

・病因としては反射性、起立性低血圧、心血管性の3つに大別される。

・最も一般的な原因は血管迷走神経反射(VVR)である。2番目に多い原因は心原性失神である。

頸動脈洞性失神および起立性低血圧40歳未満で生じることは稀である。

反射性失神

血管迷走神経反射、状況性失神、頸動脈性失神に区別される。主に血圧低下と徐脈とがみられる点が特徴である。

・血管迷走神経反射は疼痛、医療処置時(採血など)、長時間の立位保持、暑熱環境、混雑環境などによって生じる。ただし、明らかな誘因なしに生じることもある。

・状況性失神は食道、直腸、膀胱などの管腔臓器の拡張により引き起こされる。例えば排尿時、排便時、咳嗽時、食後に生じる。

・頸動脈性失神は通常、高齢者で生じる。典型的には頸部を伸展させた際に生じるが、明らかな誘因を特定できないことも多い。主に頸動脈洞圧受容体の過敏性が関連している。

起立性低血圧

・起立性低血圧はシェロング試験で確認可能である。古典的には起立3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、拡張期血圧が10mmHg以上の幅で低下し、あるいは脈拍数が30/min以上の幅で増えることで定義される。

循環血液量減少、過剰な利尿、薬剤性、自律神経障害が主な原因となる。

・起立性低血圧は反射性失神を惹起することがある。

心血管性失神

・心血管性失神はHEARTSというネモニクスがある。H: heart attack(心筋梗塞)、E: embolism(肺血栓塞栓症)、A: aortic dissection/aortic stenosis/AAA rupture(大動脈解離/大動脈弁狭窄症/腹部大動脈瘤破裂)、R: rhythm disturbance(不整脈)、T: tachycardia(心室頻拍)、S: subarachnoid hemorrhage(くも膜下出血)を各々指す。

予後と再発リスク

・予後は基礎疾患、特に心疾患の有無と重症度によって規定される。

・血管迷走神経反射やその他の反射性失神は一般的に予後良好である。

・失神が生じてから7~30日間の複合死亡率は0.7%と推定されている。

・全体の約20%で失神を再発すると報告されている。特に心原性失神は再発リスクが高い。

初期評価

突然死のリスクがある患者層を特定すること、つまりリスクの層別化が重要。

病歴聴取、心電図検査、心臓の構造的問題の評価によってリスクの層別化がなされる。

・一般的に心電図検査が正常で、心臓の構造的問題がない場合には予後良好で、さらなる検査は必要としない。

・弁膜症や心筋症などの心臓の構造的問題が示唆される場合には心エコー検査を行う。

・単回の心電図検査では不整脈は否定されない。Holter心電図の実施は必須ではないが、不整脈の存在が疑わしい場合にはHolter心電図の実施は検討可能である。ただし、失神の再発が数ヶ月から数年後ということが多いため、Holter心電図による診断精度は低い。ある研究では48時間の継続的な心電図モニタリングで心電図異常を検出できたのは24%であった。また72時間のモニタリングで失神が認められたのは95例中1例のみであったという報告もある。ほかにループレコーダーも選択肢に挙げられる。ただしループレコーダーの実施には小手術を要する。

・心臓電気生理学的検査(EPS)は一部の不整脈の発生原因や機序を調べるために有用である。ただし、EPSは心エコーで心臓の構造的問題が指摘されず、不整脈を示唆する所見がない患者には推奨されない。

突然の騒音、強い感情、運動によって失神が生じる場合にはQT延長症候群も想定される。

・血管迷走神経反射では熱く感じること、発汗、悪心、耳鳴、腹痛などの前兆を伴うことが多い。なお、高齢者の血管迷走神経反射では逆向性健忘を伴うことも一般的である。

前駆症状が非常に短いか、あるいは全くない場合には不整脈によるものである可能性が高まる。動悸は頻脈性不整脈を示唆する場合もあるが、非特異的な所見であることも多い。

・チアノーゼは心原性失神を示唆する。

・心因性失神では閉眼に対し、他動的に開眼させようとすると抵抗がみられることがある。

失神が労作に関連している場合にはQT延長症候群、カテコラミン誘発性多形性心室頻拍なども鑑別に挙げられ、運動負荷試験の実施も推奨される。

Clinical prediction rule

・多くのリスク層別化のためのスコアリングは主に予後規定に関わるものであり、失神の確からしさを見積もるものではないことに留意する。どれだけ安全に帰宅/退院できるかの判断指標の一つとして利用されるものである。

SanFrancisco Syncope Ruleは2004年に開発されたスコアリングで、大規模な三次救急医療機関で研究されている。主にCHESS(Congestive heart failureの既往/Ht値<30%/ECGで異常所見/Shortness of breath(呼吸困難)/初診時のsBP<90mmHg)という5項目で評価され、1つでも該当項目があれば重篤な合併症リスクが高まると考えられている。感度98%、特異度56%であった。

治療

・治療の目標は死亡率、外傷、再発率を減少させることである。

・心室性不整脈が存在する患者では植込み型除細動器(ICD)の使用が推奨される。

血管迷走神経反射などでは失神の前に前駆症状がみられることがある。明らかな前駆症状がみられる場合にはその後の転倒による外傷を回避するために、すぐに座位あるいは臥位になることがまず勧められる。それができない場合には脚を交差させたり、しゃがみ込んだり、臀部や下肢に力をいれたりすることで、体血圧を上昇させることが重要。

・血管迷走神経反射に対する薬物治療について、これまでの研究から明確に有効と示される薬剤はない。

・血管迷走神経反射に対するβ遮断薬の有効性については、複雑な治療効果が示されていて、あるメタ解析では42歳未満の患者ではβ遮断薬により失神の再発率が58%増加する一方で、42歳以上の患者では再発率が48%減少するという相反する結果であった。なお、実際に42歳未満と42歳以上とではその反応に統計学的な有意差も認められた。

・血管迷走神経反射に対して、α作動薬(例: メトリジン)が使用されることがあるが、比較的質が高いとされる2件のRCTでは有効性を示せなかった。一方で、3件のRCTでα刺激薬は起立性低血圧の治療に有効であることが示されている。

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<参考文献>

・Saklani P, Krahn A, Klein G. Syncope. Circulation. 2013 Mar 26;127(12):1330-9. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.112.138396. PMID: 23529534.

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