心房細動 AF: atrial fibrillation

心房細動とその疫学

・心房細動(以下AF: atrial fibrillation)は成人で最も多くみられる不整脈である。

・リスク因子としては高齢、冠動脈疾患、男性、高血圧症、肥満、喫煙、糖尿病、閉塞性睡眠時無呼吸症候群、第1度近親者におけるAFの家族歴が挙げられる。

・新たにAFと診断された患者の19%は、肺炎や手術、心筋梗塞、肺塞栓症、甲状腺中毒症、アルコール中毒などの誘因を有していたと報告されている。

・AFは脳卒中(男性:4.0倍, 女性:5.7倍)、心不全(男性:3.0倍, 女性:11倍)などの発生率増加と関連する。

・男性で2.4倍、女性で3.5倍の死亡率増加につながる。

・発作性心房細動は1年間に5~10%の割合で持続性心房細動へ進行する。なお、持続性心房細動と診断され、電気的除細動が成功した患者のうち、最大20%がAFを再発し、洞調律を維持することが困難となる。

男性で2ドリンク/日以上、女性で1ドリンク/日以上長期的な飲酒習慣はAF発症に関与する。なお、1ドリンクは純アルコール10gに相当する。

・カフェイン摂取がAF発生率を高めるという根拠はない。

臨床症状

・自覚症状から軽微なものから日常生活に支障をきたすものまで様々である。

易疲労感、運動耐容能低下、動悸を引き起こす可能性もある。心拍数が過度に上昇すると、循環に影響を及ぼし、血圧低値、失神、狭心症、肺水腫を合併する可能性がある。しかし、適切なRate controlによって左室駆出率は改善し得る。

・AFによる心筋症は通常、HR>110bpmで生じやすい。ただし、ケースによってはそれよりも遅い心拍数でも生じ得る。

診断/アセスメント

・心電図検査でP波消失、RR間隔不整が確認できれば診断が可能。

・出現頻度が低い場合はHolter心電図などを利用しなければ診断できないこともある。

経胸壁心エコー検査をルーチンで実施することが推奨されている。

・睡眠障害が存在する可能性にも配慮するべきで、睡眠時無呼吸症候群を疑う病歴などがある場合には精査を行う。

治療

・AFのマネジメントとしては適切なRate control、抗凝固療法、Rhythm conrtolなどが挙げられる。

<①レートコントロール>

・HRは血行動態自覚症状とに関係する重要な要素。

・Rate controlの第一選択薬はβ遮断薬非DHP系CCB(ベラパミル, ジルチアゼム)である。目標安静時心拍数は110bpm未満である。

・治療薬は個々のケースに応じて選択され、例えばβ遮断薬は抑うつ状態を増悪させることがあり、CCBは心不全を悪化させることがある。通常はβ遮断薬の投与から開始し、徐々に増量することが多い。β遮断薬だけで治療効果が不十分な場合にCCBを併用することはできるが、特に高齢者では血圧低下が目立つケースもあり、十分な注意が必要。

・ジゴキシンは安静時のHRを低下させる。しかし、労作時におけるRate controlにおいては不十分である。AFを対象とした研究ではジゴキシンの使用は死亡率増加と関連していることが示されている。ただ、HFrEFのケースでは少量のジゴキシンを他の薬剤に併用することも検討できる。

・労作時の自覚症状が目立つ場合には労作時のHRを記録してもらい、それに応じ、薬剤の用量調整をする方法もある。

・ガイドラインではRate controlとして、心機能低下例(LVEF<40%)では急性期においてはランジオロール静注(微量から漸増する)し、その後必要に応じてジゴキシン静注追加を提案されていて、慢性期(長期)においてはビソプロロール経口/貼付またはカルベジロール経口(少量から開始)で始め、その後必要に応じてジゴキシン経口追加を提案されている。一方で、心機能温存例(LVEF≧40%)ではビソプロロール経口/貼付、カルベジロール経口、ベラパミル経口、ジルチアゼム経口のいずれかを使用し、状況に応じて、その後に作用が異なる2剤を併用で使用することが提案されている。

<②抗凝固療法>

・抗凝固療法は塞栓症の予防を目的に行われる。通常、CHADS2 スコアによるリスク分類に基づいて決定される。本邦におけるCHADS2スコア別の補正年間脳梗塞発症率は0点から順に0.5%、0.9%、1.5%、2.7%、6.1%、13.9%、17.2%であった。通常、非弁膜症性心房細動(NVAF)で、CHADS2スコア≧1点であればDOACの使用が推奨され、ワルファリンも考慮可(年齢によらずINR 1.6~2.6)となっている。なお、中等度~重度の僧帽弁狭窄症を伴うAF、あるいは機械弁のケースではワルファリンの使用が推奨される(INR 2.0~3.0)。ここでは生体弁のケースはNVAFに含める

・出血リスクの評価としてはHAS-BLEDスコアの利用を行う。スコア別の補正年間大出血発症率は0点から5点以上の順に、1.13%、1.02%、1.88%、3.74%、8.70%、12.50%と報告されている。通常、3点以上で高リスクと称される。該当する項目のうち、高血圧などの可逆的な因子の修正に努めることが重要。

 <高齢(≧75歳)かつ腎機能障害を有するAF患者における抗凝固療法>

30≦CCr<50mL/minの腎機能障害患者に対して、抗凝固療法が推奨される(推奨クラスⅠ/エビデンスレベルA)。なお、ワルファリンよりもDOACの使用を優先する。

15≦CCr<30mL/minの腎機能障害患者に対して、DOAC(ダビガトラン以外)を用いた抗凝固療法を実施することを考慮することができる(Ⅱa/B)。

CCr<30mL/minかつ、非透析導入の末期腎機能障害患者に対して、ワルファリンを用いた抗凝固療法の実施を考慮してもよい(Ⅱb/C)。

維持透析患者に対してワルファリンを用いることは推奨されない(Ⅲ(No benefit)/B)。

 <超高齢かつ高出血リスクを有するAF患者における抗凝固療法>

承認用量での抗凝固薬の投与が困難な超高齢高出血リスク患者に対して、エドキサバン15mgを開始することが推奨される(Ⅰ/B)。

・ここでの「超高齢高出血リスク」とは80歳以上で、かつ次の①~⑤のいずれかに該当するケースを指す(①15≦CCr<30mL/min ②体重≦45kg ③重症部位での出血既往(脳出血を含む) ④NSAIDs常用 ⑤抗血小板薬の使用)。ただし、④, ⑤に関してはその必要性について、改めて吟味することがまず重要。

<③リズムコントロール>

自覚症状やQOLに及ぼす影響の程度、治療に伴うリスクなどを総合的に勘案して、Rhythm conrtolを行うかどうかを決定する。

・AFのRhythm controlを目的に除細動を実施することによる血栓塞栓のリスクは1~5%と報告されている。AFによる頻脈で循環動態が不安定な状態にある場合は直ちに除細動を行う(ただし48時間以上持続する場合はヘパリン静注下で行う)。また、循環動態が安定していて、迅速な除細動が必須でない場合において、48時間以上続くAFでは経食道心エコーで心房内血栓がないことを確認するか、あるいは抗凝固療法(DOAC≧3週間 or ワルファリン(目標INR到達後)≧3週間)を実施したうえで除細動を行うことが推奨されている。

・カテーテルアブレーション実施については自覚症状やQOLに及ぼす影響の程度、治療によるリスクなどを総合的に勘案して決定する。カテーテルアブレーションの選択肢は高齢などを理由のみで排除しないことが推奨されている。また、高齢者(≧80歳以上)の無症候性AFに対して、予後改善効果を期待してカテーテルアブレーションを実施しないことが推奨されている。

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<参考文献>

・Michaud GF, Stevenson WG. Atrial Fibrillation. N Engl J Med. 2021 Jan 28;384(4):353-361. doi: 10.1056/NEJMcp2023658. PMID: 33503344.

・2020年改訂版 不整脈薬物治療ガイドライン(2024年11月03日閲覧)

・2024年 JCS/JHRSガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療(2024年11月03日閲覧)

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