尿路結石 urolithiasis
尿路結石症とその疫学
・尿路結石症(urolithiasis)は先進国で有病率が増加傾向にある。
・尿路結石の生涯有病率は1~15%とされ、約11人に1人が生涯で経験すると考えられ、尿路結石と診断された患者の半数以上が5~10年のうちに再発することが知られている。
・本邦では年齢調整後の尿路結石発症率は1965~2005年におけるそれの2倍以上に増加していることが示されている。
・高血圧症、肥満、糖尿病などが併存することも少なくない。
リスク因子の聴取
・肥満、甲状腺機能亢進症、原発性副甲状腺機能亢進症、遠位尿細管性アシドーシス、高尿酸血症、2型糖尿病、吸収不良症候群などが尿路結石の発症の背景にある場合があるため、これらの疾患を示唆する病歴、検査所見がないかについて注意する。
・食生活の評価もときに重要。脱水、肉類の過剰摂取、カルシウム摂取不足、ナトリウム過剰摂取、果物/野菜の摂取不足、シュウ酸含有食物の過剰摂取はいずれも結石形成を促進させる可能性がある。
臨床検査
・高尿酸血症や尿pH低値(酸性尿)は尿酸結石の可能性を示唆する。また尿pH低値はシュウ酸カルシウム結石でもみられる。
・低カリウム血症、重炭酸低値、高クロール血症は遠位尿細管性アシドーシスをときに示唆し、リン酸カルシウム結石やシュウ酸カルシウム結石の可能性を高める。
・高カルシウム血症は原発性副甲状腺機能亢進症を示唆することがある。
・尿pH高値(アルカリ尿)ではリン酸カルシウム結石の可能性が想定される。
・尿路結石を繰り返す患者では代謝性疾患が背景に存在する可能性を考慮する。
画像検査
・X線撮影では尿酸結石、キサンチン結石は透過性が亢進するため、捉えにくい。ただし、X線撮影で捉えられる場合には画像フォローに有用かもしれない。
・サンゴ状結石は腎盂の大部分や腎杯を満たす結石であるが、尿路感染症と関連することがある。
・腎石灰化はときに解剖学的構造異常の存在(髄質海綿腎など)、代謝性疾患の存在(原発性副甲状腺機能亢進症、遠位尿細管性アシドーシスなど)を疑う契機となることがある。
非薬物治療
・尿路結石を予防するためには結石が形成されやすい素地を改善させることが重要で、そのためには薬物療法と食事療法が重要となる。
<循環血液量>
・尿路結石の予防において細胞外脱水を防ぐことは重要である。
・尿路結石を繰り返す患者199人について、2L/日以上の水分摂取を行う群と対照群とに区別されたRCTでは5年間の追跡を終えた時点で、介入群の再発率がより低く(12% vs 27%(P=0.008))、再発までの期間もより長いことが示された(39ヶ月 vs 25ヶ月(P=0.016))。
・大規模コホート研究ではコーヒー、紅茶、ビール、ワインは結石形成リスクを低減させる可能性が示唆されたが、一方で、砂糖入り飲料は結石形成リスクを高める可能性も示唆された。
・柑橘類の果物やジュースはクエン酸を含有するため、尿路結石のリスクを低減することが期待されていたが、複数の研究結果ではその効果は様々で統一的な見解は示されない。
<カルシウム>
・高カルシウム尿症は尿路結石の患者で比較的よくみられる検査異常で、シュウ酸カルシウム結石やリン酸カルシウム結石を生じさせる素地となる。
・カルシウム摂取とカルシウム含有結石の形成リスクとの関連性は複雑である。3つのコホート研究で共通して示されたことはカルシウム摂取量が多いと結石形成リスクが低下することであった。カルシウム摂取量と結石形成リスクの逆相関関係は60歳未満の男性では当てはまるものの、60歳以上の男性では当てはまらないことも示されている。なお、カルシウム摂取は乳製品由来と非乳製品由来とのいずれにおいても有効であることが知られている。なお、欧州泌尿器科学会(EAU)は再発性の尿路結石患者に対して、1日あたり1,000~1,200mgのカルシウム摂取を推奨している。
・現時点では食事性カルシウムは腸管内でシュウ酸と結合して、不溶性の複合体を形成し、そのまま便中に排泄されると考えられている。したがって、カルシウム摂取量が多いと、尿中へ移行するシュウ酸が減少し、ひいては結石形成が抑制される。
<シュウ酸>
・シュウ酸摂取量が減少することで結石リスクが低下するかどうかを評価した研究はない。
・ただし理論的には尿中シュウ酸濃度が高いケースでは結石リスクが高まると考えられるため、シュウ酸結石の患者ではシュウ酸含有食物の摂取を控えることが推奨される。
<クエン酸>
・尿中のクエン酸は尿中のカルシウムと結合し、カルシウム含有結石の形成を抑制することが知られている。
・クエン酸は尿をアルカリ化する作用を有し、酸性尿を改善する。
カルシウム含有結石に対する治療
<サイアザイド系利尿薬>
・サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管において直接的にカルシウム再吸収を促進させ、尿中カルシウム排泄量を減少させる。
・メタ解析ではプラセボ薬と比較してサイアザイド系利尿薬の使用により尿路結石の再発率を47%相対的に減少させることが示されている。
・EAUのガイドラインでは高カルシウム尿症を伴う、シュウ酸カルシウム結石およびリン酸カルシウム結石の患者に対してサイアザイド系利尿薬の使用を推奨している。
<クエン酸カリウム>
・RCTでクエン酸カリウムはカルシウム含有結石の再発率を低下させることが示されている。
・遠位尿細管性アシドーシスの患者では代謝性アシドーシスの改善に寄与する。
・クエン酸カリウムの主な副作用としては腹痛、下痢などが知られる。
<アロプリノール>
・高尿酸尿症はカルシウム含有結石患者の15~20%で認められる。
・アロプリノールは血中および尿中の尿酸濃度を低下させる。
・アロプリノールはRCTで、高カルシウム尿症および尿中カルシウム濃度正常値にある、カルシウム含有結石の再発率を低下させることが示されている。
・アロプリノールは通常、食事療法で改善が乏しい場合に使用される。最も注意すべき副作用は皮疹(SJSを含む)であり、他に肝障害などが挙げられる。
カルシウム非含有結石に対する治療
<尿酸結石に対する治療>
・尿酸結石は全尿路結石の6~10%を占め、通常、尿pH低値(酸性尿)となる。
・クエン酸カリウムは尿pHを上昇させるため(尿アルカリ化)、尿酸結石の予防に寄与すると考えられている。米国泌尿器学会(AUA)は尿酸結石に対する第一選択薬としてクエン酸カリウムを推奨している。なお、目標となる尿pHは6.0である。
<シスチン結石に対する治療>
・シスチン尿症は常染色体劣性遺伝を示し、シスチン、オルニチン、アルギニンなどの過剰な尿中排泄を特徴とする疾患である。
・シスチン尿症患者の第一の目標は尿中シスチン濃度を約250mg/L未満にまで低下させることである。そのためには十分な水分摂取が不可欠で、3L/日以上の尿量を確保できるだけの水分摂取が推奨される。
・薬物治療としてはチオプロニンが第一選択である。そのほかD-ペニシラミン、カプトプリルが選択肢に挙がる。
<ストルバイト結石に対する治療>
・ストルバイト結石はリン酸塩関連の結石で、ProteusやKlebsiellaなどのウレアーゼ産生菌が関与し得る。
・週~月単位で急速に増大し、サンゴ状結石になることがある。
・アルカリ尿(尿pH>7.2)がみられる。
・治療としては結石除去を行ったうえで、感染の再発予防を目的にした抗菌薬治療とが行われる。
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<参考文献>
・Morgan MS, Pearle MS. Medical management of renal stones. BMJ. 2016 Mar 14;352:i52. doi: 10.1136/bmj.i52. PMID: 26977089.