慢性閉塞性肺疾患 COPD: chronic obstructive pulmonary disease
慢性閉塞性肺疾患(COPD)とその疫学
・喫煙や大気汚染物質などに関する曝露と、遺伝的要因、社会的要因などの組合せによって発症する。
・2017年には慢性呼吸器疾患を有する患者数は約5億4500万人と推定され、そのうち約55%がCOPDと報告されている。
・COPDの発症には一般的に喫煙が関係する。非喫煙者では受動喫煙、職場での曝露、大気汚染物質、結核を含む過去の呼吸器感染症の既往歴がCOPD発症に寄与し、その進行を早める可能性がある。
・電子タバコという名称で知られる、電子ニコチン送達システム(ENDS: electronic nicotine device systems)も同様に呼吸器症状、呼吸機能低下を増加させることが示唆されている。なお、ENDSと紙巻きタバコとの併用はいずれか一方よりもさらにリスクが高まる。
・妊娠中あるいは幼児期における副流煙を含む有害物質への曝露も将来のCOPD発症と関連する。特に幼児期において、母親が喫煙者である場合には呼吸機能の発育に影響を及ぼすことが知られている。
・世界的にみれば、COPDの男性患者の52~54%、女性患者の19~24%が喫煙に起因して発症しているが、これは国によって差が大きいことも知られている。
・WHOの報告ではCOPDに起因する死亡者の90%は低中所得国に集中している。その差は地域ごとの喫煙率や医療への近接性、経済格差、気候など様々な要因によると考えられる。
・COPDには不安症、うつ病、心血管疾患、肺癌、骨粗鬆症などが併発することがある。
スクリーニング/診断
・無症状の方に対するスパイロメトリーによるスクリーニングには一般的に推奨されていない。ただし、進行性の呼吸困難、慢性咳嗽などの呼吸器症状があるケースや、COPDのリスク因子を有するケースでは実施を検討することができる。
・COPDの診断は自覚症状、リスク因子、スパイロメトリーで示される不可逆的な気流閉塞の存在などに基づいてなされる。不可逆的な気流閉塞の存在は気管支拡張薬使用後のFEV1/FVC比<70%であることをもって示される。
非薬物治療
・増悪予防/重症化予防のための方法にワクチン接種(例: インフルエンザウイルス, 肺炎球菌, SARS-CoV-2, 帯状疱疹)、禁煙、有害粒子への曝露回避が挙げられる。
・一部の患者では呼吸リハビテーションが重要。呼吸リハビリテーションは特に増悪後や運動制限を有する患者で有効。ただ、移動能力低下、交通手段、社会的孤立、費用面などが障壁となるケースもある。
・酸素投与(HOT利用)は重度の安静時低酸素血症(SpO2<88%)を伴うCOPD患者に対して推奨されている。2016年のLOTT trialでは中等度の安静時低酸素血症(SpO2 89~93%)および労作時低酸素血症(SpO2 81~89%)における酸素投与は死亡率、入院率、増悪頻度などの改善に寄与しないことが示された。
・NIPPVの使用はCOPD増悪時の呼吸不全に対して、挿管リスクおよび死亡率の減少、入院期間短縮に寄与することが示されている。
・気管支鏡的肺容量減量術(BLVR)はごく一部の患者において有用な可能性はあるが、その有益性は運動能力と自覚症状の改善に限られることが知られている。また、気管支鏡検査の侵襲性や気胸などの合併リスクなども鑑みて適応を慎重に検討する必要がある。
薬物治療
・2023 GOLDレポートではABE評価ツールの利用が提案された。
・まずはスパイロメトリーによる診断(吸入後にFEV1/FVC<70%)の後、気流閉塞の評価を行い、症状および増悪リスクの評価をGroup A, B, Eで示す方針が示されている。
・気流閉塞の評価は主にFEV1(%予測値)で行われ、GOLD 1(≧80)、GOLD 2(50~79)、GOLD 3(30~49)、GOLD 4(<30)で分けられる。
・症状および増悪リスクの評価に関わる”症状”についてはmMRCおよびCATを利用して評価を行う。”増悪リスク”については「直近1年間の増悪歴が0回または1回の中等度増悪(入院を要さない程度)」か、「直近1年間の増悪歴が2回以上の中等度増悪か、1回以上の入院を要する増悪」かで分けられる。「mMRC 0~1/CAT<10で、かつ0回または1回以上の中等度増悪」であればGroup Aに属し、「mMRC≧2/CAT≧10で、かつ0回または1回以上の中等度増悪」であればGropp Bに属す。それ以外のケースはGroup Eと評価されることとなる。
・Group Aでは長時間作用型気管支拡張薬(利用可能であれば通常はLAMA)の使用が推奨される。
・Group BおよびGroup Eでは初期治療の薬剤をLAMA+LABA併用療法とすることが推奨される。なお、Group Eに属し、かつ末梢血好酸球数≧300(治療強化後であれば≧100)の場合ではさらにICSを加えたTriple therapyが推奨されている。
・ICSを利用しているケースのうち、増悪リスクが低いと考えられる場合や、肺炎リスクなどが高いと考えられる場合ではICSの減量も検討可能。しかし、ICS使用下で末梢血好酸球数が持続的に上昇するケースでの減量は回避するべき。
・Triple therapyは特に末梢血好酸球数が高値の患者において、増悪リスク減少に寄与することが既に示されていて、死亡率低下にも寄与する可能性も示唆されている。末梢血好酸球数が低値のケースでの有効性に関しては現時点では不明瞭。
増悪予防を目的にした治療
・前述のように増悪予防/重症化予防のための方法にワクチン接種(例: インフルエンザウイルス, 肺炎球菌, SARS-CoV-2, 帯状疱疹)、禁煙、有害粒子への曝露回避が挙げられる。
・末梢血好酸球数高値のケースにおけるICS追加以外にも、AZMやロフルミラストの導入が選択肢として挙げられる。なお、ロフルミラストは2024年11月時点で本邦未承認。
・AZMは増悪頻度の減少、QOL改善に有効性があることを示されていて、サブグループ解析では過去に喫煙をしていた患者(Former smoker)においてより有効性が高いことが示唆されている。
・ロフルミラストは慢性気管支炎型の症状があり、増悪を頻回に繰り返すケースにおいて、増悪頻度を減少させることが示されている。
・非薬物療法としては呼吸リハビリテーションも増悪予防に有効とされる。
緩和ケア
・いわゆる終末期の状態に限らず、全ての病期のCOPD患者において緩和ケアは選択肢として挙げられる。
・有効な治療法としてオピオイド(特にモルヒネ)、送風療法が知られていて、低酸素血症がある場合には酸素投与で症状緩和につながることもある。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
<参考文献>
・Christenson SA, Smith BM, Bafadhel M, Putcha N. Chronic obstructive pulmonary disease. Lancet. 2022 Jun 11;399(10342):2227-2242. doi: 10.1016/S0140-6736(22)00470-6. Epub 2022 May 6. PMID: 35533707.
・Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease:Global Strategy for the Diagnosis, Management, and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease (2023 REPORT).