喘息増悪 asthma exacerbation
喘息増悪
・喘息増悪/喘息発作(asthma exacerbation)は進行性の呼吸困難、喘鳴、胸部圧迫感、咳嗽などの症状で診断される。
・喘鳴は喘息増悪のほかに、COPD増悪、急性心不全、声帯機能不全などでも確認されるため、鑑別が重要。
治療の一般的目標
・救急外来における喘息増悪のマネジメントでは①低酸素血症の是正 ②気流制限の回復 ③将来的な再発リスク軽減 の3つが目標となる。
・なかでも気流制限の回復に関しては、主にSABA吸入、早期の全身性ステロイド投与が有用。
・また重症の喘息増悪や呼吸不全に至るケースでは他の薬剤(例: 硫酸Mg静注)など選択肢として挙げられる。
・救急外来において肺機能検査をルーチンで行う必要はない。ただし、肺機能検査でFEV1<70%のケースは軽度の喘息発作と、<40%のケースは重度の喘息発作とみなせる一つの指標となる。70%超まで改善させられるかは、安全に帰宅できるかどうかの一つのラインとなる。
薬物治療
<SABA吸入>
・喘息増悪時における気管支拡張作用を有する治療の要はSABA吸入で、原則として全ての患者に適応となる。
・効果発現は速やかで(3~5分)、β2受容体を介して気管支平滑筋を弛緩させ、肥満細胞を安定化させる作用も有する。
・高用量の投与では頻脈、振戦、不安、(低酸素血症を伴わなくても)乳酸アシドーシスを副作用として発現することがある。
・治療反応性が不良であれば、20分ごとに繰り返し実施することが可能で、1時間で3回まで実施できる。
・コクランレビューではSABAのネブライザー投与とpMDI投与とではPEF、FEV1、入院率においていずれも有意な差が認められなかった。ただし、救急外来では特に年齢や精神症状、喘息の重症度によってはpMDIの使用が困難なケースもあるため、そういった場合にはネブライザーがより適していると考えられる。なお、ネブライザーの使用はエアロゾル拡散を招く可能性があり、特にCOVID-19流行下では注意が払われた。
・経口SABA製剤は有効性が低いことなどから使用が推奨されない。
<吸入抗コリン薬>
・特に重度の気流制限を有するケースにおいて、SABA治療に吸入抗コリン薬を追加すると入院リスクが減少し、気管支拡張作用もさらに強まることが示唆されている。このエビデンスは小児発症例においてより強いエビデンスがある。
・ただし、この有効性はあくまで重症の喘息増悪患者に限定してみられている点に留意するべきで、ルーチンでの実施は推奨されない。
<全身性ステロイド投与>
・全身性ステロイド投与は可能な限り速やかに実施されることが望ましく、炎症鎮火、分泌的による気流制限の改善において有効性が発揮される。
・メタ解析では早期の全身性ステロイド投与は入院リスクを有意に減少させ、重症度が高まるほどその効果が大きいことが示された。
・最適な用量、投与期間についてはコンセンサスが得られていない。
・6件のシステマティックレビューではいずれも用量は同一で、成人ではPSL 50mg/日 5~7日間、小児ではPSL 1~2mg/kg を3~5日間投与されていた。
・経口PSLと静注mPSLのBioavailabilityはほぼ同等であるが、ほとんどのケースで内服PSLが選択される。静注はあくまで重篤なケースや経口投与ができないケースのみに限定して選択するべきである。
重症の喘息増悪に関する治療
・前述のSABA吸入や全身性ステロイド投与がなされていることを前提としたうえで、それでも臨床症状に改善が乏しく、呼吸不全に進行するケースも一部存在する。そういったいわば重症の喘息増悪に対する対応に関してはエビデンスが十分とは言えない部分もあるものの、以下のような治療法が選択肢として挙げられる。
<硫酸マグネシウム>
・硫酸Mg静注は気管支平滑筋細胞へのCa流入を阻害することで、即効性の気管支拡張作用を発揮し、抗炎症作用も有する。メタ解析では硫酸Mg投与群では入院率が低い傾向にあり、PEF、FEV1を僅かながら改善することが示唆された。
・全ての研究が一貫して肯定的な結果を示しているわけでなく、ルーチンでの使用は推奨されない。
・なお、硫酸Mg吸入は有効性が認められていない。
<高用量ICS>
・ICSは喘息の長期管理薬(コントローラー)として重要な薬剤である。
・喘息増悪時の投与の有効性についてもいくつか検証されているが、現時点で有効性があるとは認められていない。
<ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)>
・LTRAは好酸球性気道炎症を抑える作用があり、SABA吸入などとは別個の作用機序を有する。
・LTRAも現時点で喘息増悪時の投与の有効性は認められていない。
人工換気
<NIPPV>
・非侵襲的陽圧換気(NIPPV: noninvasive positive pressure ventilation)は重症の喘息増悪を来しているが、直ちに気管挿管を必要としないケースで考慮される。
・COPD増悪に関する有効性については強いエビデンスがあるが、喘息増悪に関する有効性は不明瞭なままである。
・喘息増悪に対するNIPPVの有用性に関するエビデンスは様々であるが、短期間に限定して試すことは検討可能。もしもNIPPVで芳しくない経過をたどる場合には気管挿管と侵襲的機械換気の適応となる。
<侵襲的機械換気>
・機械換気の主なメリットは呼気性気流制限とAirtrappingに起因する肺過膨張のリスクを軽減しながら、十分な酸素化と換気を行えることである。
妊婦の喘息増悪
・妊娠第2~3期において喘息増悪のリスクが高くなることが知られる。
・喘息のコントロール不良は母体および胎児の合併症(自然流産、妊娠高血圧症候群、早産など)のリスク増加と関連する。また、コントロール不良な母体から生まれる児は乳児期に気管支炎、湿疹、喘鳴症状を呈する可能性が高いことも知られている。
・救急外来における妊婦の喘息増悪に関するマネジメントは、非妊婦における対応と実質的に違わない。
・妊娠中の全身性ステロイド投与は潜在的に早産や子癇前症などのリスクになる。しかし、前述のように妊婦がコントロール不良な喘息を抱えることに起因する種々のリスクよりは相対的に小さいと考えられている。したがって、妊婦の喘息増悪でも適応があれば全身性ステロイド投与を使用するべきである。
再発リスク軽減
・吸入/服薬アドヒアランスが不良な場合ではその重要性を改めて説明し理解してもらうことが重要。
・帰宅後の喘息増悪の再発は2週間以内に生じやすいため、適切なフォローアップ機会を設けておくことが望ましい。
・救急外来退室後(帰宅後と言い換えられるかもしれない)に、全身性ステロイド+ICS併用群と全身性ステロイド投与単独治療群とで比較した9件のRCTを利用したメタ解析では併用療法によって再発リスクは低下傾向にあることが示された(OR 0.68(95%CI: 0.46~1.02))。したがってICSを使用したことがない患者であっても、ICSの利用を開始することも検討される。
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<参考文献>
・Hasegawa K, Craig SS, Teach SJ, Camargo CA Jr. Management of Asthma Exacerbations in the Emergency Department. J Allergy Clin Immunol Pract. 2021 Jul;9(7):2599-2610. doi: 10.1016/j.jaip.2020.12.037. Epub 2020 Dec 31. PMID: 33387672.